2023年8月30日水曜日

第36回読書会 ビブリオバトル・テーマ「不安に対処するための新書」


新書読書会「連鎖堂」を開催しました。今回はビブリオバトル。テーマは「不安に対処するための新書」です! 不安を鎮めようと思いまして。

 以下の6冊が紹介されました。

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【1冊目】
『過剰可視化社会 「見えすぎる」時代をどう生きるか』(與那覇潤、PHP新書)

 今の社会は見えれば不安はなくなるとばかりに、全てを可視化しようとしてますが、可視化できない、表現できないものがあります。例えば「赤」と言えば、あの「赤」ね、と分かったようではありますが、本当はどんな赤なのか分かっていません。全て見えるという前提は誤っています。

 私としては、コロナ禍とその後の違和感が解消できました。社会編も個人編も、その後の対談パートも、とても面白いです。

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【2冊目】
『「認められたい」の正体 承認不安の時代』(山竹伸二、講談社現代新書)

 承認と自由はトレードオフの関係にあります。人から認められたければ、我慢するしかありません。承認には、他者に依存する側面があるのです。親しい間柄での承認にも、集団内での承認にも。どうすれば親や恋人から承認されるかよく分かりませんし、除草剤を撒けば集団内では承認されるのかもしれませんが…。

 しかし、一般的承認、普遍的価値を目指す承認なら、自分で自分を認めつつ自分勝手ではないという、他者に依存しない承認もありえます。それは、自分の欲望と自分がすべきこととをよく見て、折り合いを付けるという方法で、可能かもしれません。

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【3冊目】
『自己肯定感という呪縛 なぜ低いと不安になるのか』(榎本博明、青春新書INTELLIGENCE)

 なぜ最近こんなにも、自己肯定感なのか。

 日本人は自己肯定感が低いといわれますが、それは単に日本語のアンケートの聞き方かもしれません。日本語ができる外国人に日本語のアンケートを答えてもらうと、「とてもそう思う」と答える人は減って、「ややそう思う」が増えます。

 自己肯定感を上げればうまくいくと言われますが、順序が逆です。なにかがうまくいっているから、自己肯定感が上がるのです。それに、自己肯定感が低いからダメだと言われても、対処のしようがありません。

 またそもそも、自己肯定感が高けりゃいいというものではありません。不安には不安の役割、効用があるのです。

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【4冊目】
『どうせ死ぬのになぜ生きるのか 晴れやかな日々を送るための仏教心理学講義』(名越康文、PHP新書)

 人は予想不能のものに不安を覚えます。最も典型的なものは死で、過去その不安を解消するために使われたのは宗教でした。

 著者は精神科医ですが、けっこうストレートな仏教推しでした。末尾には般若心経の全文が掲載されてます。
 善行を積みましょうというような、ある種ベタですが、ただ、不安の解消は、ベタにしかできないのかもしれない、と思いました。

 ブッダから4000年経っても、同じようなことをやっています。宗教というのは、価値と行動を繋げる体系として生き残っているだけあって、うまくできてるものだな、と思いました。

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【5冊目】
『定年バカ』(勢古浩爾、SB新書)

 充実した定年に備えようという色々な「定年本」を、バッサバッサと切り捨てるスタイルの本です。その切り捨て方が徹底していて小気味良いほど。

 著者の考えの根底には、定年後は何をしても自由なので、逆に何もしない自由だってもっと認められるべきという考えがある。また、充実した定年後のためには前もって備えることが必要という主張に対しては、「備えなくたっていい。今までもなんとかなってきたし、定年したってなんとかなる」というスタンス。

 個人的には定年を考える年齢になってきましたが、定年に対する世間の意見とは一線を画するこんな見方もあるんだなと、参考になった。

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【6冊目】
『増えるものたちの進化生物学』(市橋伯一、ちくまプリマー新書)

 進化心理学はとてもおすすめの概念ですので、ぜひお持ち帰りいただきたい。

 増えて遺伝するものが生じれば、自動的に、不安や幸福は生じるというのです。というのも、危険を回避するために不安を感じ、繁殖を有利にして幸福を感じるものたちが、そうでないものたちよりも、増えるからです。われわれは増えるものたちの末裔で、不安や幸福を完全に無視することなどできないのです。

 しかし、それが単に自動的に生じるものだと知っているだけで、まだしも対処することができるようになるでしょう。

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 どの本も面白そうですが、どうでしょう、不安を鎮めるならどの本?

 投票の結果、同票で『過剰可視化社会』『自己肯定感という呪縛』『増えるものたちの進化生物学』の決選投票となり…。

 なんと決選投票も3対3対3で決着つかず、ジャンケンの結果、『過剰可視化社会』がチャンプ本となりました! ですので次回は『過剰可視化社会』の読書会です。

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 写真は豚バラ肉のワイン煮込み。今回はパプリカのマリネが好評でした。

 ではまた来月、いい新書とともにお会いしましょう。


 (月1回土曜午前に読書会を開催しています。詳しくはココをクリック!)

2023年8月19日土曜日

みんなの尼崎大学 サマーセミナー「本の新しい選び方」


先日、みんなの尼崎大学サマーセミナーで、「本の新しい選び方」を開催しました! 6名の方に参加いただきました。

 セミナーのテーマは、「本の実力からではなく、自分の興味のほうから本を探す」。
 本屋に行く、面白そうな本がある、買って読む、やっぱり面白い。こういった選書眼に達しておられる方も多いでしょう。
 しかしこれだけでは、やや受動的・消費者的といえましょう。さらなる読書の快楽を得るなら、こちらから能動的に探しに行こうと。

 「本の新しい選び方」をごく簡単に説明すると、自分が知りたい事柄のキーワードから、ネット上の書評情報を検索して、本を選ぶというものです。
 この方法なら、まともな本を選ぶことと、自分の関心のほうから選ぶこととを、両立できます。

 当日は、スマートフォンでできる簡易版の検索を実践いただきました。探した本は、参加者からいただいたお題で二つ、「読んだ本を忘れないための本」と、「西洋の巡礼についての本」です。

 この二つのテーマについて、私の「本の新しい選び方」で選んだ本は次のとおりです。全冊、信頼できる評者の推薦つきです。

【読んだ本を忘れないための本】

【西洋の巡礼についての本】

 Google Chromeのすごく便利な拡張機能、「OneTab」を使っています。


 参加者からいただいた感想は次のとおりです。

「本の実力からではなく、という考え方自体が面白かったです」
「面白い本を書いた人が推薦する本は面白いだろう、なるほどです」
「いろんな検索を実践してみます。読書が楽しみになりました」

 参加者の皆様、ありがとうございました!

2023年7月24日月曜日

読書会紹介


大阪で読書会を開催しています。   
現在は、新書(岩波新書・中公新書・講談社現代新書ほか、各社新書レーベル)限定で行っています。     

雰囲気はなごやかでざっくばらんです。  
参加者は会社員・学生の方々、人数は毎回8名程度です。 
テーマについて深く、かつ多様に考えることのできる読書会としたいです。  

【進め方】
奇数回と偶数回で異なります。

奇数回は、参加者それぞれがおすすめの新書を紹介する、紹介型の読書会です。ビブリオバトルのルールに従ってやってます。発表でも投票のみでも参加可能です。ビブリオバトルについてはこちら

偶数回は、前回紹介された本の中から選ばれた1冊をみんなで読む、課題本型の読書会。読んで感銘を受けたページを指摘しながら、自分の読みを概ね5分ずつ語る(短くても可、パスも可)、というような形でやってます。

【主催者】
私、連鎖堂です。よろしくお願いします。
普段は弁護士をしています。平日が殺伐としているので、週末の読書会は落ち着いたものにするよう努めてます。

【詳細】
日程 原則毎月第4土曜日 午前10時から13時00分まで
場所 大阪市北区のレンタルキッチン
参加費 会場費と昼食(軽食)費とで合計2000円

【参加方法】
tatsuya_wakitaアットyahoo.co.jp
まで、メールください。ぜひお気軽にどうぞ!


【今までのテーマ & 課題本】

□ 第1、2回のテーマは「情報論」
第1回で発表された本は、
 『太平洋戦争日本語諜報戦』(武田珂代子、ちくま新書)
 『未来をつくる図書館』(菅谷明子、岩波新書)
 『流言のメディア史』(佐藤卓己、岩波新書)
 『脳が壊れた』(鈴木大介、新潮新書)
 『アリストテレス入門』(山口義久、ちくま新書)
第2回の課題本は、第1回で「最も読みたくなった本」を獲得した、
 『未来をつくる図書館 ニューヨークからの報告』(菅谷明子、岩波新書)

□ 第3、4回のテーマは「労働観」
第3回で発表された本は、
 『勤勉は美徳か?』(大内伸哉、光文社新書)
 『隠された奴隷制』(植村邦彦、集英社新書)
 『なぜ、残業はなくならないのか』(常見陽平、祥伝社新書)
 『空気の検閲』(辻田真佐憲、光文社新書)
 『新しい労働社会』(濱口桂一郎、岩波新書)
第4回目の課題本は、第3回で「最も読みたくなった本」を獲得した、
 『勤勉は美徳か? 幸福に働き、生きるヒント』(大内伸哉、光文社新書)

□ 第5、6回のテーマは「医療」
 第6回の課題本は、『心病める人たち 開かれた精神医療へ』(石川信義、岩波新書)

□ 第7、8回のテーマは「人文」
 第8回の課題本は、『グロテスクな教養』(高田里惠子、ちくま新書)

□ 第9、10回のテーマは「進化」
 第10回の課題本は、『「退化」の進化学 ヒトにのこる進化の足跡』(犬塚則久、ブルーバックス)

□ 第11、12回のテーマは「現代アメリカ」
 第12回の課題本は、『ルポ 不法移民とトランプの闘い 1100万人が潜む見えないアメリカ』(田原徳容、光文社新書)

□ 第13、14回のテーマは「宇宙」
 第14回の課題本は、『天文学者が解説する 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』と宇宙の旅』(谷口義明、光文社新書)

□ 第15、16回のテーマは「キリスト教」
 第16回の課題本は、『キリスト教は邪教です!』(ニーチェ、講談社+α新書)

□ 第17、18回のテーマは「家計」
 第18回の課題本は、『サラ金の歴史 消費者金融と日本社会』(小島庸平、中公新書)

□ 第19、20回のテーマは「脳科学」
 第20回の課題本は、『未来は決まっており、自分の意志など存在しない。 心理学的決定論』(妹尾武治、光文社新書)

□ 第21、22回のテーマは「新型コロナ」
 第22回の課題本は、『新型格差社会』(山田昌弘、朝日新書)

□ 第23、24回のテーマは「ロシア」
 第24回の課題本は、『嘘だらけの日露近現代史』(倉山満、扶桑社新書)

□ 第25、26回のテーマは「心理学」
 第26回の課題本は、『感情の正体 発達心理学で気持ちをマネジメントする』(渡辺弥生、ちくま新書)

□ 第27、28回のテーマは「読書術」
 第28回の課題本は、『わかったつもり 読解力がつかない本当の原因』(西林克彦、光文社新書)

□ 第29、30回のテーマは「西洋中世」
 第30回の課題本は、『刑吏の社会史 中世ヨーロッパの庶民生活』(阿部謹也、中公新書)

□ 第31、32回のテーマは「表現者のための新書」
 第32回の課題本は、『おいしい味の表現術』(瀬戸賢一他、インターナショナル新書)

□ 第33、34回のテーマは「食」
 第34回の課題本は、『給食の歴史』(藤原辰史、岩波新書)


【特別回】

特別回第1回 2022年12月17日 「やってみようミニ一万円選書」

特別会第2回 2023年2月25日 「不思議の国の読書会」

特別会第3回 2023年7月22日 『ネガティブ・ケイパビリティ』+NHK取材


各回の詳細は、→ 読書会記録 へ!

2023年7月22日土曜日

特別回3回 『ネガティブ・ケイパビリティ』


今回は特別会、課題本型の読書会で、本は『ネガティブ・ケイパビリティ』(帚木蓬生)です。

 で、何が特別かというと、私のもとに突然NHKから連絡がありました。「ネットで見つけた連鎖堂さんの『ネガティブ・ケイパビリティ』の感想が面白かったので、連絡させてもらいました」「8月末頃の放映で『ネガティブ・ケイパビリティ』の特集をします。そこで、読書会を取材させていただけませんでしょうか」という。

 そこで読書会を開いたんですが、しかし皆さん、カメラが入って全国放映されるかもしれないというのに、いつもどおりというか、自由というか、好き勝手でした!
 いやー、楽しかったですね。テンションが上がりました! 長いこと本の投稿をしていると、こういうこともあるなと。

 以下、参加者から出た意見です。

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Aさん
  •  ウイルフレッド・R・ビオン(精神科医)の言葉「ネガティブ・ケイパビリティが保持するのは、形のない、無限の、言葉ではいい表わしようのない、非存在の存在です。この状態は、記憶も欲望も理解も捨てて、初めて行き着けるのだと結論づけます」(58頁)の部分、映画「2001年宇宙の旅」を思い出した。この映画は、人工知能HALが狂って危機に陥ったとき、HALの記憶を抜いていくことによって航行を継続でき、ついに木星=ジュピター(理性の象徴)を超えて進んでいくんですが、そこから終わりまでの圧倒的な映像を思い出すだけでもドーパミンが出る。この映画は、何故か特に男性が色々と解釈しようとしてくれるけど、解釈なんかしないほうが、あの謎を楽しめると思った。
  • Hさん その映画にはカタルシスはあるんですか?
  • Aさん カタルシスを求めることはネガティブケイパビリティの対極にあるのよ!

Bさん
  •  理解しにくいところもあり、ネガティブ・ケイパビリティを学ぶことでネガティブ・ケイパビリティが鍛えられる、と思った。
  •  なぜ理解しにくいか考えてみたところ、「否定」の難しさがあるのではないか。否定というのは抽象的なので。ただ、否定神学(「神は何でないか」から考える神学)など、否定から切り込むことはありうるかもしれない。
  •  自分の人生の選択で考えてみると、「こうやったことで解決したんだ」と自分に言い聞かせていたところがあったが、ネガティブ・ケイパビリティの考え方で、こういう言い聞かせをやめることができたように思う。

Cさん
  •  ビブリオバトルで紹介してもらって読んで以来、もう4回も読んだ。しんどいときには読むようにしている。周りの、潰れそうな方にも薦めている。
  •  私は行方を案じすぎてしまうんですが、この本で、解決だけを求めないということを学んだ。今のその時を楽しんで味わえればよいというような。

Dさん
  •  研究に必要な「運・鈍・根」はネガティブ・ケイパビリティに通じているという話(194頁)が印象的だった。昔、科研費をいただいたとき、結果が出なくてすごく焦った。そのときは利根川進さんの本を読んで耐えようと思ったが・・・。社会に余裕がないと、学問の大きな成果は出ないと思う。
  •  私は何でも分かりたがる、答えを求めてしまうタイプなので、しんどいことが多い。
  • Hさん でも、Dさんが撮らはった映画は、むしろ答えを示してなかったような・・・。
  • Dさん 作り手となると違うんです。そういえば、私が一番好きなチェロの「無伴奏チェロ曲」は、よくわからないのにそのまま受け止めることができた。

Eさん
  •  6頁で「何かを処理して問題解決をする能力ではなく、そういうことをしない能力」とネガティブケイパビリティの概念が書かれているので、理解したつもりで読み進めていったが、メルケル首相など具体例がいろいろ出てくるとよくわからなくなった。ただ78頁でポジティブケイパビリティについてとの比較の記載を読むまでは「ネガティブ」と「ネイティブ」を読み違えていたこともあり「人間に本来備わる」というような良い意味に捉えて読むことができた。
  •  自然療法で学んでいる聖ヒルデガルドやバッチ博士の著書によく「中庸であれ」という言葉が出てくる。それに通じるものがあるので、今後理解が深まると思う。

Fさん
  •  なんでもすぐ検索して、答えを言う人が苦手です。黒井千次「知り過ぎた人」の話(75頁)にはとても共感できた。そんなにすぐ答えなくてもいいのに、と思う。
  •  広い視野、「頂点」を持つ(57-58頁)というのも共感できた。人にはそれぞれ、考え方や性格など良いところがある。頂点を意識して人と接したいと思っている。

Gさん
  •  ネガティブ・ケイパビリティには、少なくとも2つの意味があると思う。①解釈しないという意味と、②答えを出さないという意味(いわば待機戦略)。これを今一歩、分別できてないのではないか。
  •  私としては①を、自動的に生じうる解釈を止めることは可能かという意味でもっと知りたかったが、なしくずしに②の話が混じってきてしまっている。

Hさん
  •  世の中には、そう簡単に解決できない問題が満ち満ちている(192頁)というのが、強く同感。
  •  私は弁護士だし、もともとは完全に問題解決志向。客観的な問題が解決すれば、全て解決する。なんなら、主観なんてない、みたいな。しかし、ちゃんと勝てなかった案件でも感謝されることはあるし、勝訴しても真の問題はぜんぜん解決してないこともある。職種が違うんで、解決を目指さないことはないけど、私が入ることによって、マシになる案件なら、入る意味があると思った。

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 いい本でした。実際、私は『ネガティブ・ケイパビリティ』を、重要な概念だと思っているのです。分からない、解決できない、でも平気っていう。

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 料理のほうは、暑くなってきましたが、しかしポーク! バルサミコソースでさっぱりと。

 では来月は、いい新書とともにお会いしましょう。


2023年6月24日土曜日

第34回読書会 『給食の歴史』


新書読書会「連鎖堂」、今回は『給食の歴史』(藤原辰史、岩波新書)の読書会を行いました。

 給食にはプラスとマイナスの思い出がいっぱい。読書会で話すと年代の違いが盛り上がります。そしてそれが歴史に繋がっていると感じられる、おお、読書会の醍醐味を得た!

 参加者から出た意見は、次のとおりです。

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Aさん
  •  好きだった給食は、ソフト麺のカレー掛け。ソフト麺は本書では評価がイマイチ(213-214、231頁)だが、おいしかった印象。
  •  給食の苦い思い出は、レトルトパウチのハンバーグが、学期の終わりに机の中から出て来たという。
  •  富国強兵の尻尾ともいえる初期の給食の目標、日本人の「体格」向上(158頁)は、ある程度実現したかもしれないが、西洋人のような高身長をめざすというのは、そもそも無理筋だったのでは。
  •  世界史の一部としての給食、というオチ(257頁)は、やはり印象的。身近な事柄も、戦後史、世界史に繋がっていくものなんだなという感慨を得た。

Bさん
  •  好きだった給食は、カレーについていたフルーツヨーグルト。
  •  嫌いだった給食は、レバー、その他いろいろ。給食を食べきらないと席を立てない決まりだったので、昼休みに遊べないまま残飯と向き合って過ごすという嫌な思い出が。
  •  給食の二面性、ヤヌス性(子どもを守るのか、子どもを自立させるのか、123頁など)がよく書かれていて面白かった。例えば、給食の無償化はセーフティネットになりうるが、無償化によって恩恵感が生じて異議をいいにくくなる側面もあるなど。というか、給食にはやっぱり闇があったんだ、よかった、と思った。

Cさん
  •  好きだった給食はカレー。匂いだけでわくわくした。
  •  嫌いだった給食は、春雨とベーコンのマヨネーズ和え。あと、どう考えても牛乳とご飯は合わない。
  •  アレルギーがあっても皆と同じものを食べなければならないという指導(1970年代、204頁)など、給食には、みんなと同じことをするのが当然、個人の例外を許さないという、日本の特性が現れているように思った。
  •  あと、どう考えても牛乳に固執しすぎ。

Dさん
  •  好きだった給食は、揚げパン、コーヒー牛乳(粉末を混ぜるバージョン)
  •  嫌いだった給食は、蛍光黄色の汁まみれの沢庵と、煮すぎてボソボソの冷たいレバー生姜煮とを、一つの皿に盛るため混ざり合って、えもいわれぬまずさだったやつ。おかげで今でも沢庵が嫌い。
  •  著者がオチで言う(251-253、260頁)とおり、「運動史」としての側面が面白かった。歴史は下部構造によって「自然に」変わるような印象をもっていたが、文部省(裏工作含む)なり、佐藤栄作(人気取り含む)なり、学校栄養職員・調理員・教師・保護者等々のセンター方式反対運動なり、歴史は具体的な人々によって「人為的に」変わるんだな、と思った。というか、文部省って「運動」するんだ。

Eさん
  •  好きだった給食はオレンジゼリー。
  •  嫌いだった給食は、公立幼稚園で出た牡蠣。苦すぎ。
  •  正直、話が細かいと思った。脱脂粉乳のくだりが興味を引かれた。

Fさん
  •  好きだったというか、マシだった給食はカレー。
  •  嫌いだった給食は、野菜まみれの煮物など、野菜全般。当時好きだった隣の席の男の子は肉嫌いで、よく交換していた。
  •  戦中・敗戦後の栄養不足、欠食がやはり印象的。東條英機の、「食うものが足りないと不足を唱うる事は、私には解せないところでありまして」(59頁)とか。フーヴァー元大統領が、「このままでは日本国民の栄養水準はドイツの強制収容所と変わらない」と警告を発した(89頁)など。
  •  給食と再軍備(自衛隊)とが結びついていた(153-155頁)というのも驚き。アメリカの余剰農作物の処理を兼ねた食料・軍事・経済援助と、自由社会防衛のための自国防衛力増強のセット、MSA(相互安全保障法)など。

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 実にいい本でした。あと、給食のネタは読書会に向いています。

 そして今日の手料理は、給食では出ない、豚バラ肉の赤ワイン低温調理! もう大人だから。しかしもっと給食に寄せればよかったかもしれない。

 やっぱり読書会はいいですね! ではまた。


2023年5月27日土曜日

第33回読書会 ビブリオバトル・テーマ「食」


新書読書会「連鎖堂」は昼食付きです。レンタルキッチンでの開催で、私がその場で料理しています。だから今回のビブリオバトルのテーマは「食」!

 「食」テーマの新書、けっこう多いですね。さすが新書、身近で、掘り下げかたが多様で、とても興味深かったです。

 次の4冊が紹介されました。

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1冊目
『給食の歴史』(藤原辰史、岩波新書)

 給食に、いい思い出ありますか?
 給食にはマイナス面があります。戦後のアメリカの農業保護の側面や、画一的な食を強制する側面もあります。
 しかし給食には、明らかなプラス面もあるのです。子どもの擁護、貧困対策、また、災害対策にもなります。読んでいると、「給食はまずいとか言ってごめんなさい」という気分になりました。

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2冊目
『「おふくろの味」幻想 誰が郷愁の味をつくったのか』(湯澤規子、光文社新書)

 最も面白かった指摘は、「おふくろの味」は、女性が料理をする前提になっている、というのは気づきやすいと思いますが、そもそも「おふくろ」という言葉は男性しか使わないので、二重にジェンダーが反映されているという指摘です。
 実際、「おふくろの味」という言葉を定着させたのも、辻勲(辻学園調理・製菓学校創始者)または土井勝とされており(異説あり)、男性です。
 また、「おふくろの味」にはジェンダーのほか、都市化の進行という時間軸・都市への移住という距離軸も反映されている(故郷の味という側面もある)というのも面白かったです。

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3冊目
『「食べること」の進化史 培養肉・昆虫食・3Dフードプリンタ』(石川伸一、光文社新書)

 食の過去・現在・未来ですが、未来についての記述が最もエッジが効いてます。
 過去は人類進化史から始まるのですが、ヒトは加熱調理によって消化にエネルギーを費やさなくてよくなり、そのぶん大脳が発達した、というのです。
 そして未来、例えば、ニュートリゲノミクス(栄養ゲノム学)は、個々人の遺伝的特質を解析して最適な栄養を与えられるようになるかもしれない。さらに3Dプリンタで、見た目は同様なのに、栄養は人それぞれカスタマイズされているかもしれない。無重力状態での乳化しやすさを利用した宇宙チャーハンなども面白いです。

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4冊目
『「美味しい」とは何か 食からひもとく美学入門』(源河亨、中公新書)

 美味しさは客観的か、主観的か。
 美味しさは、知識なしに純粋に味わうべきか、知識を持って味わうべきか。
 美味しさは言語化できるか。
 料理は芸術か。
 こういう問いが、なんと順を追って分かるように説かれています。哲学の丁寧さが分かります。

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 以上4冊、どの本が最も読みたくなりましたでしょうか? 厳正な投票の結果…、
 チャンプ本は『給食の歴史』。満票(発表者以外の全員が投票)です!
 そこで次回は、『給食の歴史』(藤原辰史、岩波新書)を課題本とする読書会です。

 給食にはいろんな思い出もあるので、読書会も盛り上がりそう。給食について喋りたい!


2023年5月13日土曜日

候補本リスト_「働きすぎ」を考えるための本


そろそろちょっと、「働きすぎ」について考えないと、ということもあるでしょう。そんなときは!「読書de人生相談」ですよ。

そこで先日のイベント「読書de人生相談」で私が選書しました、働きすぎについて考えるための候補本、12冊をリストアップします。

https://www.instagram.com/p/CsLSgU1vODn/

https://www.instagram.com/p/Cqhsu8Ovyxr/

もし気になりましたら書店か図書館でどうぞ。本は立ち読みしてから入手するのがオススメ! ネットだけじゃどんな本か分からないのですよ。

hontoなら、リンクから「ほしい本に追加」すればスマホで在庫と棚まで示してくれます。(無料会員登録が必要)


ではどうぞ。


第1 残業


【候補本1】

本間 浩輔 (著)

『残業の9割はいらない ヤフーが実践する幸せな働き方』(光文社新書)

https://honto.jp/netstore/pd-book_29137535.html

【「TRC MARC」の商品解説】

「企業が勝つため」「社員が幸せになるため」の希望に満ちた働き方改革論。「1on1」「どこでもオフィス」など、数々の人事施策を提唱してきたヤフー常務執行役員が、「新しい働き方」と「新・成果主義」を徹底解説する。

【書評等情報】

2019-02-09日本経済新聞朝刊評者:中原淳(立教大学教授)


【候補本2】

中原 淳 (著)、パーソル総研 (著)

『残業学 明日からどう働くか、どう働いてもらうのか?』(光文社新書)

https://honto.jp/netstore/pd-book_29394822.html

【「TRC MARC」の商品解説】

なぜ日本人は長時間労働をしているのか。歴史、習慣、システム、働く人の思い…2万人を超える調査データを分析し、あらゆる角度から徹底的に残業の実態を解明する。「希望の残業学」プロジェクトを書籍化。

【書評等情報】

中沢孝夫日経新聞2019年1月10日「目利きが選ぶ3冊」 白河桃子書評サンデー毎日2019年2月17日 城繁幸書評ブログ2019年2月25日


第2 働きすぎない秘訣・段取り


【候補本3】

堀内 都喜子 (著)

『フィンランド人はなぜ午後4時に仕事が終わるのか』(ポプラ新書)

https://honto.jp/netstore/pd-book_30002342.html

【「TRC MARC」の商品解説】

ワークライフバランス世界1位! 仕事、家庭、趣味、勉強…。フィンランド人はなんにでも貪欲。同時に、睡眠時間は平均7時間半以上。やりたいことはやる、でもゆとりのあるフィンランド流の働き方&生き方の秘訣を紐解く。

【書評等情報】

出口治明:帯推薦文


【候補本4】

熊谷 徹 (著)

『ドイツ人はなぜ、毎日出社しなくても世界一成果を出せるのか 7割テレワークでも生産性が日本の1.5倍の秘密』(SB新書)

https://honto.jp/netstore/pd-book_30862135.html

【「TRC MARC」の商品解説】

コロナ危機勃発以降、テレワークが急速に広まったドイツ。好きな場所、好きな時間に働いて、効率よく成果を出す。ワークライフバランスを高める…。ドイツに30年以上暮らす著者が、ドイツ人流・消耗しない働き方を教える。

【書評等情報】

同著者先行書『日本の製造業はIoT先進国ドイツに学べ』への小林雅一書評朝日新聞2017年6月11日


【候補本5】

坂田 幸樹 (著)

『超速で成果を出すアジャイル仕事術 プロフェッショナル2.0という働き方』

https://honto.jp/netstore/pd-book_31646927.html

【「TRC MARC」の商品解説】

答えのない時代にすばやく成果を出すためには。自らの人生を設計して成果を出していくために必要とされる働き方を、グローバルで活躍するプロフェッショナルたちの事例を交えながら伝授する。

【書評等情報】

細谷功:帯推薦文


【候補本6】

佐々木 かをり (著)

『計画力おもしろ練習帳 7週間書き込み式 新装版』

https://honto.jp/netstore/pd-book_28555150.html

【「TRC MARC」の商品解説】

「だらだら」「ぐずぐず」しがちな夏休み中の子どもにとって、勉強以前に大切な「計画する力」に効果抜群の1冊。7つのステップで考える子・言われる前に動ける子に変わります。2児の母であり、2つの会社を経営、活躍中の著者が実践している時間管理術を子ども用にアレンジ。学校でも塾でも教えてくれない計画の立て方、修正の仕方が身につきます。大好評の初版をもとに、読者やリピーターの声を反映して、より見やすく使い勝手よく、改良しました。楽しいイラストやシール、1週間ごとのコラムなど、続ける工夫も満載なので、飽きっぽいお子さんでも大丈夫!夏休みの7週間(49日間)分の書き込み式計画表に加え、ごほうびシール426枚、保護者用「本書の目的と使い方」冊子つきです。

【書評等情報】

齋藤孝:帯推薦文


第3 働き方改革


【候補本7】

中山 義人 (著)

『なぜ、あなたの「働き方改革」は続かないのか? 本当の「働き方改革」を実現する業務プロセスのデジタル化』

https://honto.jp/netstore/pd-book_28820608.html

【「TRC MARC」の商品解説】

「労働時間の長さで収入を増やす時代は過ぎ去った」「多様な働き方を認め、短時間で高い付加価値を生み出す」などの主張をもとに、デジタル化時代に向けた働き方改革を提示する。企業の先進的な事例も紹介。

【書評等情報】

森川博之:帯推薦文


【候補本8】

森永 雄太 (著)

『ウェルビーイング経営の考え方と進め方 健康経営の新展開』

https://honto.jp/netstore/pd-book_29496964.html

【「TRC MARC」の商品解説】

従業員のモチベーション向上が生産性を上げる! 健康経営をより拡張的にとらえた「ウェルビーイング経営」という考え方とその取り組み方について紹介。先進事例も取り上げる。

【書評等情報】

加護野忠男エコノミストon-line2019年4月5日


【候補本9】

海老原 嗣生 (著)

『人事の組み立て 脱日本型雇用のトリセツ 欧米のモノマネをしようとして全く違うものになり続けた日本の人事制度』

https://honto.jp/netstore/pd-book_30889792.html

【「TRC MARC」の商品解説】

本気で日本型雇用を変えるためには、雇用システム・人事を隅々まで理解して、根治を目指さなければならない。欧米と日本の雇用システムの違い、日本型雇用につきまとう社会問題を解説し、最適な人事管理術を提案する。

【書評等情報】

古市憲寿:帯推薦文


第4 労働法


【候補本10】

佐々木 亮 (著)

『会社に人生を振り回されない 武器としての労働法』

https://honto.jp/netstore/pd-book_30887431.html

【「TRC MARC」の商品解説】

労働に関連する多くのトラブルで、働く側(労働者)が泣き寝入りをしている。働く人のための「労働法」という強力な「武器」がどのようなものであり、どう使って戦えばよいのかを、雇用形態別に解説する。

【書評等情報】

2021-06-26日本経済新聞朝刊評者:本田由紀(教育社会学者)


第5 働きすぎの背景


【候補本11】

礫川 全次 (著)

『日本人はいつから働きすぎるようになったのか 〈勤勉〉の誕生』(平凡社新書)

https://honto.jp/netstore/pd-book_26255012.html

【「TRC MARC」の商品解説】

常態化した長時間労働、進んで引き受けるサービス残業…。日本人を「勤勉」に駆りたててきたものは何か? 二宮尊徳、吉田松陰、松下幸之助といった勤勉家を通して、自発的隷従のメカニズムを解説する。

【書評等情報】

小谷敏北海道新聞2014年10月7日


【候補本12】

デヴィッド・グレーバー (著)

『ブルシット・ジョブ クソどうでもいい仕事の理論』

https://honto.jp/netstore/pd-book_30371305.html

【「TRC MARC」の商品解説】

紀伊國屋じんぶん大賞(2021) なぜ社会の役に立つ仕事ほど低賃金なのか。私たちの世界をむしばむブルシット・ジョブ(クソどうでもいい仕事)の実態と弊害とメカニズムを、証言・人文知等を駆使しながら解明、理論化。仕事のほんとうの「価値」を再考する。

【書評等情報】

2020-12-26日本経済新聞朝刊評者:陣野俊史(批評家) 2020-12-26朝日新聞朝刊評者:藤原辰史(京都大学准教授) 2020-12-12毎日新聞朝刊評者:中島岳志(東京工業大学教授・政治学) 2020-12-12毎日新聞朝刊評者:伊藤亜紗(東京工業大学准教授・美学) 2020-09-12毎日新聞朝刊評者:伊藤亜紗(美学者 2020-10-31朝日新聞朝刊評者:本田由紀(東京大学教授・教育社会学) 2020-08-29東京新聞/中日新聞朝刊評者:平川克美(評論家) 服部茂幸週刊エコノミスト(2020-11-24)54頁 津村記久子週刊文春(2020-10-22)103頁 ブレイディみかこ週刊エコノミスト(2020-10-13)55頁 山口周プレジデント(2020-10-16)103頁 内田樹AERA(2020-09-14)5頁 

          


 6冊目はネタですが…。でも役立つかもしれない。

 本を探すのって、楽しいですね! お酒好きの人は「ビールなら何杯でも飲める」とか言いますが、私に言わせれば、本を探すのなら何時間でもできる。ほとんどトランス状態に入ることがあります。

 そのようなわけですので、働きすぎのほかにも、「こんな悩みに応える本が知りたい」というかた、いらっしゃいましたら、メッセージください。ちょっとお時間いただければ、書評つきで選書します!