2020年10月26日月曜日

『クックズ・ツアー』(アンソニー・ボーデイン)

 

『クックズ・ツアー』(アンソニー・ボーデイン)

『クックズ・ツアー』(アンソニー・ボーデイン)を読んだ。

 野性的なのに洗練されてもいるトップシェフが、世界中で喰いまくる。ポルトガルで豚の丸焼き、東京で高級寿司、ベトナムでフォー(「適切に調理されたフォーほど旨いものがあるだろうか」)、バスクも旨そう。「じゅうじゅう音を立てているソテーしたキノコの真ん中に卵の黄身が乗せられ、じわっと形を崩しつつある」。

 旨い料理は単に味のいい物体ではなく、背景をもちます。「自分たちのコミュニティとそこの料理文化、そして料理人たちに強い共感を寄せている場所では、たいてい旨い料理が食べられるものだ」。

2020年10月22日木曜日

『Q思考 シンプルな問いで本質をつかむ思考法』(ウォーレン・バーガー)

『Q思考 シンプルな問いで本質をつかむ思考法』(ウォーレン・バーガー)

『Q思考 シンプルな問いで本質をつかむ思考法』(ウォーレン・バーガー)を読んだ。

 答えよりも、問いのほうが重要です。例えばドラッカーは企業に助言するとき、何をすべきかの答えを示すのではなく、質問を投げかけ、どういう問いが重要かを明確にすることで実績をあげました。

 対して普通の専門家は、答えを与えるのが役割と思ってます。ちなみに私も思ってます。「どうしてあなたは自分が専門家より分かっていると思うのですか?」とか言い出しかねませんが、これへの返しは「確かに知っていることは少ない。だがその方がいいこともある」。専門家の答えだけでは新しい解決は生まれないのです。

2020年10月19日月曜日

『知性は死なない 平成の鬱をこえて』(與那覇潤)

『知性は死なない 平成の鬱をこえて』(與那覇潤)

 『知性は死なない 平成の鬱をこえて』(與那覇潤)を読んだ。

 著者の『中国化する日本』には感銘を受けましたが、著者はその後うつ病になっていたのでした。知的能力で生き、それを誇りとしてきた人が、その能力を失うとどうなるのか。知的能力とは何なのかを、深く考える本です。

 確かに個体ごとの能力差はある。しかし能力は、それが噛み合う環境(アフォーダンス)があって初めて働くもの。例えば医者は患者(や看護師や療養環境)があってはじめて成立する。汎用スキル、地頭などというのは事実を歪めている。能力は一人だけでは使えないもの、いわば共有財産なのです。

2020年10月14日水曜日

『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』(キャスリーン・フリン)

 

『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』(キャスリーン・フリン)

『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』(キャスリーン・フリン)を読んだ。

 私ここ数年、なぜか低温調理にハマってしまい、料理本を読むようになりました。本書曰く、料理できない、料理下手とかいうのは、そう思い込んでいるのが原因です。登場人物にも私にもうってつけの教えでした。料理は、基本を知って、あとはやればうまくなります。

 「残り物を最大限に利用する」スープがおいしそう。夏は冷たいスープ、冬は熱々のスープ。まず香りの出るものをソテーして、2時間煮込むだけ。残り物の骨と一緒に煮込むのがオススメ。そしていちばん大切なのは、煮込み時間です。ゆっくり煮込むこと。

2020年10月12日月曜日

『社会心理学講義 〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉』(小坂井敏晶)

『社会心理学講義 〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉』(小坂井敏晶)

 『社会心理学講義 〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉』(小坂井敏晶)を読んだ。

 超絶面白い。社会と個人とはどのような関係にあるか。問いが骨太すぎる。

 社会と個人が存在し、相互に影響する、では甘すぎます。例えば心理実験で我々は、強い被害を受けている人と弱い被害を受けている人を見ると、強い被害を受けた人を低く評価する傾向があります。これは単に無情だとか、認知バイアスだとかでは済まない。悪い人が悪い目に遭う、世界は概ね公正だ(公正世界仮説)、という心理がなければ、社会は成立しない。社会は個人から構成されますが、個人心理の底には社会があり、円環で一体なのです。

2020年10月9日金曜日

『ヒキコモリ漂流記』(山田ルイ53世)

 

『ヒキコモリ漂流記』(山田ルイ53世)

『ヒキコモリ漂流記』(山田ルイ53世)を読んだ。

 超面白い。笑える、泣ける、子育てと人生の参考になる。小学生のころ神童と言われた著者は、中高6年間を引きこもり。なんとか大検受けるもさらにダメ生活の後、一発屋芸人。経過ぜんぶ面白い。

 著者が引きこもりのインタビューを受けたとき、「あの6年は完全に無駄だった」と答えたら、嫌な顔をされました。「あの6年があったからこそ、今があります」が期待されているのです。しかし、それは違う。「何の取り柄もない人間が、ただ生きていても、責められることがない社会…それこそが正常だと僕は思うのだ」。

2020年10月7日水曜日

『流線形の考古学 速度・身体・会社・国家』(原克)

『流線形の考古学 速度・身体・会社・国家』(原克)


『流線形の考古学 速度・身体・会社・国家』(原克)を読んだ。

 流線形。かっこいい。そして未来的。流線形の列車がグッと来ます。しかし実は流線形には、ダークな面があったのです。

 ①流線形は、科学的に正しい。②流線形は、無駄がない。③流線形は表面的な飾りではなく、有機的一体でなければならない。どうですか、ちょっとキナ臭くなってきませんか。最も有名な流線形デザイナー、レイモンド・ローウィー曰く、「優生学的淘汰が進めば、かならずや美学的に正確な世代が誕生し、こうした〔流線形の〕衣裳もぴったりハマるようになるだろう」。ガチで優生学じゃないですか。

2020年10月6日火曜日

『ヴェルヌの『八十日間世界一周』に挑む 4万5千キロを競ったふたりの女性記者』(マシュー・グッドマン)

『ヴェルヌの『八十日間世界一周』に挑む 4万5千キロを競ったふたりの女性記者』(マシュー・グッドマン)

『ヴェルヌの『八十日間世界一周』に挑む 4万5千キロを競ったふたりの女性記者』(マシュー・グッドマン)を読んだ。

 超面白い。『八十日間世界一周』より速く、現実世界で世界一周することができるのか。これに挑んだ二人の女性記者は対極的でした。ネリー・ブライは野心的な行動派で、得意は潜入取材と暴露記事。かたやエリザベス・ビズランドは育ちが良く(ただし少女の頃に没落)、文学を愛し、得意は文芸コラムでした。

 19世紀末の世界各地で何が待ちうけるのか。嵐や大雪のなか80日に間に合うのか。いったい二人のどちらが勝つのか。そして、きつい男性社会の新聞業界で女性が活躍するとどうなるのか。うーん実に面白い。

2020年10月3日土曜日

『腕一本・巴里の横顔 藤田嗣治エッセイ選』(藤田嗣治)

『腕一本・巴里の横顔 藤田嗣治エッセイ選』(藤田嗣治)

『腕一本・巴里の横顔 藤田嗣治エッセイ選』(藤田嗣治)を読んだ。

 藤田が自らあかす絵の奥義は、「膚」と「黒」。パリで貧窮画家生活をしながら自分なりの絵を求めて苦闘し、辿りついた境地です。

 「膚」について、日本には西洋のような裸体画は存在しないものの、春信や歌麿が「僅かな脚部の一部とか膝の辺りの小部分をのぞかせて、飽までも膚の実感を描いているのだという点に思い当り、始めて肌というもっとも美しきマチエールを表現してみんと決意」したといいます(マチエールとは質感、材質的効果)。「黒」も、東洋人こそがその美しさと味わいを熟知しているというのです。

2020年9月28日月曜日

『アメリカ死にかけ物語 POSTCARDS FROM THE END OF AMERICA』(リン・ディン)

『アメリカ死にかけ物語 POSTCARDS FROM THE END OF AMERICA』(リン・ディン)

『アメリカ死にかけ物語 POSTCARDS FROM THE END OF AMERICA』(リン・ディン)を読んだ。

 アメリカめっちゃ終わってる。ドラッグに銃に殺人。失業して離婚してホームレス。治安がワーストなニュージャージー州カムデンでは、「俺がミシェルと話していた3時間くらい前に、3人の男が穴だらけにされた」。なのにカムデン財政は破綻して、「警察部隊全体を解雇した」。本書的な表現でいえば、「マジかよ?」

 ベトナム移民の貧困家庭に生まれた中年詩人がアメリカ中を旅して、バーで人の人生を聞く。その情景。川上未映子の解説には「美しい」とありますが、私が思うに、心の底から、ああ、終わってると。

2020年9月22日火曜日

『昭和の洋食 平成のカフェ飯 家庭料理の80年』(阿古真理)

 『昭和の洋食 平成のカフェ飯 家庭料理の80年』(阿古真理)


『昭和の洋食 平成のカフェ飯 家庭料理の80年』(阿古真理)を読んだ。

 面白い。というか面白怖い。家庭料理は他人事ではない。「もっと生活遊んじゃおう!」とPRする主婦向け雑誌Martについて、「ままごと料理」「子どもを育てているのに食に無頓着でいられるのは、他人事のように人生を送っているからである」。このインファイターぶり。恐ろしいわ。

 昭和前半に生まれた女性は、専業主婦になることが素晴らしいとされた時代で、新しいキッチンやメニューが次々紹介され、料理を覚える動機が揃っていました。だから料理を当然と思っています。今は違うことに気づかないのです。

2020年9月17日木曜日

『レトリック感覚』(佐藤信夫)

『レトリック感覚』(佐藤信夫)


『レトリック感覚』(佐藤信夫)を読んだ。

 超面白い。太宰治曰く、「ふと入口のほうを見ると、若い女のひとが、鳥の飛び立つ一瞬前のような感じで立って私を見ていた」。その比喩、わかる。けど、鳥の飛び立つ一瞬前を見たことありますか。『雪国』のヒロイン、「駒子の唇は美しい蛭の輪のように滑らかであった」。わかる。けど、蛭を見たことありますか。

 しかし、愛する人の唇を伝えたいとき、美しいと書いても、形を正確に描写しても、伝わりません。言葉は伝達に便利ではない。レトリックは飾りではなく、切実なことを正確に伝えるための本質なのです。

2020年9月15日火曜日

『日本のいちばん長い日』(半藤一利)

 『日本のいちばん長い日』(半藤一利)

『日本のいちばん長い日』(半藤一利)を読んだ。

 超面白い。敗戦日とその前日、皇居ではクーデター(宮城事件)が起きていました。若き陸軍部将校 畑中少佐らが、近衛第一師団長を殺害し、皇居を占拠して、本土決戦のため、玉音放送を阻止しようとしたのです。しかし未遂に終わり、畑中は自決。鈴木貫太郎首相の飄々とした肝の太さ、敗戦を遂行する内閣の辛苦など、24時間実録がスリリングです。

 絶対に負けを認めないぞ。そんなのは子どもの所行と、後世から言うのは簡単ですが…。浪漫主義はたやすく除霊できない。この本が面白いのが、まさにその証拠です。

2020年9月14日月曜日

『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』(フランス・ドゥ・ヴァール)

 『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』(フランス・ドゥ・ヴァール)

『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』(フランス・ドゥ・ヴァール)を読んだ。

 面白い。DNAでみると人とチンパンジーはほぼ同じで、独自の種を成すかも微妙なほどです。知力でみると人よりチンパンジーが上(の分野があります)。一瞬だけ現れて消える1から9までの数字を覚えて順にタッチするゲームや、相手の出方の予想が重要な対戦ゲームでは、人よりずっと優秀。さらにチンパンジーは計画し、協力し、贈賄し、笑います。計画するのは人だけではありません。

 人と動物の知は連続している。私の心は動物と共通している。そういう実感、原始時代にいるような実感を味わったことでした。

2020年9月12日土曜日

『「壁と卵」の現代中国論 リスク社会化する超大国とどう向き合うか』(梶谷懐)

『「壁と卵」の現代中国論 リスク社会化する超大国とどう向き合うか』(梶谷懐)

 『「壁と卵」の現代中国論 リスク社会化する超大国とどう向き合うか』(梶谷懐)を読んだ。

 昔、人の敵は自然でした。近代に至り、自然を克服したテクノロジーやシステムは、基本的には良いことのはずです。しかしテクノロジー等は、一部に害を与えることがあります。例えば公害や薬害です。このように人から生じるリスクの配分が問題となる社会(リスク社会)では、ある意味リスクを人が割り振るのですから、自由な異議申立と論議が重要です。

 ここで中国。中国はリスク社会に至っているのに、いまだに言論統制をしています。そのやり方、もうもたないでしょう。中国の深い認識が得られる本、お勧めです。

2020年9月9日水曜日

『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』(坂井豊貴)

『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』(坂井豊貴)

 『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』(坂井豊貴)を読んだ。

 面白い。2000年米国大統領選、当初世論調査ではゴア有利も、ラルフ・ネーダーが立候補してゴア票を喰い、ブッシュが当選しました。多数決は票の割れに弱い。また選択肢が複数だと、二番になりやすい穏当な主張よりも、嫌われても一番を目指す極端な主張が勝ちやすい。実際、欠陥制度ではないか。選択肢を順位づけして投票する(ボルダルール)なら、極端は敗れます。


 住民投票の工夫も出色。計画の実質確定後に住民意見を聞くセレモニーをするのでなく、しかも地域エゴや愉快票を避ける制度がありうるのです。

2020年9月7日月曜日

『新 人が学ぶということ 認知学習論からの視点』(今井むつみ、野島久雄、岡田浩之)

『新 人が学ぶということ 認知学習論からの視点』(今井むつみ、野島久雄、岡田浩之)

『新 人が学ぶということ 認知学習論からの視点』(今井むつみ、野島久雄、岡田浩之)を読んだ。

 超面白い。知識の獲得には、豊富化と再構造化があります。このうち学習の躓きとなるのは再構造化。再構造化のために、今持っている素朴理論を捨てるのが難しいのです。例えば、分数を理解するには、数=自然数という素朴理論を捨てなければなりません。また例えば、指で上へ弾かれたコインには、上がる途中の瞬間、上向きの力が働いていますか?「動いてるなら動いてる方へ力が働き続けてる」は素朴理論で、慣性の法則に反し、誤りです。

 いいね、再構造化。何もかも次々に再構造化して、まだ見ぬ世界へ行きたい。

2020年9月5日土曜日

『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』(ジョン・ロンソン)

『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』(ジョン・ロンソン)

『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』(ジョン・ロンソン)を読んだ。

 超面白い。ジャスティン・サッコは人種差別的ジョークを1回ツイートしました。これが半日後には世界一の大炎上、即日解雇され、名前を検索すれば顔写真と人格非難が延々と続き、今後一生涯、普通に就職や子育てをすることはできないでしょう。

 炎上は特殊な人の悪意のせいではない。逆です。普通の人の善意のせいです。悪い奴を懲らしめるのは当然? いや、その場の思いつき、ていうか本当は暇つぶしを、正義だと心理的に正当化しているだけでしょう? そして現実には、人の生涯を潰すのに荷担しているのです。

2020年9月2日水曜日

『貧困と自己責任の近世日本史』(木下光生)

『貧困と自己責任の近世日本史』(木下光生)

『貧困と自己責任の近世日本史』(木下光生)を読んだ。

 深い。面白い。貧困世帯への給付に対して冷酷な見方がされていますが、これは自己責任自己責任言う新自由主義者のせい、ではなく、日本はずーっと、施す側から施される側まで、自己責任の国だったのです。「施されるのは恥」という感覚があることは否定しようがない。ベーシックインカムが導入されるべきこの先において、きっと裏目に出ることでしょう。

 これは例えば英国でも同じなのですが、プロイセンや清など、公共救済に対して制裁が発動されない地域もありました。歴史を知れば、見えてくるものがあります。

2020年8月31日月曜日

『逸翁自叙伝 阪急創業者・小林一三の回想』(小林一三)

 『逸翁自叙伝 阪急創業者・小林一三の回想』(小林一三)


『逸翁自叙伝 阪急創業者・小林一三の回想』(小林一三)を読んだ。

 予想外、ちゃんとしてない。新卒入社しても行かない。新婚すぐ愛人と有馬温泉に泊って離婚、等々。宝塚歌劇は三越少年音楽隊との競争上の「イーヂーゴーイングから」「元来私は音痴である」。なんでそんなこと自伝に書くの。

 しかし彼の理想と事業こそが、中産階級を生みました。欧州旅行の感想に、「〔デモクラット発祥の地は〕さぞ大衆の芸術も盛んで立派であろうと考えて行って見ると、…芸術はブルジョワの手に独占され…、民衆のためには、単に富籤、犬のレース…。これで健全な大衆の成長があるだろうか」。


2020年8月27日木曜日

『隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働』

『隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働』(ルトガー・ブレグマン)

『隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働』(ルトガー・ブレグマン)を読んだ。

 超面白い。なんかもう、ベーシックインカム(無条件現金交付)と1日3時間労働しかありえないですよ。AIのせいで中間技能の職が激減する。格差が甚大になると失職不安や社会問題の増大で全員が苦しむ。既に、人類の供給力は全人類を食わせるに足りるんだから、だったら必要なのは、「今世紀のどこかで、生きていくには働かなければならないというドグマを捨てることだ」。

 現金交付は人を腐らせる? エビデンスに反します。ベーシックインカムが現に機能した事例が豊富にある。いや本当、これしかないですよ。

2020年8月24日月曜日

『モリー先生との火曜日』(ミッチ・アルボム)

『モリー先生との火曜日』(ミッチ・アルボム)
 

『モリー先生との火曜日』(ミッチ・アルボム)を読んだ。

 超面白い、超お勧め、読みやすい。社会学の教授モリー先生と、その元教え子で今は大忙しのスポーツコラムニストになった著者は、毎週火曜、二人だけで授業を行いました。ただし先生は筋萎縮性側索硬化症を発病し、死の床にあります。足から徐々に硬化していく中でも先生は知性に溢れ、家族、仕事、老い、死について話し合ったのです。


 人は死ぬ。死ぬ前になれば分かる。人生で重要なのは、業績なんかじゃない。「自分を許せ。人を許せ。待ってはいられないよ、ミッチ。誰もが私みたいに時間があるわけじゃない」。

2020年8月21日金曜日

『ハーバードの人生が変わる東洋哲学 悩めるエリートを熱狂させた超人気講義』(マイケル・ピュエット、クリスティーン・グロス=ロー)

『ハーバードの人生が変わる東洋哲学 悩めるエリートを熱狂させた超人気講義』(マイケル・ピュエット、クリスティーン・グロス=ロー)

『ハーバードの人生が変わる東洋哲学 悩めるエリートを熱狂させた超人気講義』(マイケル・ピュエット、クリスティーン・グロス=ロー)を読んだ。

 儒教老荘、面白い。孔子曰く、「祭ること在(いま)すが如くし、神を祭ること神在すが如くす」。つまり儀礼は「かのように」行う。

 孔子曰く、人間関係の本質は儀礼です。例えば、夫婦が愛している「かのように」言葉を交わしているとき、まさに、お互い愛しあっているのにほかなりません。逆にうまくいかない関係は、コミュニケーションがダメなパターンに嵌まっています。口うるさい母と反抗的な子というパターンとか。そんなときには、ダメでない「かのように」。ダメなパターンを打破することができるのです。

2020年8月12日水曜日

『犬将軍 綱吉は名君か暴君か』(ベアトリス・M・ボダルト=ベイリー)

『犬将軍 綱吉は名君か暴君か』(ベアトリス・M・ボダルト=ベイリー)

『犬将軍 綱吉は名君か暴君か』(ベアトリス・M・ボダルト=ベイリー)を読んだ。

 超面白い。綱吉のファンになること必定。綱吉の評判が悪いのは、武士に嫌われたから。武士に嫌われたのは、儒教的仁政を理想とし、庶民を重視したから。その庶民重視の根は、当時の武士では例外的に母の影響を強く受け、母は八百屋の娘だったからです。

 また綱吉は中央集権を志向しました。家柄より能力で登用し(柳沢吉保等)、西洋史ならルイ14世風の絶対君主を目指しました。生類憐れみの令は、鷹狩りの縮小で大名が捨てた等の野良犬が十万匹も群れる江戸で、五代将軍綱吉と戦国的武士との衝突だったのです。

2020年8月11日火曜日

『秋田蘭画の近代 小田野直武「不忍池図」を読む』(今橋理子)

『秋田蘭画の近代 小田野直武「不忍池図」を読む』(今橋理子)

『秋田蘭画の近代 小田野直武「不忍池図」を読む』(今橋理子)を読んだ。

 何か妙な迫力ある美しさ、秋田蘭画。その一派は、銅山開発のため秋田藩に招聘された平賀源内が、画才ある小野田直武を見出して始まりました。鎖国下の日本で束の間花開いた、極めて前衛的な芸術家集団だったといいます。

 不忍池の歴史(日本初の公共図書館を作った了翁道覚が強烈)、蘇東坡、南蘋派など話柄豊富です。眼鏡絵(遠近法のカラクリ絵)を論じ、さらに《不忍池図》は円筒から覗いて見るのが正しいとか言う。試してみると本当に遠近感が。おみそれしました。私の気のせいかもしれず、皆様も試されたし。

 

2020年8月6日木曜日

『私はすでに死んでいる ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳』(アニル・アナンサスワーミー)

『私はすでに死んでいる ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳』(アニル・アナンサスワーミー)

『私はすでに死んでいる ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳』(アニル・アナンサスワーミー)を読んだ。

 なぜ私は、私という意識をもっているのか。知りたい。その謎を本書は、自意識が失調する症候群から探っています。自分が死んだと思い込むコタール症候群、離人症、自閉症…。

 自意識について説得的ですが、むしろ患者の苦しみの記述が深いです。脳は恒常性維持のための器官、予測機能付きサーモスタットのようなものです。外界を観察し予測し、行動を制御します。しかし自閉症では予測がうまく働かないため、経験を毎回ゼロから受けとめることになります。「自閉症患者にとって、世界は悪い意味でマジックだ」と。

2020年8月2日日曜日

『科学革命の構造』(トーマス・クーン)

『科学革命の構造』(トーマス・クーン)

『科学革命の構造』(トーマス・クーン)を読んだ。

 パラダイム転換、面白い。読む前はポストモダン的というか、科学者は集団のルール内で考えるだけだ的な本かと思ってましたが、違いました。

 確かに、「チェスの問題を解こうと苦心する人は、チェスのルールについて考えない」としています。しかしむしろ、その解こうとする苦心、パラダイム内での通常科学こそを、科学の長所と評価しています。ルールの転覆(まさにコペルニクス)は外野からは目を引きますが、そもそも転覆が可能になるのは、つまり異常に気づくのは、通常科学による蓄積があるからこそなのです。

2020年7月30日木曜日

『コーヒー・ハウス 18世紀ロンドン、都市の生活史』(小林章夫)

『コーヒー・ハウス 18世紀ロンドン、都市の生活史』(小林章夫)

『コーヒー・ハウス 18世紀ロンドン、都市の生活史』(小林章夫)を読んだ。

 コーヒーハウスには、近代の幕開がありました。政治談義、文学談義、株価情報、初期ジャーナリズム(新聞雑誌)、貸本屋、読書会。さらに郵便、広告、保険(ロイズの前身)。果ては薬屋、科学実験、博物陳列(「エデンの園の扉の鍵」とか)まで。猥雑さが素晴らしい。

 初期のコーヒーハウスには、身分職業の区別なく、ぼろを着ていようと流行の衣裳で固めていようと、出入りできました。しかし「発展に伴って客層が固まっていくという現象が生まれ、これがコーヒー・ハウスの活気を失う一因になった」。なるほど。

2020年7月27日月曜日

『一科学史家の自伝』(中山茂)

『一科学史家の自伝』(中山茂)

『一科学史家の自伝』(中山茂)を読んだ。

 面白い。輸入学問を批判し、東大で排斥されて万年講師となり、退官記念パーティで罵倒されるに至る自伝が刺激的。科学史家ならではの視野の広さも出色です。

 「歴史家の視点からすれば、五年、十年先は頑張ればまだ技術日本を維持できるだろうが、一、二世代のうちにいずれアジアに移転され、格差がなくなっていくと思うのだが」とか、「僕は一般に近代医学の排他性が嫌いで、そのパラダイムでは心理的、生理的、薬理的な位相は決してすべてカバーできているわけではない」とか、さらっと言えるのが格好いいです。

2020年7月22日水曜日

『上達の法則 効率のよい努力を科学する』(岡本浩一)

『上達の法則 効率のよい努力を科学する』(岡本浩一)

『上達の法則 効率のよい努力を科学する』(岡本浩一)を読んだ。

 かなり面白い。スポーツ、演奏、将棋、武道、何でもいいから上達したくなること必定。例えば、中級者に上がるコツはまず得意技を見つけること等、私の数少ない上達経験からも納得です。

 上達の秘訣は、情報処理にあります。人が短時間内に処理できる情報は7つ程度にすぎませんが、ある技能、ある戦法、ある感覚を、ひとまとまりのもの(スキーマ)として自分の心内で把握できていれば、情報処理に余裕が生まれ、上のスキーマも見えてくる。上達巧者はスキーマ形成がうまい。メモで言語化を試みるのもお勧めです。

2020年7月20日月曜日

『科学から空想へ よみがえるフーリエ』(石井洋二郎)

『科学から空想へ よみがえるフーリエ』(石井洋二郎)

『科学から空想へ よみがえるフーリエ』(石井洋二郎)を読んだ。

 超絶面白い。フーリエは理想協同体を構想しましたが、それは修道院的でなく、情念を肯定しました。バルザック曰く「フーリエは情念を、人間を導き、ひいては社会を導く原動力と考えたが、これは確かにもっともなことであった」。なるほど。

 ではその情念とは。「創造は、男性である北極液と女性である南極液との交接によって行われる」「地球は創造の欲求に激しくかきたてられている。北極光〔オーロラ〕の頻発からそのことが知られる。北極光は惑星の発情の徴候であり、精液の無益な射出なのだ」。フ、フーリエ?

2020年7月14日火曜日

『世界を変える教室 ティーチ・フォー・アメリカの革命』(ウェンディ・コップ)

『世界を変える教室 ティーチ・フォー・アメリカの革命』(ウェンディ・コップ)

『世界を変える教室 ティーチ・フォー・アメリカの革命』(ウェンディ・コップ)を読んだ。

 アメリカン・ドリームを実現できない国、アメリカ。教育格差が酷すぎ、貧困に生まれると大学に入れないためです。著者はこれを、現実に打破しようとしたのです。

 著者が創始したティーチ・フォー・アメリカは、投資銀行に就職するような大学生を勧誘し、貧困地域の学校へ教師として2年間送り込みます(その後も教育分野に残る人も多い)。良い教師の人材獲得を徹底的に追求し、成績向上を厳しく要求します。貧困地域で通常の教育を実現しても足りない。本当の機会平等を実現するという、強い信念が溢れています。

2020年7月10日金曜日

『プログラムはなぜ動くのか 知っておきたいプログラミングの基礎知識』(矢沢久雄)

『プログラムはなぜ動くのか 知っておきたいプログラミングの基礎知識』(矢沢久雄)

『プログラムはなぜ動くのか 知っておきたいプログラミングの基礎知識』(矢沢久雄)を読んだ。

 皆さんご存じですか。パソコン、実は、物理的な存在だった。IC(ゲジゲジみたいなやつ)の足の1本1本のオンオフが、2進法の1桁を表すと。つまり8本足のICなら、オンオフで2の8乗=256通り表せると。これが8ビット=1バイトと。そんな物理的な。いやもちろん、知ってましたけど。

 CPUもメモリもICですが、CPUが演算したり、メモリがデータを格納したりする具体的なやり方(ぜんぶ2進法かつ物理的)が分かりやすい。いや、この本はいいですね! ブラックボックスが開く快感があります。

2020年7月3日金曜日

『クアトロ・ラガッツィ 天正少年使節と世界帝国』(若桑みどり)

『クアトロ・ラガッツィ 天正少年使節と世界帝国』(若桑みどり)

『クアトロ・ラガッツィ 天正少年使節と世界帝国』(若桑みどり)を読んだ。

 面白い。二十万人が参加した信長の馬揃え、インド的で夢幻的なキリスト教都市ゴア、少年使節が招待された絢爛たるローマ教皇即位式、全てが美しい。

 少年たちは希望を胸に世界へと旅立ちましたが、帰ってきたら国が閉じつつあった…。秀吉に気に入られるも司祭になるため断る伊東マンショ。学知を極めんと異境の地マカオで果てた原マルティーノ。神も仏も信じなくなった千々石ミゲル。激しい拷問により殉教する中浦ジュリアン。鎖国とは何か。帝国とは何か。宗教とは何かを考えさせる、強い衝迫力をもった本です。

2020年6月26日金曜日

『超巨大地震に迫る 日本列島で何が起きているのか』(大木聖子、纐纈一起)

『超巨大地震に迫る 日本列島で何が起きているのか』(大木聖子、纐纈一起)

『超巨大地震に迫る 日本列島で何が起きているのか』(大木聖子、纐纈一起)を読んだ。

 海溝型地震の「アスペリティモデル」の説明が分かりやすいです。ただ、このモデルの分かりやすさが、東日本地震を想定できなかった一因かもしれないとも。

 地震科学者である著者曰く、地震は予知できない。仙谷官房副長官の発言「日本海側などの原発はまず心配ないという結論が科学的にも出ており」は、「科学的」の誤用です。しかし、「科学の世界が『目安』として出した情報は、社会に出た瞬間に『科学的根拠』と名を変える〔…〕。これを情報の受け手だけの問題にせず、発信側の科学者こそよく認識すべきだ」。

2020年6月24日水曜日

『兼好法師 徒然草に記されなかった真実』(小川剛生)

『兼好法師 徒然草に記されなかった真実』(小川剛生)

『兼好法師 徒然草に記されなかった真実』(小川剛生)を読んだ。

 徒然草は京の是法法師を、「ただ明け暮れ念仏して、やすらかに世を過ぐす有様、いとあらまほし」としますが、実は是法は敏腕の金融業者(土倉)。兼好もそれは当然承知で、さらに兼好も複数の不動産を所有し(史料あり)、不動産取引に慣れていたのです。イメージが違う。というか、いとあらまほしいのはそっちかよ、という。

 本書曰く、兼好は公家ではなく、六波羅探題北条貞顕の広義の被官で、出家後は公家と武家との橋渡しをしていたとか。公家どころか吉田姓も、歴史歪曲常習の吉田兼倶による捏造。驚きです。

2020年6月22日月曜日

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(ユヴァル・ノア・ハラリ)

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(ユヴァル・ノア・ハラリ)

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(ユヴァル・ノア・ハラリ)を読んだ。

 べらぼうに面白い。スケールが大きい。あらゆる革命や思想を相対化。上から目線をさらに超えた、神から目線です。読了するとしばらくの間なにを聞いても、「人類全体の歴史から見れば、小さい小さい」と思えるという効果あり。神から目線、あなたも手に入れてみませんか?

 後半の「幸福」の検討は比類がありません。著者はどんな理念体系へも超上から目線ですが、そんななか唯一、幸福のために有望視している考え方があります。それは原始仏教。これを読んで私は思いました。とうとう来た。やっぱり原始仏教だと。

2020年6月20日土曜日

『コルシア書店の仲間たち』(須賀敦子)

『コルシア書店の仲間たち』(須賀敦子)

『コルシア書店の仲間たち』(須賀敦子)を読んだ。

 深い情感を呼ぶエッセイ。ミラノの、教会の片隅にありながら「せまいキリスト教の殻にとじこもらないで、人間のことばを話す『場』を作ろう」と創立された本屋の物語です。

 精力的でカリスマある創立者ダヴィデ神父をはじめ、仲間たちが個性的でおもしろいですが、なぜか滅びの予感のようなものが、全篇の底に響いているようです。仲間たちは、日常や病いのために離れていきます。「人それぞれ自分自身の孤独を確立しない限り、人生は始まらないということを、すくなくとも私は、ながいこと理解できないでいた」。

2020年6月19日金曜日

『ねこはすごい』(山根明弘)

『ねこはすごい』(山根明弘)

『ねこはすごい』(山根明弘)を読んだ。

 読みやすくて幅広くて面白い。そして言いたい。かわいいんじゃなくて、凄いと。

 ねこの牙は、なぜあんなに細長くて尖っているのでしょうか? それは、獲物の頚椎の隙間に突き刺して、脊髄を瞬時に切断するためです。ねこの眼は、なぜあんなに光るのでしょうか? それは、網膜の後ろのタペタム(輝板)層で光を反射させて網膜を2回刺激し、暗闇でも狩りをするためです。ねこはハンター。そしてねこは美しい。機能美と言ってよいでしょう。本書曰く、ねこを近くで見ると、眼の中の虹彩が、宝石のように美しいと。

2020年6月16日火曜日

『スティグリッツのラーニング・ソサイエティ 生産性を上昇させる社会』(ジョセフ・E・スティグリッツ、ブルース・C・グリーンウォルド)


『スティグリッツのラーニング・ソサイエティ 生産性を上昇させる社会』(ジョセフ・E・スティグリッツ、ブルース・C・グリーンウォルド)

『スティグリッツのラーニング・ソサイエティ 生産性を上昇させる社会』(ジョセフ・E・スティグリッツ、ブルース・C・グリーンウォルド)を読んだ。

 超面白い。ここ二百年で人類の暮らしが格段に良くなったのは、ラーニングのおかげ。特に職場での着実な改善のおかげです。

 自由市場は理論上、世界の富を最大化しないとの指摘が刺激的。リカードの比較優位説は、各国が国内で最も得意な分野に注力したうえ自由貿易すれば世界の富が最大になるとしますが、これが本当なら、米国も日本も韓国もずっと農業国だった方が世界の富が多かったのか。これはラーニングを無視した立論です。工業はラーニングが生じやすいため、ある種の工業保護は、世界の富を増やすのです。

2020年6月9日火曜日

『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』(ジョシュア・フォア)

『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』(ジョシュア・フォア)

『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』(ジョシュア・フォア)を読んだ。

 超面白い。登場人物、展開、理論どれも見事。記憶力は才能だけではありません。例えば、秀才でも野球のルールを知らなければ、凡人の野球好きより、試合展開を覚えられません。つまり記憶力は、思考枠組みと訓練によるのです。あるいは、知識と知恵は鶏と卵。もっと覚えればもっと知り、より知ればより覚えるという。

 ちなみに最近毎週日曜、長男と妻と百人一首暗記対決をやってみたら、百首全て暗記できました! ですので次にお会いしたときには、私に下の句を、聞かないでください。そっとしておいてください。

2020年6月8日月曜日

『鮭鱸鱈鮪 食べる魚の未来 最後に残った天然食料資源と養殖漁業への提言』(ポール・グリーンバーグ)

『鮭鱸鱈鮪 食べる魚の未来 最後に残った天然食料資源と養殖漁業への提言』(ポール・グリーンバーグ)

『鮭鱸鱈鮪 食べる魚の未来 最後に残った天然食料資源と養殖漁業への提言』(ポール・グリーンバーグ)を読んだ。

 ああ天然の鮭鱸鱈鮪。旨い。しかしその漁の持続可能性は、努力にもかかわらず厳しいです。そこで養殖。お勧めは混合養殖、養殖環境の中で生態系のバランスを取るものです。例えば中国では昔から、鯉の養殖は養蚕とセットでした。桑を蚕が食べ、蚕を鯉が食べ、鯉の糞が桑の肥料になるという寸法です。

 養殖向け魚種の探究も重要です。例えばバラマンディ(熱帯域の巨大魚)は、植物食だけでも育つため、飼料効率がよく汚染も少ない。トラ(ベトナムの鯰)は驚くべき繁殖力で、面積あたり鱈の50倍も養殖できます。

2020年6月6日土曜日

『生物から見た世界』(ヤーコプ・フォン・ユクスキュル)

『生物から見た世界』(ヤーコプ・フォン・ユクスキュル)

『生物から見た世界』(ヤーコプ・フォン・ユクスキュル)を読んだ。

 マダニから見た世界はこんな感じ。マダニは木の枝にいて、酪酸の匂いがすると枝から落ち、哺乳類の体温がすれば吸血します。数年間でも酪酸の匂いをただ待ちます。つまりマダニは、人間とは違う時間にいる。

 生物は、棲む世界(環世界)と一体です。環世界で標識となることが生じると、生物はそれを知覚し、運動し、運動により環世界が変化し、さらに標識となることが生じる。生物と環世界はループとして一体です。この世にあるのは生物の数だけの環世界。そして客観的世界は、永遠に認識されえないというのです。

2020年6月2日火曜日

『危険社会 新しい近代への道』(ウルリヒ・ベック)

『危険社会 新しい近代への道』(ウルリヒ・ベック)

『危険社会 新しい近代への道』(ウルリヒ・ベック)を読んだ。

 原子炉や化学物質など、新しい危険を論ずるもの。名著とされますが、解答を与える類ではありません。

 科学は再現可能性と厳密性が身上ですから、良い科学であればあるほど分からないことが増えるはずです。社会的判断は、再現不能なうえ価値観が入ります。よって、科学に社会的判断を背負わせると、「原子炉の安全性に関する研究は、扱える安全性だけを相手にしている」ということになる。本書は断ずるに、科学と社会的判断は、相性が合わないのではなく、対立する。その上で、社会的判断で決すべきというのです。

2020年6月1日月曜日

『紅茶スパイ 英国人プラントハンター中国をゆく』(サラ・ローズ)

『紅茶スパイ 英国人プラントハンター中国をゆく』(サラ・ローズ)

 英国は二百年も紅茶を愛飲していましたが、紅茶の製法は中国の秘密で、英国は大赤字。そこでインドで阿片を栽培して輸出し、阿片戦争にも勝って大黒字。しかし、捨て鉢の中国が自ら阿片を栽培しはじめそうなので、その前に紅茶を盗み出そうというのです。茶の秘密を求めるタフな奥地紀行が面白い。

 植物を渡航に耐えさせるガラス器の工夫で、世界の植生まで変えてしまう。インドのダージリンは茶が持ち込まれて数十年で、質量価格とも中国の茶産業を凌駕した。グローバル経済は百五十年前から凄まじかったのです。

2020年5月28日木曜日

『人間になるための芸術と技術 ヒューマニティーズからのアプローチ』(小野俊太郎)

『人間になるための芸術と技術 ヒューマニティーズからのアプローチ』(小野俊太郎)

『人間になるための芸術と技術 ヒューマニティーズからのアプローチ』(小野俊太郎)を読んだ。

 人文学は絶滅危惧種らしいですが、しかし人文学は役に立つ。教養の尺度とか、無用の用とか、そういうんじゃなくて、本当に役に立つんだ、という主張です。私見によれば、人は苦しい主張でもしなければならないことがある。

 我々の前に現に生じる状況には、再現性などなく、実験などありえません。また言語は、字義どおりの理解ではすまない性質を持ちます。その中で決断するなら、メタファーでやるしかない。メタファーや、複数の読みのどれがいいかを扱う人文学こそが、むしろ最も実践的といえるのです。本当か。

2020年5月26日火曜日

『読書の歴史 あるいは読者の歴史』(アルベルト・マングェル)

『読書の歴史 あるいは読者の歴史』(アルベルト・マングェル)

『読書の歴史 あるいは読者の歴史』(アルベルト・マングェル)を読んだ。

 ただの通史ではない。黙読の歴史、蔵書収集の歴史、図書分類の歴史など、お好きな方にはたまらない渉猟ぶり。古今東西、異様に博識です。

 例えば朗読会の歴史。古代ローマでは頻繁に開催され、自作の出版への第一歩になっていました。朗読を聞かない客に怒り、出版で名が売れたと喜ぶ小プリニウスが、わりとかわいいです。近代英国、朗読会の花形はディケンズで、演技や感情に頼らずに想像を喚起させる巧者だったとか。キューバは独立前夜、工場労働者に朗読会が広まるも、団結を恐れた政府はこれを弾圧しました。

2020年5月21日木曜日

『ダーティ・シークレット タックス・ヘイブンが経済を破壊する』(リチャード・マーフィー)

『ダーティ・シークレット タックス・ヘイブンが経済を破壊する』(リチャード・マーフィー)

『ダーティ・シークレット タックス・ヘイブンが経済を破壊する』(リチャード・マーフィー)を読んだ。

 タックス・ヘイブンに関わる専門家は「全て合法に行っています」と言い、にわかに信じがたいわけですが、本書曰く、合法違法など実は大した問題ではない。秘密主義こそが問題なのです。

 経済学者はどんなに右寄りでも市場が働くには情報開示が必須としています。秘匿は市場を毀損し、経済を破壊します。

 法人にプライバシーなど大した問題ではない。法人は法人名義の財産の限度でしか責任を負わないのに、財産収支も隠すのは、責任と釣り合わず、信用の対象がなくなります。秘匿は信用を縮小し、経済を破壊します。

2020年5月20日水曜日

『人生最後のご馳走 淀川キリスト教病院ホスピス・こどもホスピス病院のリクエスト食』(青山ゆみこ)

『人生最後のご馳走 淀川キリスト教病院ホスピス・こどもホスピス病院のリクエスト食』(青山ゆみこ)

『人生最後のご馳走 淀川キリスト教病院ホスピス・こどもホスピス病院のリクエスト食』(青山ゆみこ)を読んだ。

 表題のホスピスでは、週1回、食べたい献立をリクエストできます。末期がん患者の、食と人生のインタビュー集です。どんな人生にも物語があることがわかります。仕事で成功しようと、普通に過ごそうと、死期が近づけば同じようなもの。

 「小さい頃からずっと働きづめだったから、こんなにゆっくりさせてもらう日が来るなんて夢にも思ってなかったわ。さっきも娘たちが顔をマッサージしてくれてね、気持ちよかったわ。極楽。こんなにようしてくれて…。ほんとうにありがたいね。」泣くよりも、むしろ癒されました。

2020年5月15日金曜日

『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット)

『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット)

『LIFE SHIFT 100年時代の人生戦略』(リンダ・グラットン、アンドリュー・スコット)を読んだ。

 統計からの予測によれば、寿命は100年に延びるでしょう。そうなったらどうなるか。学習して、仕事して、引退するという三段階は崩れるでしょう。若い頃の勉強で一生をもたせるのが難しくなるためです。定年後も長すぎますし。

 「変身資産」が面白い。人生が長ければ、一度くらいは大変革に直面するでしょう。活動する分野を変えたり、学習に戻ることもあるでしょう。そのとき、自分にとって本当に大切なのは何か、得意なのは何かを理解していることは財産なのです。自分の人生を遠景から見たい時、お勧めです。

2020年5月11日月曜日

『南方熊楠 複眼の学問構想』(松居竜五)

『南方熊楠 複眼の学問構想』

『南方熊楠 複眼の学問構想』(松居竜五)を読んだ。

 面白い。熊楠の奇人ぶりが凄い。いつも裸、男色、ナナフシの交尾を熱心に観察しすぎてその精液が眼に入り七転八倒、といった有様がナイス。しかしやっぱり、学問こそ素晴らしいです。明治人なのにダーウィンの衝撃と正面から取り組み、膨大な古今東西多言語文献を読み込み、フィールドワークもたっぷり。

 民俗も、森も、複数の因果関係のもとに形成されている。一つの因果の流れが分かっても捉えきれない。複数の因果が影響すると反応は錯雑する。まさに曼荼羅。熊楠が言うからこそ、異様な説得力を持つのです。

2020年5月9日土曜日

読書会紹介


大阪で新書の読書会を始めました。 

新書好きな方、参加募集中です!  

雰囲気は、なごやかでざっくばらんです。
参加者は、会社員・主婦・学生の方々です。人数は毎回8名程度です。  

テーマについて深く、かつ多様に考えることのできる読書会としたいです。  

【進め方】
奇数回と偶数回で異なります。

奇数回は、参加者それぞれがおすすめの新書を紹介する、紹介型の読書会です。ビブリオバトルのルールに従ってやってます。発表でも投票のみでも参加可能です。ビブリオバトルについてはこちら

偶数回は、前回紹介された本の中から選ばれた1冊をみんなで読む、課題本型の読書会。読んで感銘を受けたページを指摘しながら、自分の読みを概ね5分ずつ語る(短くても可、パスも可)、というような形でやってます。

【今までのテーマ】
第1、2回のテーマは「情報」
第1回で発表された本は、
 『太平洋戦争日本語諜報戦』(武田珂代子、ちくま新書)
 『未来をつくる図書館』(菅谷明子、岩波新書)
 『流言のメディア史』(佐藤卓己、岩波新書)
 『脳が壊れた』(鈴木大介、新潮新書)
 『アリストテレス入門』(山口義久、ちくま新書)
第2回の課題本は、第1回で「最も読みたくなった本」を獲得した、
 『未来をつくる図書館 ニューヨークからの報告』

第3、4回のテーマは「労働」
第3回で発表された本は、
 『勤勉は美徳か?』(大内伸哉、光文社新書)
 『隠された奴隷制』(植村邦彦、集英社新書)
 『なぜ、残業はなくならないのか』(常見陽平、祥伝社新書)
 『空気の検閲 大日本帝国の表現規制』(辻田真佐憲、光文社新書)
 『新しい労働社会 雇用システムの再構築へ』(濱口桂一郎、岩波新書)
第4回目の課題本は、第3回で「最も読みたくなった本」を獲得した、
 『勤勉は美徳か? 幸福に働き、生きるヒント』

第5、6回のテーマは「医療」
 第6回の課題本は、『心病める人たち 開かれた精神医療へ』(石川信義、岩波新書)

第7,8回のテーマは「人文」
 第8回の課題本は、『グロテスクな教養』(高田里惠子、ちくま新書)

【主催者】
私、連鎖堂です。よろしくお願いします。
普段は弁護士をしています。平日が殺伐としているので、週末の読書会は落ち着いたものにするよう努めてます。

【詳細】
日程 次回は、2020年11月1日(日) 午前10時から13時30分まで
場所 レンタルスペース・ソラニワビル
地下鉄中崎町駅から徒歩3分、阪急梅田駅から徒歩10分
参加費 会場費と昼食(軽食)費とで合計2000円
課題本 『グロテスクな教養』(高田里惠子、ちくま新書)

【参加方法】
tatsuya_wakitaアットyahoo.co.jp
まで、メールください。ぜひお気軽にどうぞ!