2020年11月28日土曜日

第9回読書会 ビブリオバトル・テーマ「進化」


新書読書会「連鎖堂」を開催しました。密にならない4名の参加です。今回はビブリオバトル。テーマは「進化」(新書限定)。発表された本は、以下の3冊です。


『「退化」の進化学 ヒトにのこる進化の足跡』(犬塚則久、ブルーバックス)

 進化論でいう「進化」には、良くなっていくという含意はありません。だから退化も進化だ!
 人の器官は、進化というか退化の痕跡が残っています。耳の中には鮫の顎とか。私たちの身体は少なくとも4億年の進化と退化の果てにあるのです。
 個人的には、副乳(通常の胸以外にできた乳頭や乳輪)の話に、本日の読書会を副乳で塗りつぶすほどのインパクトがありました。

 □

『進化のからくり 現代のダーウィンたちの物語』(千葉聡、ブルーバックス)

 進化論研究者の列伝の趣きもあるエッセイ。とても理系研究者の文章と思えないほど軽妙とか。
 カタツムリは首もと?にある生殖器官で交尾しますが、たまたま左巻きのカタツムリが生まれてしまうと、交尾の具合が悪く、お相手探しにとても苦労する、という話とか。この章の章題は「聖なる皇帝」。内臓が左右反転しているサウザー(北斗の拳。「退かぬ!媚びぬ!省みぬ!帝王に逃走はないのだー!」の人)から、なんとカタツムリにつながるのです。


『なぜヒトは学ぶのか 教育を生物学的に考える』(安藤寿康、講談社現代新書)

 事実として、学業成績には遺伝の影響が大きい。行動遺伝学のエビデンスによれば、遺伝の影響は50%、家庭環境の影響が30%、本人や先生で変えられる要因の影響は20%にすぎないとか。
 「生まれつき」が完全にタブーになっている教育学の世界ですが、実際にはみんな薄々わかっているので、よくない状況です。本書はタブー破り万歳みたいなところが一切ない、とても誠実なもの。それこそ遺伝子からして一人一人違う我々にとって、教育とは何かを示してくれます。


 さてこの3冊、どれも面白そうですが、みなさまがたは、どの本をいちばん読みたくなりましたでしょうか?

 では、チャンプ本の発表です! チャンプ本は…、
『「退化」の進化学 ヒトにのこる進化の足跡』(犬塚則久、ブルーバックス)
 おめでとうございます!

 来月は、『「退化」の進化学』を課題本とする読書会です。

 ではまた、いい新書とともに、お会いしましょう。


2020年11月26日木曜日

『完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者』(マーシャ・ガッセン)

『完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者』(マーシャ・ガッセン)

『完全なる証明 100万ドルを拒否した天才数学者』(マーシャ・ガッセン)を読んだ。

 超面白い。数学の記念碑的難問「ポアンカレ予想」には、賞金1億円がかけられました。それを辛苦のすえ証明したペレルマンは、しかし賞金もフィールズ賞も拒絶し、隠遁してしまいました。なぜ。

 「我々の社会でエリート教育は許されない」という旧ソ連に、奇跡的に残された数学アカデミーで育ち、数学の純粋さを信じるペレルマンには、数学と金や賞は、結びついてはならないものだったのです。数学は数学のためにある。この世で数人しか理解できなくても、正しい数学は正しい。分かりやすいなんて、低俗なことだ。

2020年11月24日火曜日

『操られる民主主義 デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか』(ジェイミー・バートレット)

『操られる民主主義 デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか』(ジェイミー・バートレット)


『操られる民主主義 デジタル・テクノロジーはいかにして社会を破壊するか』(ジェイミー・バートレット)を読んだ。

 超面白い。2017年米国でロビー活動に最も金を出したのはどの会社? トランプのSNS選挙対策室でケンブリッジ・アナリティカ(個人情報を使う選挙コンサル)と協働したのはどの会社? 答えはGoogle。昔ならプロパガンダと呼ばれた手法をテックで洗練し、時価総額は50兆円を超え、もう既に、権力なのです。

 しかしテック企業は自分を権力側と思っていません。それは彼らの「カリフォルニアン・イデオロギー」。つまりテックの本質は人を解放すると信じているからです。そろそろ無理があるでしょう。

2020年11月9日月曜日

『江戸の読書会 会読の思想史』(前田勉)

『江戸の読書会 会読の思想史』(前田勉)

 『江戸の読書会 会読の思想史』(前田勉)を読んだ。

 超面白い。江戸の会読には、カイヨワの言う「遊び」、アゴーン(平等のチャンスが人為的に設定された競争)とルドゥス(あえて窮屈なルールで困難を解決する喜び)がありました。ていうかそれってまさに、ビブリオバトル!

 儒学も蘭学も権勢や利得に直結しませんでした。これが逆に「貴賤富貴を論ぜず、同輩と為すべき事」(懐徳堂=大阪商人の学問所)となったのです。杉田玄白は『解体新書』訳業の思い出に、「会集の期日は、前日より夜の明くるを待ちかね、児女子の祭見にゆくの心地せり」。なんと素晴らしい。

2020年11月1日日曜日

第8回読書会 『グロテスクな教養』(高田里惠子、ちくま新書)


新書読書会「連鎖堂」を開催しました。今回の課題本は、『グロテスクな教養』(高田里惠子)。

 この本はかなり歯応えがあるというか、一筋縄ではいかない、なんなら意地悪な、教養への愛憎なかばする複雑なものでした。
 かなり色々意見が出ましたし、それぞれの参加者の「私と教養」も面白かった。しかし今どき、教養について3時間も話している人たちは他にいるのだろうか、と思ったことでした。こんな機会もそうないですよ!

 以下、参加者から出た意見です。

Aさん
  •  教養とは、生きていくだけなら要らないけど、あったほうがよいもの。宇宙飛行士の若田光一さんが詩を詠むように。
  •  私が女性なので、4章(「女、教養と階級が交わる場所」)に入って一気に面白くなった。そうか、古典を読む的な教養は、男のものだったのか、と気づいた。
  •  男は教養があったらモテるというが、女は教養があってもモテない。
  •  そもそも、男は教養があったらモテるという思考が謎。
  •  教養が女性にモテるモテないの手段となっていることに気づくときの「いやったらしさ」、腑に落ちた。

Bさん
  •  教養とは、向上心。
  •  本書では主に、教養とは、向上心の、滑稽さ・イタさ。『三太郎の日記』には、「よりよく」って言葉が2ページで40回近く出てくる。(向上心を馬鹿にする一方というのではない。)あるいは、あとがき(233頁)によれば、教養とは、人間の複雑さをそのままにしめすという、『神聖喜劇』的グロテスクさ。
  •  ニューアカには、高み・近寄りがたさという概念がない。ので、教養=向上心への、トドメだった。大澤真幸曰く、「ニューアカみたいになりたいな、と思ってやったので、とても悲惨なことになっているんです」(160頁)

Cさん
  •  本書は、教養についての論かと思ったら、教養論についての論、教養論論だった。
  •  教養というのは、全方位的に情報をもっているという面がある。つまみ食いは教養ではない。そうすると、オタク的なやり方、一部だけを深めていくやり方が、教養を殺したのか。今の教養は、オタク的な教養、教養的な分野に特化した教養になっているのでは。なんなら、教養分野の専門学校を作ったってよい。
  •  ただ、昔の社会で教養が成り立ったのは、情報がまだしも限られていたからでは。現在のように情報が膨大なら、一部だけになるのは無理もないようにも思う。

Dさん
  •  教養とは、色々なこと、色々な選択肢を知っておくことで、困ったときに助けになるもの。成長するためのもの。
  •  エヴァンゲリオンなどを考えると、現在では、成長しないのでも、受け入れられるんだなと思う。個人的には、基本、成長しろよ、と思う。
  •  このまえ三島由紀夫を読んだら、これはだめだ、大人になってはじめて読むもんじゃないな、と思った。
  •  教養が低下した、昔はよかった、というのかもしれないが、満州事変のころから、教養は低下したと言われていた(83頁等)。

Eさん
  •  教養とは、マウンティングのための武器。
  •  教養主義には、対抗文化のはずだったものが、自身が権威になってしまうという逆説がある。ゲーテ、マルクス、吉本隆明・浅田彰と来て、今や、教養も大衆文化の一つにすぎず、教養主義は成り立たない状態では。
  •  もっとも、教養は、昔から、満州事変のころから、人生や社会の役に立ってない。
  •  唯一、教養が生き死ににかかわる問題となったのは、戦争末期のみ(117頁等)。しかし、生き死にの問題は常にあるはずで、したがって、教養の時代は、まだ来ていない。そういう意味で、私は(ベーシックインカムなどにより)本当の教養の時代が到来するのを待ち望んでいる。

 □

 楽しかった! そして今回はローストポークがおいしくできた!

 ではまた来月も、いい新書とともにお会いしましょう。