2020年12月28日月曜日

『レトリックと人生』(ジョージ・レイコフ、マーク・ジョンソン)

『レトリックと人生』(ジョージ・レイコフ、マーク・ジョンソン)

『レトリックと人生』(ジョージ・レイコフ、マーク・ジョンソン)を読んだ。

 我々の思考は、全部レトリックです。難しい抽象概念も、身の回りの比喩から積み上げていって理解しているのです。例えば、論理は食べ物。論理を味わい、咀嚼し、消化し、あるいは口に合わず、アレルギーを起こす。また例えば、議論は戦い。論陣を張り、不意打ちしたり、罠を仕掛けたり、丁々発止と渡り合ったり。

 また我々は、新しい比喩を創り出すこともできます。それは物事を新しい側面から眺めること。新しい比喩が概念体系に入り込めば、行動も変わる。つまり新しい比喩は、新しい現実の創造でもあるのです。

2020年12月24日木曜日

『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』(レイ・カーツワイル)

『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』(レイ・カーツワイル)

『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』(レイ・カーツワイル)を読んだ。

 面白い。ていうか面白すぎる。いいですか、我々の千倍も兆倍も頭がいいAIが、2045年には誕生する! いや、その「頭がいい」って何ですか? そりゃ人間を兆倍も優秀にしたものですよ! ちょっ、ちょっと待ってください。

 コンピュータの処理速度も、脳スキャン装置の解像度も、倍々ゲームで進化しています。もはや脳の複雑さは処理可能な範囲です。だったら脳をリバースエンジニアリングして、クロック数は兆倍じゃい。そして我々はナノテクノロジーで銀河系を制覇する。本当にそう書いてあるんです。

2020年12月23日水曜日

『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』(笹原和俊)

『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』(笹原和俊)

『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』(笹原和俊)を読んだ。

 いいね!を押せば、性格が漏れ出す。いいねが150個あれば、性格(ビッグファイブ因子)を家族と同じくらい正確に予測できます。いいね千回超? もはやあなたを一番知ってるのはfacebook。

 ソーシャルメディアは情報の質よりも、クリック数やシェア数など広告収入につながるものを高く評価する仕組みになっています。しかし、「ユーザは個人情報を差し出し、プラットフォームはターゲティング広告で儲けるというビジネスモデルが、情報生態系の持続的発展に利するのかどうか考え直す時期にきている」

2020年12月22日火曜日

『人間知性研究』(デイヴィッド・ヒューム、斎藤繁雄・一ノ瀬正樹訳)

『人間知性研究』(デイヴィッド・ヒューム、斎藤繁雄・一ノ瀬正樹訳)

『人間知性研究』(デイヴィッド・ヒューム、斎藤繁雄・一ノ瀬正樹訳)を読んだ。

 前から読みたかったヒュームに挑戦してみた。さすが古典、自分の頭で考えるのはこういうことかと思ったことでした。一ノ瀬正樹解説も面白いです。

 ヒュームによれば、知識は、アプリオリな理論によって得られるのではありません。ある出来事に続いていつも別のある出来事が生じる(恒常的な連接)のを見いだすという経験によって得られます。しかもこれは一種の自然的本能であって、人間に特別なものではない。ヒューム曰く、犬も知識を有する。理性も自然の一種であって、何か別の抽象世界の産物ではないのです。

2020年12月18日金曜日

『ヘイト・スピーチという危害』(ジェレミー・ウォルドロン)

『ヘイト・スピーチという危害』(ジェレミー・ウォルドロン)

『ヘイト・スピーチという危害』(ジェレミー・ウォルドロン)を読んだ。

 令和の記念に、川岸令和(のりかず)教授の訳書に挑戦。ヘイトスピーチの法規制に賛成するものです。

 ヘイトスピーチ規制は、米国では違憲の意見が強い。人を説得するのを法で禁じてはならないのです。少数派を寄生虫だとか言う人は、まさに人々をそう説得したいわけで、法で禁圧してよいのか。本書が誠実に示す反対意見には、強い説得力と整合性がある。賛成の論拠は「公共的地位が奪われないと安心できることは公共財」ですが、やや曖昧。なのに著者の主張に説得される不思議な構成です。ぜひ自ら体験されたし。

2020年12月17日木曜日

『記憶術全史 ムネモシュネの饗宴』(桑木野幸司)

『記憶術全史 ムネモシュネの饗宴』(桑木野幸司)

『記憶術全史 ムネモシュネの饗宴』(桑木野幸司)を読んだ。

 今、暗記がマイブーム。読んだ本を暗記すると、私の中に、知識の連環の樹が育っていくような快感があるのです。

 そこで本書です。ギリシアに始まる記憶術は、脳内に建物を立ち上げ、部屋等ごとに覚えたいことのイメージを配置し、仮想的に建物に入っていって思い出すものです。こうしていけば、得た知識を配置した記憶の都市と共に、「知を丁寧にかみしめ、いつくしむ人生を歩むことになる」。「データを次から次に消費しては、何ら心に留めることなく捨てていく現代人と、どちらが『知恵を愛する者』だろうか」。

2020年12月9日水曜日

『旧約聖書の誕生』(加藤隆)

『旧約聖書の誕生』(加藤隆)

『旧約聖書の誕生』(加藤隆)を読んだ。

 キリスト教、ユダヤ教は特異な宗教です。なんとご利益がないのです。

 古代では民族の戦いは神の戦いでもあり、民族が負ければその民族の神も捨てられ消えるのが普通でした。ところがユダヤ民族では、南北王国のうちまず北王国のみが滅亡したため、ヤーヴェが捨てられませんでした。そして神が守ってくれなかったのは、神の力が足りなかったのではなく、民に罪があったためである、とされました。その結果、「神の意が分からなくとも、どんなに悲惨な状態になっても、神を捨ててはならない」となったのです。

2020年12月7日月曜日

『経済史 いまを知り、未来を生きるために』(小野塚知二)

『経済史 いまを知り、未来を生きるために』(小野塚知二)

 『経済史 いまを知り、未来を生きるために』(小野塚知二)を読んだ。

 超面白い。中世では価格は常に一定でした。ではいったい、どこから資本主義が現れたのでしょう。王様と商人? 職人ギルド? 都市市場? ブー。正解は農村。奢侈品は余剰を分配するだけで生産力を上げませんし、ギルドや市場では他の構成員より多く儲ける奴は排除されました。目立たずに少しずつ効率化することができた農村内商工業こそが、生産力を上げたのです。

 設計されたユートピアや伝統復古は、実現できたことがありません。理念やニュースなんて重要じゃない。目立たない日常こそが歴史を変えるのです。

2020年11月26日木曜日

『完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者』(マーシャ・ガッセン)

『完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者』(マーシャ・ガッセン)

『完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者』(マーシャ・ガッセン)を読んだ。

 超面白い。数学の記念碑的難問「ポアンカレ予想」には、賞金1億円がかけられました。それを辛苦のすえ証明したペレルマンは、しかし賞金もフィールズ賞も拒絶し、隠遁してしまいました。なぜ。

 「我々の社会でエリート教育は許されない」という旧ソ連に、奇跡的に残された数学アカデミーで育ち、数学の純粋さを信じるペレルマンには、数学と金や賞は、結びついてはならないものだったのです。数学は数学のためにある。この世で数人しか理解できなくても、正しい数学は正しい。分かりやすいなんて、低俗なことだ。

2020年11月24日火曜日

『操られる民主主義 デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか』(ジェイミー・バートレット)

『操られる民主主義 デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか』(ジェイミー・バートレット)


『操られる民主主義 デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか』(ジェイミー・バートレット)を読んだ。

 超面白い。2017年米国でロビー活動に最も金を出したのはどの会社? トランプのSNS選挙対策室でケンブリッジ・アナリティカ(個人情報を使う選挙コンサル)と協働したのはどの会社? 答えはGoogle。昔ならプロパガンダと呼ばれた手法をテックで洗練し、時価総額は50兆円を超え、もう既に、権力なのです。

 しかしテック企業は自分を権力側と思っていません。それは彼らの「カリフォルニアン・イデオロギー」。つまりテックの本質は人を解放すると信じているからです。そろそろ無理があるでしょう。

2020年11月20日金曜日

『世界を変えた手紙 パスカル、フェルマーと〈確率〉の誕生』(キース・デブリン)

『世界を変えた手紙 パスカル、フェルマーと〈確率〉の誕生』(キース・デブリン)

 『世界を変えた手紙 パスカル、フェルマーと〈確率〉の誕生』(キース・デブリン)を読んだ。

 確率とは何か。本書で初めて分かりました。

 サイコロ的な確率は直感的に分かりますが、「勝訴する確率」とか、「離婚する確率」とか、一回きりしか起こらないことの「確率」って何でしょうか。それは、無知の定量化(質的にしか表せなさそうなことを数量で表そうとすること)なのです。明日に何が起こるのかは知りえないとしても、何が起こりそうかを定量化しようとすることは可能です。そしてそれを信頼するかは、数学の問題ではなく、どれだけ過去を未来の兆しとして受け取ってよいと考えるかの問題なのです。

2020年11月16日月曜日

『ゴッホの耳 天才画家最大の謎』(バーナデット・マーフィー)

『ゴッホの耳 天才画家最大の謎』(バーナデット・マーフィー)

『ゴッホの耳 天才画家最大の謎』(バーナデット・マーフィー)を読んだ。

 超面白い。ゴッホといえば…。才能や精神異常を情熱的にぶつけて描いた。しかし生前には全く評価されなかった。アルコール(アブサン)中毒。自分の耳を切って娼婦に届けた、という。ところで、これなんとぜんぶ嘘。

 謎解きが面白いですが、それを超える伝記の悦びがあります。「ゴッホは、その不安定な精神状態にもかかわらず独創性の頂点を極めたのであって、決して不安定な精神状態だったから独創性の頂点を極めたわけではない」ことが本当にわかる。そしてゴッホの絵を、さらに深く感じることができるのです。

2020年11月11日水曜日

『セックスと恋愛の経済学 超名門ブリティッシュ・コロンビア大学講師の人気授業』(マリナ・アドシェイド)

『セックスと恋愛の経済学 超名門ブリティッシュ・コロンビア大学講師の人気授業』(マリナ・アドシェイド)

 『セックスと恋愛の経済学 超名門ブリティッシュ・コロンビア大学講師の人気授業』(マリナ・アドシェイド)を読んだ。

 男女の真実。エビデンス付き!

 結婚に背丈は関係ない? 「背の低い男性は結婚も真剣な男女関係も得にくい」「身長170㎝〔フランス男性。日本との平均身長差は5㎝なので日本なら165㎝〕に満たない30歳から39歳までの男性のうち結婚しているのはわずか60%ですが、170~180㎝になると76%が既婚です」。なんだかとっても畜生! 結婚にお金は関係ない? 宝くじで5万ドル以上あてた女性は、その後3年で結婚する率が40%下がります(ちなみに男性の結婚には影響なし)。その他も盛り沢山!

2020年11月9日月曜日

『江戸の読書会 会読の思想史』(前田勉)

『江戸の読書会 会読の思想史』(前田勉)

 『江戸の読書会 会読の思想史』(前田勉)を読んだ。

 超面白い。江戸の会読には、カイヨワの言う「遊び」、アゴーン(平等のチャンスが人為的に設定された競争)とルドゥス(あえて窮屈なルールで困難を解決する喜び)がありました。ていうかそれってまさに、ビブリオバトル!

 儒学も蘭学も権勢や利得に直結しませんでした。これが逆に「貴賤富貴を論ぜず、同輩と為すべき事」(懐徳堂=大阪商人の学問所)となったのです。杉田玄白は『解体新書』訳業の思い出に、「会集の期日は、前日より夜の明くるを待ちかね、児女子の祭見にゆくの心地せり」。なんと素晴らしい。

2020年10月29日木曜日

『超予測力 不確実な時代の先を読む10カ条』(フィリップ・E・テトロック、ダン・ガードナー)

#ハヤカワノンフィクション文庫


『超予測力 不確実な時代の先を読む10カ条』(フィリップ・E・テトロック、ダン・ガードナー)を読んだ。

 評論家や諜報員の予測が、猿のダーツ投げより的中しない。そんなんでいいのか。そこでガチンコ、予測トーナメント開催です。結果、ボランティア(年間3万円ギフト券)の一部「超予測者」は、高給取りのCIA情報分析官より予測力が高かったという…。超予測者の特徴は、思想信条に縛られないこと、運命論を信じないこと、数学と読書が好きなこと。

 予測力、実に高めたい。でも本当は、10年先の変化を見通すことは「絶対に」できない。予測力や知的柔軟性には価値がある。しかし人の予測には限界があるのです。

2020年10月26日月曜日

『クックズ・ツアー』(アンソニー・ボーデイン)

 

『クックズ・ツアー』(アンソニー・ボーデイン)

『クックズ・ツアー』(アンソニー・ボーデイン)を読んだ。

 野性的なのに洗練されてもいるトップシェフが、世界中で喰いまくる。ポルトガルで豚の丸焼き、東京で高級寿司、ベトナムでフォー(「適切に調理されたフォーほど旨いものがあるだろうか」)、バスクも旨そう。「じゅうじゅう音を立てているソテーしたキノコの真ん中に卵の黄身が乗せられ、じわっと形を崩しつつある」。

 旨い料理は単に味のいい物体ではなく、背景をもちます。「自分たちのコミュニティとそこの料理文化、そして料理人たちに強い共感を寄せている場所では、たいてい旨い料理が食べられるものだ」。

2020年10月22日木曜日

『Q思考 シンプルな問いで本質をつかむ思考法』(ウォーレン・バーガー)

『Q思考 シンプルな問いで本質をつかむ思考法』(ウォーレン・バーガー)

『Q思考 シンプルな問いで本質をつかむ思考法』(ウォーレン・バーガー)を読んだ。

 答えよりも、問いのほうが重要です。例えばドラッカーは企業に助言するとき、何をすべきかの答えを示すのではなく、質問を投げかけ、どういう問いが重要かを明確にすることで実績をあげました。

 対して普通の専門家は、答えを与えるのが役割と思ってます。ちなみに私も思ってます。「どうしてあなたは自分が専門家より分かっていると思うのですか?」とか言い出しかねませんが、これへの返しは「確かに知っていることは少ない。だがその方がいいこともある」。専門家の答えだけでは新しい解決は生まれないのです。

2020年10月19日月曜日

『知性は死なない 平成の鬱をこえて』(與那覇潤)

『知性は死なない 平成の鬱をこえて』(與那覇潤)

 『知性は死なない 平成の鬱をこえて』(與那覇潤)を読んだ。

 著者の『中国化する日本』には感銘を受けましたが、著者はその後うつ病になっていたのでした。知的能力で生き、それを誇りとしてきた人が、その能力を失うとどうなるのか。知的能力とは何なのかを、深く考える本です。

 確かに個体ごとの能力差はある。しかし能力は、それが噛み合う環境(アフォーダンス)があって初めて働くもの。例えば医者は患者(や看護師や療養環境)があってはじめて成立する。汎用スキル、地頭などというのは事実を歪めている。能力は一人だけでは使えないもの、いわば共有財産なのです。

2020年10月14日水曜日

『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』(キャスリーン・フリン)

 

『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』(キャスリーン・フリン)

『ダメ女たちの人生を変えた奇跡の料理教室』(キャスリーン・フリン)を読んだ。

 私ここ数年、なぜか低温調理にハマってしまい、料理本を読むようになりました。本書曰く、料理できない、料理下手とかいうのは、そう思い込んでいるのが原因です。登場人物にも私にもうってつけの教えでした。料理は、基本を知って、あとはやればうまくなります。

 「残り物を最大限に利用する」スープがおいしそう。夏は冷たいスープ、冬は熱々のスープ。まず香りの出るものをソテーして、2時間煮込むだけ。残り物の骨と一緒に煮込むのがオススメ。そしていちばん大切なのは、煮込み時間です。ゆっくり煮込むこと。

2020年10月12日月曜日

『社会心理学講義 〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉』(小坂井敏晶)

『社会心理学講義 〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉』(小坂井敏晶)

 『社会心理学講義 〈閉ざされた社会〉と〈開かれた社会〉』(小坂井敏晶)を読んだ。

 超絶面白い。社会と個人とはどのような関係にあるか。問いが骨太すぎる。

 社会と個人が存在し、相互に影響する、では甘すぎます。例えば心理実験で我々は、強い被害を受けている人と弱い被害を受けている人を見ると、強い被害を受けた人を低く評価する傾向があります。これは単に無情だとか、認知バイアスだとかでは済まない。悪い人が悪い目に遭う、世界は概ね公正だ(公正世界仮説)、という心理がなければ、社会は成立しない。社会は個人から構成されますが、個人心理の底には社会があり、円環で一体なのです。

2020年10月9日金曜日

『ヒキコモリ漂流記』(山田ルイ53世)

 

『ヒキコモリ漂流記』(山田ルイ53世)

『ヒキコモリ漂流記』(山田ルイ53世)を読んだ。

 超面白い。笑える、泣ける、子育てと人生の参考になる。小学生のころ神童と言われた著者は、中高6年間を引きこもり。なんとか大検受けるもさらにダメ生活の後、一発屋芸人。経過ぜんぶ面白い。

 著者が引きこもりのインタビューを受けたとき、「あの6年は完全に無駄だった」と答えたら、嫌な顔をされました。「あの6年があったからこそ、今があります」が期待されているのです。しかし、それは違う。「何の取り柄もない人間が、ただ生きていても、責められることがない社会…それこそが正常だと僕は思うのだ」。

2020年10月7日水曜日

『流線形の考古学 速度・身体・会社・国家』(原克)

『流線形の考古学 速度・身体・会社・国家』(原克)


『流線形の考古学 速度・身体・会社・国家』(原克)を読んだ。

 流線形。かっこいい。そして未来的。流線形の列車がグッと来ます。しかし実は流線形には、ダークな面があったのです。

 ①流線形は、科学的に正しい。②流線形は、無駄がない。③流線形は表面的な飾りではなく、有機的一体でなければならない。どうですか、ちょっとキナ臭くなってきませんか。最も有名な流線形デザイナー、レイモンド・ローウィー曰く、「優生学的淘汰が進めば、かならずや美学的に正確な世代が誕生し、こうした〔流線形の〕衣裳もぴったりハマるようになるだろう」。ガチで優生学じゃないですか。

2020年10月6日火曜日

『ヴェルヌの『八十日間世界一周』に挑む 4万5千キロを競ったふたりの女性記者』(マシュー・グッドマン)

『ヴェルヌの『八十日間世界一周』に挑む 4万5千キロを競ったふたりの女性記者』(マシュー・グッドマン)

『ヴェルヌの『八十日間世界一周』に挑む 4万5千キロを競ったふたりの女性記者』(マシュー・グッドマン)を読んだ。

 超面白い。『八十日間世界一周』より速く、現実世界で世界一周することができるのか。これに挑んだ二人の女性記者は対極的でした。ネリー・ブライは野心的な行動派で、得意は潜入取材と暴露記事。かたやエリザベス・ビズランドは育ちが良く(ただし少女の頃に没落)、文学を愛し、得意は文芸コラムでした。

 19世紀末の世界各地で何が待ちうけるのか。嵐や大雪のなか80日に間に合うのか。いったい二人のどちらが勝つのか。そして、きつい男性社会の新聞業界で女性が活躍するとどうなるのか。うーん実に面白い。

2020年10月3日土曜日

『腕一本・巴里の横顔 藤田嗣治エッセイ選』(藤田嗣治)

『腕一本・巴里の横顔 藤田嗣治エッセイ選』(藤田嗣治)

『腕一本・巴里の横顔 藤田嗣治エッセイ選』(藤田嗣治)を読んだ。

 藤田が自らあかす絵の奥義は、「膚」と「黒」。パリで貧窮画家生活をしながら自分なりの絵を求めて苦闘し、辿りついた境地です。

 「膚」について、日本には西洋のような裸体画は存在しないものの、春信や歌麿が「僅かな脚部の一部とか膝の辺りの小部分をのぞかせて、飽までも膚の実感を描いているのだという点に思い当り、始めて肌というもっとも美しきマチエールを表現してみんと決意」したといいます(マチエールとは質感、材質的効果)。「黒」も、東洋人こそがその美しさと味わいを熟知しているというのです。

2020年9月28日月曜日

『アメリカ死にかけ物語 POSTCARDS FROM THE END OF AMERICA』(リン・ディン)

『アメリカ死にかけ物語 POSTCARDS FROM THE END OF AMERICA』(リン・ディン)

『アメリカ死にかけ物語 POSTCARDS FROM THE END OF AMERICA』(リン・ディン)を読んだ。

 アメリカめっちゃ終わってる。ドラッグに銃に殺人。失業して離婚してホームレス。治安がワーストなニュージャージー州カムデンでは、「俺がミシェルと話していた3時間くらい前に、3人の男が穴だらけにされた」。なのにカムデン財政は破綻して、「警察部隊全体を解雇した」。本書的な表現でいえば、「マジかよ?」

 ベトナム移民の貧困家庭に生まれた中年詩人がアメリカ中を旅して、バーで人の人生を聞く。その情景。川上未映子の解説には「美しい」とありますが、私が思うに、心の底から、ああ、終わってると。

2020年9月22日火曜日

『昭和の洋食 平成のカフェ飯 家庭料理の80年』(阿古真理)

 『昭和の洋食 平成のカフェ飯 家庭料理の80年』(阿古真理)


『昭和の洋食 平成のカフェ飯 家庭料理の80年』(阿古真理)を読んだ。

 面白い。というか面白怖い。家庭料理は他人事ではない。「もっと生活遊んじゃおう!」とPRする主婦向け雑誌Martについて、「ままごと料理」「子どもを育てているのに食に無頓着でいられるのは、他人事のように人生を送っているからである」。このインファイターぶり。恐ろしいわ。

 昭和前半に生まれた女性は、専業主婦になることが素晴らしいとされた時代で、新しいキッチンやメニューが次々紹介され、料理を覚える動機が揃っていました。だから料理を当然と思っています。今は違うことに気づかないのです。

2020年9月17日木曜日

『レトリック感覚』(佐藤信夫)

『レトリック感覚』(佐藤信夫)


『レトリック感覚』(佐藤信夫)を読んだ。

 超面白い。太宰治曰く、「ふと入口のほうを見ると、若い女のひとが、鳥の飛び立つ一瞬前のような感じで立って私を見ていた」。その比喩、わかる。けど、鳥の飛び立つ一瞬前を見たことありますか。『雪国』のヒロイン、「駒子の唇は美しい蛭の輪のように滑らかであった」。わかる。けど、蛭を見たことありますか。

 しかし、愛する人の唇を伝えたいとき、美しいと書いても、形を正確に描写しても、伝わりません。言葉は伝達に便利ではない。レトリックは飾りではなく、切実なことを正確に伝えるための本質なのです。

2020年9月15日火曜日

『日本のいちばん長い日』(半藤一利)

 『日本のいちばん長い日』(半藤一利)

『日本のいちばん長い日』(半藤一利)を読んだ。

 超面白い。敗戦日とその前日、皇居ではクーデター(宮城事件)が起きていました。若き陸軍部将校 畑中少佐らが、近衛第一師団長を殺害し、皇居を占拠して、本土決戦のため、玉音放送を阻止しようとしたのです。しかし未遂に終わり、畑中は自決。鈴木貫太郎首相の飄々とした肝の太さ、敗戦を遂行する内閣の辛苦など、24時間実録がスリリングです。

 絶対に負けを認めないぞ。そんなのは子どもの所行と、後世から言うのは簡単ですが…。浪漫主義はたやすく除霊できない。この本が面白いのが、まさにその証拠です。

2020年9月14日月曜日

『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』(フランス・ドゥ・ヴァール)

 『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』(フランス・ドゥ・ヴァール)

『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』(フランス・ドゥ・ヴァール)を読んだ。

 面白い。DNAでみると人とチンパンジーはほぼ同じで、独自の種を成すかも微妙なほどです。知力でみると人よりチンパンジーが上(の分野があります)。一瞬だけ現れて消える1から9までの数字を覚えて順にタッチするゲームや、相手の出方の予想が重要な対戦ゲームでは、人よりずっと優秀。さらにチンパンジーは計画し、協力し、贈賄し、笑います。計画するのは人だけではありません。

 人と動物の知は連続している。私の心は動物と共通している。そういう実感、原始時代にいるような実感を味わったことでした。

2020年9月12日土曜日

『「壁と卵」の現代中国論 リスク社会化する超大国とどう向き合うか』(梶谷懐)

『「壁と卵」の現代中国論 リスク社会化する超大国とどう向き合うか』(梶谷懐)

 『「壁と卵」の現代中国論 リスク社会化する超大国とどう向き合うか』(梶谷懐)を読んだ。

 昔、人の敵は自然でした。近代に至り、自然を克服したテクノロジーやシステムは、基本的には良いことのはずです。しかしテクノロジー等は、一部に害を与えることがあります。例えば公害や薬害です。このように人から生じるリスクの配分が問題となる社会(リスク社会)では、ある意味リスクを人が割り振るのですから、自由な異議申立と論議が重要です。

 ここで中国。中国はリスク社会に至っているのに、いまだに言論統制をしています。そのやり方、もうもたないでしょう。中国の深い認識が得られる本、お勧めです。

2020年9月9日水曜日

『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』(坂井豊貴)

『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』(坂井豊貴)

 『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』(坂井豊貴)を読んだ。

 面白い。2000年米国大統領選、当初世論調査ではゴア有利も、ラルフ・ネーダーが立候補してゴア票を喰い、ブッシュが当選しました。多数決は票の割れに弱い。また選択肢が複数だと、二番になりやすい穏当な主張よりも、嫌われても一番を目指す極端な主張が勝ちやすい。実際、欠陥制度ではないか。選択肢を順位づけして投票する(ボルダルール)なら、極端は敗れます。


 住民投票の工夫も出色。計画の実質確定後に住民意見を聞くセレモニーをするのでなく、しかも地域エゴや愉快票を避ける制度がありうるのです。

2020年9月7日月曜日

『新 人が学ぶということ 認知学習論からの視点』(今井むつみ、野島久雄、岡田浩之)

『新 人が学ぶということ 認知学習論からの視点』(今井むつみ、野島久雄、岡田浩之)

『新 人が学ぶということ 認知学習論からの視点』(今井むつみ、野島久雄、岡田浩之)を読んだ。

 超面白い。知識の獲得には、豊富化と再構造化があります。このうち学習の躓きとなるのは再構造化。再構造化のために、今持っている素朴理論を捨てるのが難しいのです。例えば、分数を理解するには、数=自然数という素朴理論を捨てなければなりません。また例えば、指で上へ弾かれたコインには、上がる途中の瞬間、上向きの力が働いていますか?「動いてるなら動いてる方へ力が働き続けてる」は素朴理論で、慣性の法則に反し、誤りです。

 いいね、再構造化。何もかも次々に再構造化して、まだ見ぬ世界へ行きたい。

2020年9月5日土曜日

『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』(ジョン・ロンソン)

『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』(ジョン・ロンソン)

『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』(ジョン・ロンソン)を読んだ。

 超面白い。ジャスティン・サッコは人種差別的ジョークを1回ツイートしました。これが半日後には世界一の大炎上、即日解雇され、名前を検索すれば顔写真と人格非難が延々と続き、今後一生涯、普通に就職や子育てをすることはできないでしょう。

 炎上は特殊な人の悪意のせいではない。逆です。普通の人の善意のせいです。悪い奴を懲らしめるのは当然? いや、その場の思いつき、ていうか本当は暇つぶしを、正義だと心理的に正当化しているだけでしょう? そして現実には、人の生涯を潰すのに荷担しているのです。

2020年9月2日水曜日

『貧困と自己責任の近世日本史』(木下光生)

『貧困と自己責任の近世日本史』(木下光生)

『貧困と自己責任の近世日本史』(木下光生)を読んだ。

 深い。面白い。貧困世帯への給付に対して冷酷な見方がされていますが、これは自己責任自己責任言う新自由主義者のせい、ではなく、日本はずーっと、施す側から施される側まで、自己責任の国だったのです。「施されるのは恥」という感覚があることは否定しようがない。ベーシックインカムが導入されるべきこの先において、きっと裏目に出ることでしょう。

 これは例えば英国でも同じなのですが、プロイセンや清など、公共救済に対して制裁が発動されない地域もありました。歴史を知れば、見えてくるものがあります。

2020年8月31日月曜日

『逸翁自叙伝 阪急創業者・小林一三の回想』(小林一三)

 『逸翁自叙伝 阪急創業者・小林一三の回想』(小林一三)


『逸翁自叙伝 阪急創業者・小林一三の回想』(小林一三)を読んだ。

 予想外、ちゃんとしてない。新卒入社しても行かない。新婚すぐ愛人と有馬温泉に泊って離婚、等々。宝塚歌劇は三越少年音楽隊との競争上の「イーヂーゴーイングから」「元来私は音痴である」。なんでそんなこと自伝に書くの。

 しかし彼の理想と事業こそが、中産階級を生みました。欧州旅行の感想に、「〔デモクラット発祥の地は〕さぞ大衆の芸術も盛んで立派であろうと考えて行って見ると、…芸術はブルジョワの手に独占され…、民衆のためには、単に富籤、犬のレース…。これで健全な大衆の成長があるだろうか」。


2020年8月27日木曜日

『隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働』

『隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働』(ルトガー・ブレグマン)

『隷属なき道 AIとの競争に勝つベーシックインカムと一日三時間労働』(ルトガー・ブレグマン)を読んだ。

 超面白い。なんかもう、ベーシックインカム(無条件現金交付)と1日3時間労働しかありえないですよ。AIのせいで中間技能の職が激減する。格差が甚大になると失職不安や社会問題の増大で全員が苦しむ。既に、人類の供給力は全人類を食わせるに足りるんだから、だったら必要なのは、「今世紀のどこかで、生きていくには働かなければならないというドグマを捨てることだ」。

 現金交付は人を腐らせる? エビデンスに反します。ベーシックインカムが現に機能した事例が豊富にある。いや本当、これしかないですよ。

2020年8月24日月曜日

『モリー先生との火曜日』(ミッチ・アルボム)

『モリー先生との火曜日』(ミッチ・アルボム)
 

『モリー先生との火曜日』(ミッチ・アルボム)を読んだ。

 超面白い、超お勧め、読みやすい。社会学の教授モリー先生と、その元教え子で今は大忙しのスポーツコラムニストになった著者は、毎週火曜、二人だけで授業を行いました。ただし先生は筋萎縮性側索硬化症を発病し、死の床にあります。足から徐々に硬化していく中でも先生は知性に溢れ、家族、仕事、老い、死について話し合ったのです。


 人は死ぬ。死ぬ前になれば分かる。人生で重要なのは、業績なんかじゃない。「自分を許せ。人を許せ。待ってはいられないよ、ミッチ。誰もが私みたいに時間があるわけじゃない」。

2020年8月21日金曜日

『ハーバードの人生が変わる東洋哲学 悩めるエリートを熱狂させた超人気講義』(マイケル・ピュエット、クリスティーン・グロス=ロー)

『ハーバードの人生が変わる東洋哲学 悩めるエリートを熱狂させた超人気講義』(マイケル・ピュエット、クリスティーン・グロス=ロー)

『ハーバードの人生が変わる東洋哲学 悩めるエリートを熱狂させた超人気講義』(マイケル・ピュエット、クリスティーン・グロス=ロー)を読んだ。

 儒教老荘、面白い。孔子曰く、「祭ること在(いま)すが如くし、神を祭ること神在すが如くす」。つまり儀礼は「かのように」行う。

 孔子曰く、人間関係の本質は儀礼です。例えば、夫婦が愛している「かのように」言葉を交わしているとき、まさに、お互い愛しあっているのにほかなりません。逆にうまくいかない関係は、コミュニケーションがダメなパターンに嵌まっています。口うるさい母と反抗的な子というパターンとか。そんなときには、ダメでない「かのように」。ダメなパターンを打破することができるのです。

2020年8月12日水曜日

『犬将軍 綱吉は名君か暴君か』(ベアトリス・M・ボダルト=ベイリー)

『犬将軍 綱吉は名君か暴君か』(ベアトリス・M・ボダルト=ベイリー)

『犬将軍 綱吉は名君か暴君か』(ベアトリス・M・ボダルト=ベイリー)を読んだ。

 超面白い。綱吉のファンになること必定。綱吉の評判が悪いのは、武士に嫌われたから。武士に嫌われたのは、儒教的仁政を理想とし、庶民を重視したから。その庶民重視の根は、当時の武士では例外的に母の影響を強く受け、母は八百屋の娘だったからです。

 また綱吉は中央集権を志向しました。家柄より能力で登用し(柳沢吉保等)、西洋史ならルイ14世風の絶対君主を目指しました。生類憐れみの令は、鷹狩りの縮小で大名が捨てた等の野良犬が十万匹も群れる江戸で、五代将軍綱吉と戦国的武士との衝突だったのです。

2020年8月11日火曜日

『秋田蘭画の近代 小田野直武「不忍池図」を読む』(今橋理子)

『秋田蘭画の近代 小田野直武「不忍池図」を読む』(今橋理子)

『秋田蘭画の近代 小田野直武「不忍池図」を読む』(今橋理子)を読んだ。

 何か妙な迫力ある美しさ、秋田蘭画。その一派は、銅山開発のため秋田藩に招聘された平賀源内が、画才ある小野田直武を見出して始まりました。鎖国下の日本で束の間花開いた、極めて前衛的な芸術家集団だったといいます。

 不忍池の歴史(日本初の公共図書館を作った了翁道覚が強烈)、蘇東坡、南蘋派など話柄豊富です。眼鏡絵(遠近法のカラクリ絵)を論じ、さらに《不忍池図》は円筒から覗いて見るのが正しいとか言う。試してみると本当に遠近感が。おみそれしました。私の気のせいかもしれず、皆様も試されたし。

 

2020年8月6日木曜日

『私はすでに死んでいる ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳』(アニル・アナンサスワーミー)

『私はすでに死んでいる ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳』(アニル・アナンサスワーミー)

『私はすでに死んでいる ゆがんだ〈自己〉を生みだす脳』(アニル・アナンサスワーミー)を読んだ。

 なぜ私は、私という意識をもっているのか。知りたい。その謎を本書は、自意識が失調する症候群から探っています。自分が死んだと思い込むコタール症候群、離人症、自閉症…。

 自意識について説得的ですが、むしろ患者の苦しみの記述が深いです。脳は恒常性維持のための器官、予測機能付きサーモスタットのようなものです。外界を観察し予測し、行動を制御します。しかし自閉症では予測がうまく働かないため、経験を毎回ゼロから受けとめることになります。「自閉症患者にとって、世界は悪い意味でマジックだ」と。

2020年8月2日日曜日

『科学革命の構造』(トーマス・クーン)

『科学革命の構造』(トーマス・クーン)

『科学革命の構造』(トーマス・クーン)を読んだ。

 パラダイム転換、面白い。読む前はポストモダン的というか、科学者は集団のルール内で考えるだけだ的な本かと思ってましたが、違いました。

 確かに、「チェスの問題を解こうと苦心する人は、チェスのルールについて考えない」としています。しかしむしろ、その解こうとする苦心、パラダイム内での通常科学こそを、科学の長所と評価しています。ルールの転覆(まさにコペルニクス)は外野からは目を引きますが、そもそも転覆が可能になるのは、つまり異常に気づくのは、通常科学による蓄積があるからこそなのです。

2020年7月30日木曜日

『コーヒー・ハウス 18世紀ロンドン、都市の生活史』(小林章夫)

『コーヒー・ハウス 18世紀ロンドン、都市の生活史』(小林章夫)

『コーヒー・ハウス 18世紀ロンドン、都市の生活史』(小林章夫)を読んだ。

 コーヒーハウスには、近代の幕開がありました。政治談義、文学談義、株価情報、初期ジャーナリズム(新聞雑誌)、貸本屋、読書会。さらに郵便、広告、保険(ロイズの前身)。果ては薬屋、科学実験、博物陳列(「エデンの園の扉の鍵」とか)まで。猥雑さが素晴らしい。

 初期のコーヒーハウスには、身分職業の区別なく、ぼろを着ていようと流行の衣裳で固めていようと、出入りできました。しかし「発展に伴って客層が固まっていくという現象が生まれ、これがコーヒー・ハウスの活気を失う一因になった」。なるほど。

2020年7月27日月曜日

『一科学史家の自伝』(中山茂)

『一科学史家の自伝』(中山茂)

『一科学史家の自伝』(中山茂)を読んだ。

 面白い。輸入学問を批判し、東大で排斥されて万年講師となり、退官記念パーティで罵倒されるに至る自伝が刺激的。科学史家ならではの視野の広さも出色です。

 「歴史家の視点からすれば、五年、十年先は頑張ればまだ技術日本を維持できるだろうが、一、二世代のうちにいずれアジアに移転され、格差がなくなっていくと思うのだが」とか、「僕は一般に近代医学の排他性が嫌いで、そのパラダイムでは心理的、生理的、薬理的な位相は決してすべてカバーできているわけではない」とか、さらっと言えるのが格好いいです。

2020年7月22日水曜日

『上達の法則 効率のよい努力を科学する』(岡本浩一)

『上達の法則 効率のよい努力を科学する』(岡本浩一)

『上達の法則 効率のよい努力を科学する』(岡本浩一)を読んだ。

 かなり面白い。スポーツ、演奏、将棋、武道、何でもいいから上達したくなること必定。例えば、中級者に上がるコツはまず得意技を見つけること等、私の数少ない上達経験からも納得です。

 上達の秘訣は、情報処理にあります。人が短時間内に処理できる情報は7つ程度にすぎませんが、ある技能、ある戦法、ある感覚を、ひとまとまりのもの(スキーマ)として自分の心内で把握できていれば、情報処理に余裕が生まれ、上のスキーマも見えてくる。上達巧者はスキーマ形成がうまい。メモで言語化を試みるのもお勧めです。

2020年7月20日月曜日

『科学から空想へ よみがえるフーリエ』(石井洋二郎)

『科学から空想へ よみがえるフーリエ』(石井洋二郎)

『科学から空想へ よみがえるフーリエ』(石井洋二郎)を読んだ。

 超絶面白い。フーリエは理想協同体を構想しましたが、それは修道院的でなく、情念を肯定しました。バルザック曰く「フーリエは情念を、人間を導き、ひいては社会を導く原動力と考えたが、これは確かにもっともなことであった」。なるほど。

 ではその情念とは。「創造は、男性である北極液と女性である南極液との交接によって行われる」「地球は創造の欲求に激しくかきたてられている。北極光〔オーロラ〕の頻発からそのことが知られる。北極光は惑星の発情の徴候であり、精液の無益な射出なのだ」。フ、フーリエ?

2020年7月14日火曜日

『世界を変える教室 ティーチ・フォー・アメリカの革命』(ウェンディ・コップ)

『世界を変える教室 ティーチ・フォー・アメリカの革命』(ウェンディ・コップ)

『世界を変える教室 ティーチ・フォー・アメリカの革命』(ウェンディ・コップ)を読んだ。

 アメリカン・ドリームを実現できない国、アメリカ。教育格差が酷すぎ、貧困に生まれると大学に入れないためです。著者はこれを、現実に打破しようとしたのです。

 著者が創始したティーチ・フォー・アメリカは、投資銀行に就職するような大学生を勧誘し、貧困地域の学校へ教師として2年間送り込みます(その後も教育分野に残る人も多い)。良い教師の人材獲得を徹底的に追求し、成績向上を厳しく要求します。貧困地域で通常の教育を実現しても足りない。本当の機会平等を実現するという、強い信念が溢れています。

2020年7月10日金曜日

『プログラムはなぜ動くのか 知っておきたいプログラミングの基礎知識』(矢沢久雄)

『プログラムはなぜ動くのか 知っておきたいプログラミングの基礎知識』(矢沢久雄)

『プログラムはなぜ動くのか 知っておきたいプログラミングの基礎知識』(矢沢久雄)を読んだ。

 皆さんご存じですか。パソコン、実は、物理的な存在だった。IC(ゲジゲジみたいなやつ)の足の1本1本のオンオフが、2進法の1桁を表すと。つまり8本足のICなら、オンオフで2の8乗=256通り表せると。これが8ビット=1バイトと。そんな物理的な。いやもちろん、知ってましたけど。

 CPUもメモリもICですが、CPUが演算したり、メモリがデータを格納したりする具体的なやり方(ぜんぶ2進法かつ物理的)が分かりやすい。いや、この本はいいですね! ブラックボックスが開く快感があります。

2020年7月3日金曜日

『クアトロ・ラガッツィ 天正少年使節と世界帝国』(若桑みどり)

『クアトロ・ラガッツィ 天正少年使節と世界帝国』(若桑みどり)

『クアトロ・ラガッツィ 天正少年使節と世界帝国』(若桑みどり)を読んだ。

 面白い。二十万人が参加した信長の馬揃え、インド的で夢幻的なキリスト教都市ゴア、少年使節が招待された絢爛たるローマ教皇即位式、全てが美しい。

 少年たちは希望を胸に世界へと旅立ちましたが、帰ってきたら国が閉じつつあった…。秀吉に気に入られるも司祭になるため断る伊東マンショ。学知を極めんと異境の地マカオで果てた原マルティーノ。神も仏も信じなくなった千々石ミゲル。激しい拷問により殉教する中浦ジュリアン。鎖国とは何か。帝国とは何か。宗教とは何かを考えさせる、強い衝迫力をもった本です。

2020年6月26日金曜日

『超巨大地震に迫る 日本列島で何が起きているのか』(大木聖子、纐纈一起)

『超巨大地震に迫る 日本列島で何が起きているのか』(大木聖子、纐纈一起)

『超巨大地震に迫る 日本列島で何が起きているのか』(大木聖子、纐纈一起)を読んだ。

 海溝型地震の「アスペリティモデル」の説明が分かりやすいです。ただ、このモデルの分かりやすさが、東日本地震を想定できなかった一因かもしれないとも。

 地震科学者である著者曰く、地震は予知できない。仙谷官房副長官の発言「日本海側などの原発はまず心配ないという結論が科学的にも出ており」は、「科学的」の誤用です。しかし、「科学の世界が『目安』として出した情報は、社会に出た瞬間に『科学的根拠』と名を変える〔…〕。これを情報の受け手だけの問題にせず、発信側の科学者こそよく認識すべきだ」。

2020年6月24日水曜日

『兼好法師 徒然草に記されなかった真実』(小川剛生)

『兼好法師 徒然草に記されなかった真実』(小川剛生)

『兼好法師 徒然草に記されなかった真実』(小川剛生)を読んだ。

 徒然草は京の是法法師を、「ただ明け暮れ念仏して、やすらかに世を過ぐす有様、いとあらまほし」としますが、実は是法は敏腕の金融業者(土倉)。兼好もそれは当然承知で、さらに兼好も複数の不動産を所有し(史料あり)、不動産取引に慣れていたのです。イメージが違う。というか、いとあらまほしいのはそっちかよ、という。

 本書曰く、兼好は公家ではなく、六波羅探題北条貞顕の広義の被官で、出家後は公家と武家との橋渡しをしていたとか。公家どころか吉田姓も、歴史歪曲常習の吉田兼倶による捏造。驚きです。

2020年6月22日月曜日

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(ユヴァル・ノア・ハラリ)

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(ユヴァル・ノア・ハラリ)

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(ユヴァル・ノア・ハラリ)を読んだ。

 べらぼうに面白い。スケールが大きい。あらゆる革命や思想を相対化。上から目線をさらに超えた、神から目線です。読了するとしばらくの間なにを聞いても、「人類全体の歴史から見れば、小さい小さい」と思えるという効果あり。神から目線、あなたも手に入れてみませんか?

 後半の「幸福」の検討は比類がありません。著者はどんな理念体系へも超上から目線ですが、そんななか唯一、幸福のために有望視している考え方があります。それは原始仏教。これを読んで私は思いました。とうとう来た。やっぱり原始仏教だと。

2020年6月20日土曜日

『コルシア書店の仲間たち』(須賀敦子)

『コルシア書店の仲間たち』(須賀敦子)

『コルシア書店の仲間たち』(須賀敦子)を読んだ。

 深い情感を呼ぶエッセイ。ミラノの、教会の片隅にありながら「せまいキリスト教の殻にとじこもらないで、人間のことばを話す『場』を作ろう」と創立された本屋の物語です。

 精力的でカリスマある創立者ダヴィデ神父をはじめ、仲間たちが個性的でおもしろいですが、なぜか滅びの予感のようなものが、全篇の底に響いているようです。仲間たちは、日常や病いのために離れていきます。「人それぞれ自分自身の孤独を確立しない限り、人生は始まらないということを、すくなくとも私は、ながいこと理解できないでいた」。

2020年6月19日金曜日

『ねこはすごい』(山根明弘)

『ねこはすごい』(山根明弘)

『ねこはすごい』(山根明弘)を読んだ。

 読みやすくて幅広くて面白い。そして言いたい。かわいいんじゃなくて、凄いと。

 ねこの牙は、なぜあんなに細長くて尖っているのでしょうか? それは、獲物の頚椎の隙間に突き刺して、脊髄を瞬時に切断するためです。ねこの眼は、なぜあんなに光るのでしょうか? それは、網膜の後ろのタペタム(輝板)層で光を反射させて網膜を2回刺激し、暗闇でも狩りをするためです。ねこはハンター。そしてねこは美しい。機能美と言ってよいでしょう。本書曰く、ねこを近くで見ると、眼の中の虹彩が、宝石のように美しいと。