2024年5月4日土曜日

第40回読書会 『ルールはそもそもなんのためにあるのか』

『ルールはそもそもなんのためにあるのか』(住吉雅美、ちくまプリマー新書)

『ルールはそもそもなんのためにあるのか』(住吉雅美、ちくまプリマー新書)の読書会を行いました! 初めての方にも参加いただき、嬉しかったです。

 課題本は法哲学というハードル高めの分野。でもちくまプリマー新書で読みやすいので貴重です。私は弁護士ですが、普段の業務(欠陥住宅訴訟が多い)では事実認定に注力するので、法哲学なんか考えないぞ! なのでこの本は新鮮で(笑)、すごく面白かったです。

 ルールについては喋りたくなるので、読書会も盛り上がりました。以下、参加者の意見です。

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【Aさん】

○ 著者は、リーグ戦の次戦の日程を有利にするために引き分け狙いの試合運びをすることを、フェアプレーのルールから批判してます(50-54頁)。でも、スポーツというのは、戦略も競うものでは? 私はこれがルール違反だとは感じないです。

○ エスカレーターの左側開けルールがなかなか変わらないって書いてあります(第6章)が、アイデアがあります! エスカレーターの一段一段の段差をすごく高くすれば(スキー場のリフトみたいな感じ。ステップの広さは車いすやベビーカーが乗れるくらい広くすると便利)、歩けなくなって一発で解決。システムのほうを変えて対応するっていう手があります。

Bさん そうすると、非常時に通れなくなっちゃいません?

○ じゃあ、簡単には上り下りできないけれど頑張れば上り下りできるぐらいの高さで! あと、横に階段を設置するのは必須ね(急ぐ人は階段使えルール)。

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【Bさん】

○ 反婚の考え(法的制度としての結婚そのものが不要。第4章)が、最も興味深いです。特定の結婚の仕方を法的に承認する制度があるから、どういう形態でないとダメとかイイとかいう問題になる。でも、結婚の制度がなければ、そもそもそういう不毛な話にならない。
 これはベーシックインカムにも通ずる話で、一律に給付すれば、給付のための基準は問題にならない。
 基準がなくてもやっていけるほど十分な資源があるなら、基準はいらないと思います。

○ アナーキズムであっても生じる秩序っていうのも、興味深い。ロールズの「二つのルール概念」論文で提示された「実践的見方」を援用している論述(56頁)とか。

 ただここで、この本にはけっこう大きな間違いがあって、参考文献に挙げられてるロールズの本は1冊、『公正としての正義 再説』(岩波現代文庫)だけです。でも「二つのルール概念」論文が収められているのは『公正としての正義』(木鐸社)であって、『再説』のほうは、主著『正義論』への批判に回答する内容の全く別の本です。こういうことをやられると、ロールズをちゃんと検討してるのかなと思ってしまって、信頼性が落ちるなあ。

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【Cさん】

○ 大学で、民俗学をとったんですけど、担任の先生は折口信夫先生の弟子のひとでした。
 担任の先生経由で折口信夫先生の調査を聞いたんですが、明治の終わりころだと、祭りの後などに乱交の風俗があって、父親が分からないということもよくあったとか。でも子どもは育っていく。父母だけで育てるというのではなくて、もう少し広いコミュニティで子育てするというのもありうることだなと思います。

○ 殺し屋に追われた親友が自分の家に逃げ込んできて、殺し屋から「逃げ込んできてないか」と問われたときに、それでもカントは、嘘をつくべきでないというんですね(44-47頁)。
 こういう状況になった時にどちらを取っても後悔するような気がして選択が難しいけれど、カントのような考え方もあるんだと思いました。

 Bさん その設例はカント研究者の間でもとても問題になっていて、嘘はつけないんですが、殺し屋と戦うというのは普遍ルールからアリですし、また、答えないというのも普遍ルールからアリっていうことのようですね。

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【Dさん】

○ 公共性と普遍性(41頁)について、ルールが示す価値観とは異なる価値観を持つ人に対しても、そのルールを守りなさいと言える根拠はなんだろう、というのが、最も考えさせられたところでした。多数決でルールを作るとすれば、全員の価値観に合致するルールを作ることは難しい。そうすると、価値観に関わるルールは最小限にしたほうがいいのかな、と思いました。

○ 法律家としては、価値観は時代と共に変化していくものなので、ハーバート・ハートが第2次的ルールとして「変更のルール」を挙げているのが興味深かった。(32頁)

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【Eさん】

○ 自然発生するルールという考え方が、とても面白かったです。ただ、ルールの設定者に都合のいいルールが成立するということは、やっぱりあるように思って、ジレンマを感じます。

○ また、ルールは普遍的であるべきとあって、私もそう思っていたんですが、状況が変わるとルールが変わる事例があるというのにも、なるほどと思いました。例えば「津波てんでんこ」では、弱いものを助けるというルールが避難を遅らせて被害を拡大するので、各自が高台を目指すというルールが成立しているとか(25-26頁)。

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【Fさん】

○ 著者のようにアナーキズムに立っても、合理的・功利主義的でないルールもあり得るというのが、最も面白かったです。サッカーで、弱いほうは手を使ってもいいというんでは、サッカーというゲーム自体が成り立たない。ゲームを成り立たせるためのルール(56-58頁)という視点を得ました。

○ 著者は、道徳とルールを混ぜるのが嫌いみたいで、私も嫌いなんですが、でも実務法曹としては、こんなことは許せん!という、道徳とルールを混ぜてるような人々こそが、ルールを支えている側面は否定できないと思うんです。

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【Gさん】

○ 長く生きていると、ルールがゆるやかに変化していくのを見ることができます。エスカレーターができてルールがなかったころから、左側開けのルールに変化して、それから歩かないルールへ、もうすぐ変化するのかな。電車の整列乗車だって、昔の大阪では誰もやってなかったんですよ。

○ この本全体の感想として、答えを明確にしないというか、踏み込みが浅いというか、ツッコミどころが多い。でもそういう本がむしろ読書会には向くんだな、というのを強く感じました。

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 議論百出で面白かった! 今日の料理は低温オーブン(100℃90分)で焼いた豚バラ、あとチキントマトクリームスープ。ではまた来月!


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