読書会と美術館観覧を、合体! 「構図がわかれば浮世絵が分かる」を開催しました。土曜の午前から、『構図がわかれば絵画がわかる』(布施英利、光文社新書)の読書会を行い、そのあと大阪浮世絵美術館に皆で行って観覧、という試みです。
結果、すごく楽しかったです!
読書会には、課題本のほか、お気に入りの画集もお持ちいただきました。これも大当たりで、お気に入りの画集を持ちよって見せ合うと楽しい、ということが分かりました。
構図がわかると、絵が違って見える。お気に入りの絵もさらに深く鑑賞できるようになるのです。
以下、読書会で出た意見です。ページ数は『構図がわかれば絵画がわかる』のページです。
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【Aさん】
永井豪が描く、大量の悪魔が復活する場面は、逆さにした《紅白梅図屏風》にそっくり。逆三角の曲線で。この逆三角形(54頁)は、ムンクの《叫び》と同じ効果ですよ。悪魔復活の不安感がすごいと思ったら、そういう秘密があったとは。
『画業50周年突破記念 永井GO展 展覧会図録』掲載
《紅白梅図屏風》
《叫び》
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【Bさん】
光文社新書のこの表紙、「三角形」(50頁)が絶妙です。で、思考実験としてこの「白黒」(184頁)を反転してみると、おそらく黒が下側だと安定しすぎるんじゃないか。
また、アランちゃんの位置も絶妙で、上から3分の1程度の、この「点」(11頁)にいるしかない。白い部分とか、もっと上にいたら、締まらないと思います。
加えて、アランちゃん後ろにある影、地平線も絶妙。こんなに小さいのに「水平」(38頁)を感じさせます。
構図に気をつけて改めて見ると、装幀のアラン・チャン(香港のデザイナー)、さすがと思いました。
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【Cさん】
パオロ・ウッチェロ(ルネサンス初期イタリアの画家)が好きで、本書で紹介されている《森の狩人》も素晴らしい。
私が特に好きな、ウッチェロ《聖ゲオルギウスと竜》にはバージョンが2つあります。
私は上の絵がいいと思うんですが、この絵でポイントとなる槍が、上の絵では「対角線」(41頁)になってます。これが効いてるんじゃないか。下の絵は上の絵よりも、全体にちょっとボヤけた感じを受けます。
同じ画家の同じテーマの絵なのに、構図でやっぱり違いますね。
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【Dさん】
切り絵作家の藤城清治さんが好きで、展覧会にもよく行ってます。以前、展覧会のアンケートに答えたら、事務局から「藤城さんがアンケートのお答えに喜んでいます」というお手紙とカードが届いて、とても嬉しかったです。
特に好きな《アリスのハート》は、切り絵で生まれる光と影で遠近感が出ていると思います。真ん中のハートや木の形は「逆三角形」(52頁)の技術が使われていて、緑とオレンジなど補色の技術も発見できました。
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【Eさん】
一つの絵の中で「時間」の経過を表す技法が、西洋にもあります(126頁)が、日本の絵巻には、まさに時間が描かれます。
国宝《信貴山縁起絵巻》は通常の絵巻同様、時間は右から左へ進むんですが、「剣の護法」という童子の登場シーンから次の行動シーンは左から右へのコマ割りで展開されます。このように時間の流れが交錯するため、童子の存在はとてもインパクトがあるんです。
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【Fさん】
山口晃の画集を持ってきました。この、絵巻物みたいな絵が大好きなんです。
山口晃の絵は細部こそが主役という感じなんですが、『構図がわかれば絵画がわかる』を読んで、全体の構図も素晴らしいと気づきました。
《大阪市電百珍圖》では逆三角形の構図(52頁)が大阪市を浮遊させるような効果を生んでいると思いますし、《當世おばか合戦》では円の構図(76頁)が永遠を顕しているのでは。
《大阪市電百珍圖》(ウェブ上に全体図はアップされていないようです)
《當卋おばか合戦》
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【Gさん】
佐伯祐三が好きです。
《下落合風景》に描かれた電柱、真ん中の一番高いものは「垂直」(19頁)ですが、その他の電柱は中央に向かってやや傾いています。《パリ雪景》の家屋も中央へ傾いてる。これはあえて垂直を外すことで、奥行き感を出そうとしたんでしょうか。
本では、セザンヌ《セント・ヴィクトワール山とアーク川渓谷の橋》について、画面の左右での「複数の視点」が指摘されてます(113頁)。
佐伯祐三《勝浦風景》は、画面の上から下へに、「複数の視点」があると思いました。絵の下のほうには崖から見下ろした船が描かれ、絵の上のほうは遠くを見た波や水平線が描かれているのに、絵の全体としては一体感があります。まさに海岸に立って海を見ているようで、凄いと思います。
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【Hさん】
私は、なんといってもビアズリー推しで。100年くらい前に出版された、オスカー・ワイルド『サロメ』の現物を持ってきました。やっぱり本はガラスケースの中じゃなくて、手に取れないと。
「垂直」(19頁)が強いです。服の襞のラインも横の要素がなく、シルエットも縦に長く見えます。血がしたたり落ちる「垂直」も印象的です。
《プラトニックな歎き》では、「垂直」とともに、「水平」も効果的に用いられています。人体の「水平」は、死を感じさせると書かれていますが(34頁)、この絵にはまさに、死が強く漂っています。
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読書会の後は、皆で大阪浮世絵美術館「二人の天才 -葛飾北斎・月岡芳年-」展に行きました。心斎橋のど真ん中にあるコンパクトな美術館です。しかし、構図の本を読んだ後に北斎・芳年を観に行くっていうのは、大正解でした。
いまさらかもしれませんが、北斎の構図、絶妙ですね。《甲州石班沢》の、富士山の稜線と漁師の投網が共鳴するような構図の素晴らしさ。
分かりやすいといえば分かりやすいですが、『構図がわかれば絵画がわかる』を読んだからこそ、北斎の構図の妙を、より強烈に感じたのですよ! きっと!
さらにそのあと喫茶店に行って、シフォンケーキを食べながら、絵画談義をするという…。
とても面白かった! えもいわれぬくらいの、読書会的満足を得たのでした。
ではまた。