2023年2月25日土曜日

特別回第2回 「不思議の国の読書会」


今回は特別回、「不思議の国の読書会」を開催しました!

 『不思議の国のアリス』を皆で読んで、そのあと、あべのハルカス美術館の展覧会「アリス へんてこりん、へんてこりんな世界」を皆で見に行くという、読書会&美術館の複合イベントです。一日中アリス三昧!

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 まず読書会では、どの場面や、どの挿絵がいいと思うか、参加者によってけっこう違いがあり、とても興味深かったです。会話の妙に感心する人、現実の象徴を読み解こうとする人、著者や訳者に着目する人、普通の物語との違いを見いだす人、等々。

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 その後に美術館に行ったところ、これはやっぱり相乗効果だと思うのですが、アリスをさらに満喫できました。

 展示されていた品々は、当時の絵画、資料、当時の雰囲気がわかる展示物、アリスに触発された古今東西の絵画・映画・ファッション、それからデジタルの仕掛けなど、バランスがいいというか、いい塩梅でした。
私のいちおしは、酒井駒子さんの絵画と、ティム・ウォーカー撮影のポスター。

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 読書会から美術館への連鎖で、なんかもう、心から満足しました。

 では以下、読書会参加者それぞれの『不思議の国のアリス』感想です。

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Aさん
  •  注釈がよかった。ツッコミを入れてくれるようで。特にいいツッコミは、意味不明の手紙にも「なんのかのといっても、やはりなにか意味があるように、わしには思われる」と言う王様への注釈、「意味を探さずにいられない王様は『アリス』を読む読者(とくに注釈者)に似ている」(220頁)
  •  最も見事とおもう場面は、ばかでかい子イヌとアリスの遭遇(69-70頁)。ちなみにこの部分の注釈は、「「ばかでかい」のに、なぜ「子イヌ」とわかるのか」
  •  最も見事とおもう挿絵は、ネムリネズミをティーポットにつっこもうとしている帽子屋と三月ウサギ(131頁)

Bさん
  •  今回久しぶりに読み返して、解説まで読んで初めて作者が男性だと知って驚いた。子どもの頃からずっと女性が書いたものだと思いこんでいたので、104頁の注釈、「キャロルの男の子嫌いが見てとれる。彼が男の子と仲よくしたときは、たいていその姉妹がお目当てだった」の、「彼」は誤植だと思っていたぐらい。同時代の作品に比べて、食べものの描写が印象に残らなかったのは、作者が男性で作り方など細かく書かれていないので、子どもには想像できなかったからかなと思った。
  •  最も見事と思う場面は、フラミンゴの木槌とハリネズミのボールでのクロッケー(145頁)。アリスがフラミンゴでハリネズミを叩こうとすると、「きまってフラミンゴは首をねじって、けげんな目つきでアリスの顔を見あげるので」。つい自分もフラミンゴを抱きかかえている気分になる。
  •  最も見事とおもう挿絵は、懐中時計を見るうさぎ(11頁)

Cさん
  •  児童書なのに、可愛いほうに寄せていないのがいい。
  •  チェシャー・ネコも、動物のキャラクターは可愛くて人間に尽くす存在として描かれることもあるが、こちらの思い通りになってくれない他者として登場するところがいい。
  •  最も見事とおもう場面は、アリスの首がすごく伸びて、「さようなら、わたしのあんよさん!」「クリスマスごとに新しい長靴をプレゼントすることにしようっと」のところ(27頁)。尖ってると思った。
  •  最も見事とおもう挿絵はやっぱり、樹の上のチェシャー・ネコ(105頁)

Dさん
  •  会話の返しがみんなデタラメ。こんなにもデタラメを詰め込んだ話があるのかというくらい、めいっぱい詰め込んである。大人はこの、話の通じてなさがわかると思うけど、子どもだと、そのまま普通に読んじゃうかもと思った。
  •  最も見事とおもう場面は、「望みとあれば、わしの手に接吻させてやろう」という王様に、「べつにしたくはございませんな」と返すチェシャー・ネコ(148頁)。デタラメな返しばっかりのなか、この返しは、まともだ。
  •  最も見事とおもう挿絵は、大きくなっていくアリスが法廷で立ちあがったときに陪審席をひっくり返してしまって、リス、モグラ、トカゲたちの陪審員が転げ落ちるところ(211頁)

Eさん
  •  トカゲのビルが、他人とは思えない。煙突から打ち上げ花火みたいに打ち上げられる(67頁)し、陪審席には逆さまに突っこまれる(210-212頁)し。なぜか不運な目に遭遇しがちなところが、すごく気の毒で、共感してもう自分のアバターのよう。
  •  また、ウミガメモドキの哀歌(エレジー)&哀しいダンス(181頁)もいい。私の勝手な解釈は、「ウミガメのスープはすごく美味しいんだよ! でも私はウミガメの偽物(モドキ)なんだ…! でもウミガメモドキのスープもそこそこ美味しいんだ! でも食べられてしまうんだ…! でも美味しいんだから、いいんだ!!」って感じでヤケクソっぽく歌い踊るという、涙なくしては見れないシーン。
  •  最も見事とおもう挿絵は、キノコの上で水タバコを吸ってる芋虫(72頁)。顔のように見えるけどよくよく見ると足!ってゆう騙し絵が凄い。

Fさん
  •  学生時代に原作を英語でけっこう読んだこともあって、『不思議の国のアリス ヴィジュアル・詳註つき 新装版』(河出文庫、高橋康也訳)は、韻の訳とかが甘いように思う。そこで今回は、『ふしぎの国のアリス 新訳』(角川つばさ文庫、河合祥一郎訳)で読んでみたが、訳はこっちのほうがいい。調べたら、高橋康也の義理の息子が、河合祥一郎氏のようだ。
  •  角川つばさ文庫の挿絵はアニメ絵で、特に穴に落ちていく場面(周りの壁が本棚とか)の挿絵がいい。

Gさん
  •  最も見事とおもう場面は、アリス、ハツカネズミにダイナ(飼い猫)のことを喋り、怒らせる(38頁) アリス、ハツカネズミに近所のワンちゃん(テリヤ)のことを喋り、怒らせる(39頁) アリス、小鳥たちにダイナ(飼い猫)のことを喋り、後悔する(54頁)
  •  子どもはしつこいほどの繰り返しが大好き。「8時だよ全員集合」のドリフのコントを彷彿させる。古今東西笑いの基本構造は変わらないと思った次第。
  •  最も見事とおもう挿絵は、「気ちがいティー・パーティ」の見開きの挿絵(115~114頁)。アリスが女王然としているのがいい。

Hさん
  •  首をはねよ! とすぐに叫ぶ女王は、やはり権力者の象徴、揶揄だろう。まるで、ネクタイの色が気に食わないからといってすぐにクビにする、現代の横暴な横暴な資本家・経営者の戯画のようだ。不思議の国のアリスが書かれたころのイギリスは、資本階級が隆盛を迎えて、富める者、権力ある者の横暴さが際立っていたころではないか。それに対する批判として読まれたのだろうと思う。
  •  最も見事とおもう挿絵は、部屋の中で大きくなってしまって窮屈な体勢になるアリス(59頁)。体が大きくなったり小さくなったりするのは様々なファンタジーで使われているが、アリスのこの場面は印象深い。

Iさん
  •  最も見事とおもう場面は、青虫との会話。「人に聞くまえに、まず、自分がだれかいうべきだと思うわ」 「なぜだ?」青虫は間髪をいれずに聞きかえしました。(75頁) この間髪入れず具合が好き。そのほかにも、「証言しろ」王様がいいました。 「まっぴらだね」料理番が答えました。(206頁)この間髪入れず具合もいい。
  •  登場人物たちはお互いに話が通じてないが、私はある意味、噛み合ってるように思った。また、それでも話しかけるアリスが実にいい。
  •  最も見事とおもう挿絵はやっぱり、キノコの上で水煙管を吸う青虫(72頁)

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 読書会&美術館、じつに良かったので、またいいのがあればやりたいです。