2020年12月28日月曜日

『レトリックと人生』(ジョージ・レイコフ、マーク・ジョンソン)

『レトリックと人生』(ジョージ・レイコフ、マーク・ジョンソン)

『レトリックと人生』(ジョージ・レイコフ、マーク・ジョンソン)を読んだ。

 我々の思考は、全部レトリックです。難しい抽象概念も、身の回りの比喩から積み上げていって理解しているのです。例えば、論理は食べ物。論理を味わい、咀嚼し、消化し、あるいは口に合わず、アレルギーを起こす。また例えば、議論は戦い。論陣を張り、不意打ちしたり、罠を仕掛けたり、丁々発止と渡り合ったり。

 また我々は、新しい比喩を創り出すこともできます。それは物事を新しい側面から眺めること。新しい比喩が概念体系に入り込めば、行動も変わる。つまり新しい比喩は、新しい現実の創造でもあるのです。

2020年12月26日土曜日

第10回読書会 『「退化」の進化学』


新書読書会「連鎖堂」を開催しました。課題本は『「退化」の進化学 ヒトにのこる進化の足跡』(犬塚則久、ブルーバックス)です。

 ヒトが動物にほかならないということを心底実感できる、いい新書でした。


 この本は、面白い知見がいっぱい載っているタイプの本です。そこで、参加者それぞれが面白かったところを3つずつ挙げてみて、はたしてカブるのか、バラけるのか確認してみました。
 結果、複数の参加者が面白かったと挙げた(カブった)ところは、次の3点です。
  1. 「脊椎動物の胚発生比較図」 すごく似ている。やっぱりインパクトがあります。
  2. 「スペアの骨 腓骨」 要らない骨あるんかい。
  3. 「尻尾」 脊椎動物の尻尾は多様で面白い。
 他はバラバラ。ほどよいばらけ具合というところでしょうか。

 その他、参加者の意見は次のとおりです。

 □

A 「耳の名は」
  •  人の耳にはでっぱりやくぼみがたくさんありますが、解剖学はその全てにいちいち名前をつけていて、その徹底ぶりが印象的。しかもこういう目立たないでっぱりひとつひとつが、もともとの魚のエラ穴のどの部分から由来しているか分かっているというのが、実に面白かった。(89頁)

B 「外反母趾と類人猿」
  •  外反母趾のレントゲン写真が、類人猿の足とそっくりなのが驚きだった。「(足の親指と人差し指をつなぐ)靱帯はできてから日が浅く、まだ強度が十分に進化しきれていないのかもしれない」(145頁)

C 「尻尾の多様性」
  •  尻尾が印象に残った。尻尾「退化」の経緯:尻尾はもともと、泳ぐための器官。這って歩く爬虫類では、足を後ろに引く筋の付着点。その機能は哺乳類では足が体の下につくため不要となったが、多様な生活型をもつ哺乳類では、じつにバラエティに富んだ機能を果たすことになった。(103頁)

D 「あいまいな男女の境」
  •  男女の性器(陰茎と陰核)は実は発生的には連続していること、また、脳にも性差があるがこれも連続していることが、印象に残った。なお、「遺伝的な性と脳の性が一致しない性同一性障害がおこる物であり、文化の産物でもあると思った。

 □

 楽しかった! そして今回の料理は新作のチキントマトスープ!

 また来月も、いい新書とともにお会いしましょう。


2020年12月24日木曜日

『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』(レイ・カーツワイル)

『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』(レイ・カーツワイル)

『ポスト・ヒューマン誕生 コンピュータが人類の知性を超えるとき』(レイ・カーツワイル)を読んだ。

 面白い。ていうか面白すぎる。いいですか、我々の千倍も兆倍も頭がいいAIが、2045年には誕生する! いや、その「頭がいい」って何ですか? そりゃ人間を兆倍も優秀にしたものですよ! ちょっ、ちょっと待ってください。

 コンピュータの処理速度も、脳スキャン装置の解像度も、倍々ゲームで進化しています。もはや脳の複雑さは処理可能な範囲です。だったら脳をリバースエンジニアリングして、クロック数は兆倍じゃい。そして我々はナノテクノロジーで銀河系を制覇する。本当にそう書いてあるんです。

2020年12月23日水曜日

『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』(笹原和俊)

『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』(笹原和俊)

『フェイクニュースを科学する 拡散するデマ、陰謀論、プロパガンダのしくみ』(笹原和俊)を読んだ。

 いいね!を押せば、性格が漏れ出す。いいねが150個あれば、性格(ビッグファイブ因子)を家族と同じくらい正確に予測できます。いいね千回超? もはやあなたを一番知ってるのはfacebook。

 ソーシャルメディアは情報の質よりも、クリック数やシェア数など広告収入につながるものを高く評価する仕組みになっています。しかし、「ユーザは個人情報を差し出し、プラットフォームはターゲティング広告で儲けるというビジネスモデルが、情報生態系の持続的発展に利するのかどうか考え直す時期にきている」

2020年12月22日火曜日

『人間知性研究』(デイヴィッド・ヒューム、斎藤繁雄・一ノ瀬正樹訳)

『人間知性研究』(デイヴィッド・ヒューム、斎藤繁雄・一ノ瀬正樹訳)

『人間知性研究』(デイヴィッド・ヒューム、斎藤繁雄・一ノ瀬正樹訳)を読んだ。

 前から読みたかったヒュームに挑戦してみた。さすが古典、自分の頭で考えるのはこういうことかと思ったことでした。一ノ瀬正樹解説も面白いです。

 ヒュームによれば、知識は、アプリオリな理論によって得られるのではありません。ある出来事に続いていつも別のある出来事が生じる(恒常的な連接)のを見いだすという経験によって得られます。しかもこれは一種の自然的本能であって、人間に特別なものではない。ヒューム曰く、犬も知識を有する。理性も自然の一種であって、何か別の抽象世界の産物ではないのです。

2020年12月9日水曜日

『旧約聖書の誕生』(加藤隆)

『旧約聖書の誕生』(加藤隆)

『旧約聖書の誕生』(加藤隆)を読んだ。

 キリスト教、ユダヤ教は特異な宗教です。なんとご利益がないのです。

 古代では民族の戦いは神の戦いでもあり、民族が負ければその民族の神も捨てられ消えるのが普通でした。ところがユダヤ民族では、南北王国のうちまず北王国のみが滅亡したため、ヤーヴェが捨てられませんでした。そして神が守ってくれなかったのは、神の力が足りなかったのではなく、民に罪があったためである、とされました。その結果、「神の意が分からなくとも、どんなに悲惨な状態になっても、神を捨ててはならない」となったのです。

2020年12月7日月曜日

『経済史 いまを知り、未来を生きるために』(小野塚知二)

『経済史 いまを知り、未来を生きるために』(小野塚知二)

 『経済史 いまを知り、未来を生きるために』(小野塚知二)を読んだ。

 超面白い。中世では価格は常に一定でした。ではいったい、どこから資本主義が現れたのでしょう。王様と商人? 職人ギルド? 都市市場? ブー。正解は農村。奢侈品は余剰を分配するだけで生産力を上げませんし、ギルドや市場では他の構成員より多く儲ける奴は排除されました。目立たずに少しずつ効率化することができた農村内商工業こそが、生産力を上げたのです。

 設計されたユートピアや伝統復古は、実現できたことがありません。理念やニュースなんて重要じゃない。目立たない日常こそが歴史を変えるのです。