2021年2月27日土曜日

第12回読書会 『ルポ 不法移民とトランプの闘い』


新書読書会「連鎖堂」を開催しました。課題本は、『ルポ 不法移民とトランプの闘い 1100万人が潜む見えないアメリカ』(田原徳容、光文社新書)です。

 この本は、明確な解答のない問題について、取材で得た事実を次々に示す本です。つまり、結論を出す類の本ではありません。著者の迷いもそのまま書かれているのが誠実と思います。

 この先、日本にとってもまさに他人事ではない問題について、多様な意見が出て、広く考えることができました。まずは事実を知らないと話しは始まらないと思ったことでした。

 以下、参加者から出た意見です。

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Aさん
  •  本書の著者と同じように、不法移民に対する考えが、ネガティブ寄りからポジティブ寄りに変わったように思う。
  •  『〈敵〉と呼ばれても』(ジョージ・タケイ)と、本書(第3章)を読んで以来、日系人収容所についてもっと知るべきだなと思っている。
  •  不法移民の犯罪者に息子が殺されたローラさんの話し(125頁以下)、感情を動かされた。ただ、犯人の属性のどこに着目するかによって、怒りや哀しみの向かう先が異なることになるのだろうなと思った。

Bさん
  •  「不法」への著者の悩みが、とても印象に残った。
  •  シリア難民が道端で羊を丸焼きにしたエピソード(201頁以下)を読むと、やっぱり国民国家は、文化的バックボーンを前提にしているのだな、と思った。
  •  18世紀から19世紀にかけて作られた国民国家という仕組みが、この先も持つのか、という疑問を感じた。特に、社会契約による国家の成立という説は、移民を考えると成り立ちがたいのではないか。

Cさん
  •  聖域都市を補助金打ち切りで脅すトランプの部分(143頁以下)を読むと、やはり問題となるのはカネか、と思った。
  •  難民を見て、自分の祖父母の苦労を思い出し、心理的に同一化するエピソード(157頁以下)を読むと、やはり問題となるのは心か、と思った。
  •  日系人収用の歴史学習を促す法律制定過程(101頁以下)を読むと、やはり問題となるのは法か、と思った。

Dさん
  •  「その昔、法律など存在しないこの土地に人々が集まり、米国ができたのです。後から来る人を政府が不法者扱いする方がおかしいでしょう?」(135頁)の部分が印象に残った。
  •  雇用ミスマッチの問題が大きいように思った。日本でもそうだが、その国の人々がやりたくないことを、移民が担うという構造は、どう考えるべきか難しい。移民の利益になるところもあるだろうし、雇用ミスマッチをむしろ温存するようにも思うし、色々な齟齬が生じる原因にもなるだろうし。

Eさん
  •  当局に両親の不法滞在を把握されることを恐れてDACA(若年移民に対する国外強制退去の延期措置)申請をためらう娘に対する、母の言葉が最も印象に残った。「私たちは子供に教育を受けさせるためにアメリカに来たの。その機会が得られるのだから、お願い、DACAを取得して」(313頁)
  •  法律違反と悪とは別の概念だ。
  •  国境を管理するということと、現に暮らしている不法移民を人道的に扱うということは、必ずしも二律背反とはいえないはず。

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 楽しかった! そして今回はポークローストがなかなかの出来!

 また来月も、いい新書とともにお会いしましょう。


2021年2月23日火曜日

『系統樹思考の世界 すべてはツリーとともに』(三中信宏)

『系統樹思考の世界 すべてはツリーとともに』(三中信宏)

『系統樹思考の世界 すべてはツリーとともに』(三中信宏)を読んだ。

 面白い。新しい思考方法を獲得できます。演繹・帰納ではない、第三の推論様式を。

 進化や歴史には、再現も実験もありません。ではそれは科学ではないのか。しかし進化や歴史にも、説の善し悪し、つまり仮説選択基準があるはず。それが系統樹思考です。不動の真偽を定めるのではなく、仮説を果てしなく吟味し続けるのです。進化の木、語族の枝分かれ、写本の系統、不幸の手紙の来歴、等々。さらに目覚ましいことに、時が止まった真偽の世界と違い、系統樹思考は時を扱えます。系統樹から時が流れ出すというのです。

2021年2月22日月曜日

『カブーム! 100万人が熱狂したコミュニティ再生プロジェクト』(ダレル・ハモンド)

『カブーム! 100万人が熱狂したコミュニティ再生プロジェクト』(ダレル・ハモンド)

『カブーム! 100万人が熱狂したコミュニティ再生プロジェクト』(ダレル・ハモンド)を読んだ。

 面白い。アメリカの低所得地域には公園がないか、あっても危険です。そこにNPOカブーム!は2千以上の子ども公園を作り、その9割近くを持続させてきました。公共の難題を解決するには、工夫と情熱が両方必要だと、強く思ったことでした。

 工夫は「ビルド・デイ」。数百人のボランティアを集め、公園を1日で完成させるのです。これにより全ボランティアが「自分たちで作った」と思い、公園が、そしてコミュニティが、続いていくのです。そして情熱。著者の生い立ちも、立ち上げ期も発展も、とても力強いです。

2021年2月18日木曜日

『荒くれ漁師をたばねる力』(坪内知佳)

『荒くれ漁師をたばねる力』(坪内知佳)

『荒くれ漁師をたばねる力』(坪内知佳)を読んだ。

 面白い。読みやすい。著者はシングルマザーとして実家もない萩で翻訳などしていましたが、たまたま六次産業化法の申請を手伝ったことから船団代表となり、鰺と鯖以外の混獲魚を「鮮魚BOX」として料亭に直売する認定を得ました。

 ところが一元出荷を謳う漁協からの反対、どころか「潰してやる」「小娘のくせに生意気なんじゃ」という怒号を乗り越える著者、強い。北新地の料亭への営業も、一回の出張で多く回るため、途中で食べたものを吐き戻す凄絶さ。何かを変えるのに、根性が大事なのは当たり前じゃないか。

2021年2月8日月曜日

『ホモ・ルーデンス』(ヨハン・ホイジンガ)

『ホモ・ルーデンス』(ヨハン・ホイジンガ)

『ホモ・ルーデンス』(ヨハン・ホイジンガ)を読んだ。

 遊びは、文化や言葉よりも古い。なんとなれば、動物も遊びますから。遊びは、それよりも根源的な概念に還元できないのです。遊びは遊びのためにあり、何かのための遊びなんて違う。教育のためのゲームとか、学びのためのアクティビティとか、違うのです。

 ホイジンガの観察によれば、遊びとは、①自発的で、②日常生活から切り離され、③いったん受け入れた以上は絶対的なルールに従い、④緊張と歓びの感情を伴うもの。自発的、非日常、ルール、緊張と歓び。なんとこれは、ビブリオバトルそのものではないですか。

2021年2月1日月曜日

『法哲学と法哲学の対話』(安藤馨、大屋雄裕)

『法哲学と法哲学の対話』(安藤馨、大屋雄裕)

『法哲学と法哲学の対話』(安藤馨、大屋雄裕)を読んだ。

 最高に面白い。雑誌「法学教室」に連載され、初学者に法哲学を概説しようという企画ですが、そんな学習的配慮、瞬く間に粉微塵。法哲学者双璧による、全開の討論です。とても説得的と感じた立論が20ページ後には根こそぎ覆される、目も覚める体験を。

 最終章(法哲学と憲法)のタイトルは「最高ですか?」。憲法は98条で「国の最高法規」と規定しますが、最高って言ってればそれだけで「最高ですか?」。そんなのはあの教祖とどう違うのか。つまり、法はなぜ守られるべきなのか。うーん実に、「最高です!」