2020年8月31日月曜日

『逸翁自叙伝 阪急創業者・小林一三の回想』(小林一三)

 『逸翁自叙伝 阪急創業者・小林一三の回想』(小林一三)


『逸翁自叙伝 阪急創業者・小林一三の回想』(小林一三)を読んだ。

 予想外、ちゃんとしてない。新卒入社しても行かない。新婚すぐ愛人と有馬温泉に泊って離婚、等々。宝塚歌劇は三越少年音楽隊との競争上の「イーヂーゴーイングから」「元来私は音痴である」。なんでそんなこと自伝に書くの。

 しかし彼の理想と事業こそが、中産階級を生みました。欧州旅行の感想に、「〔デモクラット発祥の地は〕さぞ大衆の芸術も盛んで立派であろうと考えて行って見ると、…芸術はブルジョワの手に独占され…、民衆のためには、単に富籤、犬のレース…。これで健全な大衆の成長があるだろうか」。


2020年8月22日土曜日

第6回読書会 『心病める人たち』(石川信義、岩波新書)


新書読書会「連鎖堂」を開催しました。マスクをしたままですが、かなり盛り上がりました。

 今回の課題本は、『心病める人たち』(石川信義、岩波新書)です。

 この本は、昭和40年代以降、患者の閉じ込めに向かった医療の中で、先駆的に精神病院を開放した医師の履歴です。まず波瀾万丈の物語として面白いですし、さらなる新書の喜びも得られる、いい本でした。

 読書会では、精神病にまつわる個人的なエピソードも出て、さらに、精神病者を怖く思ってしまうこと、それに個人差があることをどう考えるか、そもそも精神病と正常とは何かといった、一人では考えることができない意見が交わされ、印象の深い読書会となりました。

 以下、各参加者から出された意見のまとめです。


Aさん
  •  精神病との関わりについて、社会の変化などが、時系列で読めるのがよい。
  •  アンケートをとると、精神病院の近くに住む住民は、患者から迷惑をかけられたことがあるという項目にイエスと答える割合が高いが、患者に近くにいてほしくないという項目には、ノーと答える割合が高い(232-233頁)、というのが印象的だった。


Bさん
  •  特に前半、物語的で面白くて読みやすい。波瀾万丈があって。後半は、著者の苦労が報われないのかと思ったりして、すらすらとは読めなかったが。
  •  著者の苦労は報われるべきと思うが、ただ、通所施設を作ろうとして周辺住民に反対されるくだり(118頁)を読んでいると、自分も実際に住民だったら嫌悪感をもつかもしれない、と感じた。


Cさん
  •  昔の精神病院の、「厄介者を預かってやっている」という発言(31頁)や、宇都宮病院事件のくだりを読んでいると、精神病院にまつわるすべてが連鎖しながら病んでいっているようだ。
  •  患者は男女交際も許さないというのは、相手を人と思わない、優生思想とのつながりを感じる。ついこの前のように思う、20年強前に、まだ強制不妊手術が合法だったということにもつながると思う。

Dさん
  •  宇都宮病院(石川文之進院長)のやっていることは、まるでスタンフォード監獄実験(フィリップ・ジンバルドー教授)のようだ。自分も、従業員だったら、虐待してしまったのではないか。
  •  イタリアの事例などを読むと、特に精神病では、正常と病の境目は、社会的に定まるといえるだろう。そうすると、人の病というより、社会の病と捉えることができるのではないか。
  •  最近では、自閉症をスペクトラム(連続体)として捉えることが一般化しているが、精神病についても、正常と異常を分離することそのものがおかしいのではないか。

Eさん
  •  著者がすごい。強靱な信念と、愉快で大胆なキャラクター。また、実践と学習を繰り返して発展させるやり方が。
  •  精神病者の閉じ込めというのは社会問題で、社会問題はマクロの事象。しかし、解決を始めるのはミクロの個人にほかならない。本書では、ミクロがマクロにつながっていく様子が見える。そこが最も面白かった。


 楽しかった! また来月も、いい新書とともにお会いしましょう。


2020年8月21日金曜日

『ハーバードの人生が変わる東洋哲学 悩めるエリートを熱狂させた超人気講義』(マイケル・ピュエット、他1名)

『ハーバードの人生が変わる東洋哲学 悩めるエリートを熱狂させた超人気講義』(マイケル・ピュエット、クリスティーン・グロス=ロー)

『ハーバードの人生が変わる東洋哲学 悩めるエリートを熱狂させた超人気講義』(マイケル・ピュエット、クリスティーン・グロス=ロー)を読んだ。

 儒教老荘、面白い。孔子曰く、「祭ること在(いま)すが如くし、神を祭ること神在すが如くす」。つまり儀礼は「かのように」行う。

 孔子曰く、人間関係の本質は儀礼です。例えば、夫婦が愛している「かのように」言葉を交わしているとき、まさに、お互い愛しあっているのにほかなりません。逆にうまくいかない関係は、コミュニケーションがダメなパターンに嵌まっています。口うるさい母と反抗的な子というパターンとか。そんなときには、ダメでない「かのように」。ダメなパターンを打破することができるのです。

2020年8月12日水曜日

『犬将軍 綱吉は名君か暴君か』(ベアトリス・M・ボダルト=ベイリー)

『犬将軍 綱吉は名君か暴君か』(ベアトリス・M・ボダルト=ベイリー)

『犬将軍 綱吉は名君か暴君か』(ベアトリス・M・ボダルト=ベイリー)を読んだ。

 超面白い。綱吉のファンになること必定。綱吉の評判が悪いのは、武士に嫌われたから。武士に嫌われたのは、儒教的仁政を理想とし、庶民を重視したから。その庶民重視の根は、当時の武士では例外的に母の影響を強く受け、母は八百屋の娘だったからです。

 また綱吉は中央集権を志向しました。家柄より能力で登用し(柳沢吉保等)、西洋史ならルイ14世風の絶対君主を目指しました。生類憐れみの令は、鷹狩りの縮小で大名が捨てた等の野良犬が十万匹も群れる江戸で、五代将軍綱吉と戦国的武士との衝突だったのです。

2020年8月2日日曜日

『科学革命の構造』(トーマス・クーン)

『科学革命の構造』(トーマス・クーン)

『科学革命の構造』(トーマス・クーン)を読んだ。

 パラダイム転換、面白い。読む前はポストモダン的というか、科学者は集団のルール内で考えるだけだ的な本かと思ってましたが、違いました。

 確かに、「チェスの問題を解こうと苦心する人は、チェスのルールについて考えない」としています。しかしむしろ、その解こうとする苦心、パラダイム内での通常科学こそを、科学の長所と評価しています。ルールの転覆(まさにコペルニクス)は外野からは目を引きますが、そもそも転覆が可能になるのは、つまり異常に気づくのは、通常科学による蓄積があるからこそなのです。