2020年6月26日金曜日

『超巨大地震に迫る 日本列島で何が起きているのか』(大木聖子、纐纈一起)

『超巨大地震に迫る 日本列島で何が起きているのか』(大木聖子、纐纈一起)

『超巨大地震に迫る 日本列島で何が起きているのか』(大木聖子、纐纈一起)を読んだ。

 海溝型地震の「アスペリティモデル」の説明が分かりやすいです。ただ、このモデルの分かりやすさが、東日本地震を想定できなかった一因かもしれないとも。

 地震科学者である著者曰く、地震は予知できない。仙谷官房副長官の発言「日本海側などの原発はまず心配ないという結論が科学的にも出ており」は、「科学的」の誤用です。しかし、「科学の世界が『目安』として出した情報は、社会に出た瞬間に『科学的根拠』と名を変える〔…〕。これを情報の受け手だけの問題にせず、発信側の科学者こそよく認識すべきだ」。

2020年6月24日水曜日

『兼好法師 徒然草に記されなかった真実』(小川剛生)

『兼好法師 徒然草に記されなかった真実』(小川剛生)

『兼好法師 徒然草に記されなかった真実』(小川剛生)を読んだ。

 徒然草は京の是法法師を、「ただ明け暮れ念仏して、やすらかに世を過ぐす有様、いとあらまほし」としますが、実は是法は敏腕の金融業者(土倉)。兼好もそれは当然承知で、さらに兼好も複数の不動産を所有し(史料あり)、不動産取引に慣れていたのです。イメージが違う。というか、いとあらまほしいのはそっちかよ、という。

 本書曰く、兼好は公家ではなく、六波羅探題北条貞顕の広義の被官で、出家後は公家と武家との橋渡しをしていたとか。公家どころか吉田姓も、歴史歪曲常習の吉田兼倶による捏造。驚きです。

2020年6月22日月曜日

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(ユヴァル・ノア・ハラリ)

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(ユヴァル・ノア・ハラリ)

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(ユヴァル・ノア・ハラリ)を読んだ。

 べらぼうに面白い。スケールが大きい。あらゆる革命や思想を相対化。上から目線をさらに超えた、神から目線です。読了するとしばらくの間なにを聞いても、「人類全体の歴史から見れば、小さい小さい」と思えるという効果あり。神から目線、あなたも手に入れてみませんか?

 後半の「幸福」の検討は比類がありません。著者はどんな理念体系へも超上から目線ですが、そんななか唯一、幸福のために有望視している考え方があります。それは原始仏教。これを読んで私は思いました。とうとう来た。やっぱり原始仏教だと。

2020年6月20日土曜日

『コルシア書店の仲間たち』(須賀敦子)

『コルシア書店の仲間たち』(須賀敦子)

『コルシア書店の仲間たち』(須賀敦子)を読んだ。

 深い情感を呼ぶエッセイ。ミラノの、教会の片隅にありながら「せまいキリスト教の殻にとじこもらないで、人間のことばを話す『場』を作ろう」と創立された本屋の物語です。

 精力的でカリスマある創立者ダヴィデ神父をはじめ、仲間たちが個性的でおもしろいですが、なぜか滅びの予感のようなものが、全篇の底に響いているようです。仲間たちは、日常や病いのために離れていきます。「人それぞれ自分自身の孤独を確立しない限り、人生は始まらないということを、すくなくとも私は、ながいこと理解できないでいた」。

2020年6月19日金曜日

『ねこはすごい』(山根明弘)

『ねこはすごい』(山根明弘)

『ねこはすごい』(山根明弘)を読んだ。

 読みやすくて幅広くて面白い。そして言いたい。かわいいんじゃなくて、凄いと。

 ねこの牙は、なぜあんなに細長くて尖っているのでしょうか? それは、獲物の頚椎の隙間に突き刺して、脊髄を瞬時に切断するためです。ねこの眼は、なぜあんなに光るのでしょうか? それは、網膜の後ろのタペタム(輝板)層で光を反射させて網膜を2回刺激し、暗闇でも狩りをするためです。ねこはハンター。そしてねこは美しい。機能美と言ってよいでしょう。本書曰く、ねこを近くで見ると、眼の中の虹彩が、宝石のように美しいと。

2020年6月16日火曜日

『スティグリッツのラーニング・ソサイエティ 生産性を上昇させる社会』(ジョセフ・E・スティグリッツ、ブルース・C・グリーンウォルド)


『スティグリッツのラーニング・ソサイエティ 生産性を上昇させる社会』(ジョセフ・E・スティグリッツ、ブルース・C・グリーンウォルド)

『スティグリッツのラーニング・ソサイエティ 生産性を上昇させる社会』(ジョセフ・E・スティグリッツ、ブルース・C・グリーンウォルド)を読んだ。

 超面白い。ここ二百年で人類の暮らしが格段に良くなったのは、ラーニングのおかげ。特に職場での着実な改善のおかげです。

 自由市場は理論上、世界の富を最大化しないとの指摘が刺激的。リカードの比較優位説は、各国が国内で最も得意な分野に注力したうえ自由貿易すれば世界の富が最大になるとしますが、これが本当なら、米国も日本も韓国もずっと農業国だった方が世界の富が多かったのか。これはラーニングを無視した立論です。工業はラーニングが生じやすいため、ある種の工業保護は、世界の富を増やすのです。

2020年6月9日火曜日

『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』(ジョシュア・フォア)

『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』(ジョシュア・フォア)

『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』(ジョシュア・フォア)を読んだ。

 超面白い。登場人物、展開、理論どれも見事。記憶力は才能だけではありません。例えば、秀才でも野球のルールを知らなければ、凡人の野球好きより、試合展開を覚えられません。つまり記憶力は、思考枠組みと訓練によるのです。あるいは、知識と知恵は鶏と卵。もっと覚えればもっと知り、より知ればより覚えるという。

 ちなみに最近毎週日曜、長男と妻と百人一首暗記対決をやってみたら、百首全て暗記できました! ですので次にお会いしたときには、私に下の句を、聞かないでください。そっとしておいてください。

2020年6月8日月曜日

『鮭鱸鱈鮪 食べる魚の未来 最後に残った天然食料資源と養殖漁業への提言』(ポール・グリーンバーグ)

『鮭鱸鱈鮪 食べる魚の未来 最後に残った天然食料資源と養殖漁業への提言』(ポール・グリーンバーグ)

『鮭鱸鱈鮪 食べる魚の未来 最後に残った天然食料資源と養殖漁業への提言』(ポール・グリーンバーグ)を読んだ。

 ああ天然の鮭鱸鱈鮪。旨い。しかしその漁の持続可能性は、努力にもかかわらず厳しいです。そこで養殖。お勧めは混合養殖、養殖環境の中で生態系のバランスを取るものです。例えば中国では昔から、鯉の養殖は養蚕とセットでした。桑を蚕が食べ、蚕を鯉が食べ、鯉の糞が桑の肥料になるという寸法です。

 養殖向け魚種の探究も重要です。例えばバラマンディ(熱帯域の巨大魚)は、植物食だけでも育つため、飼料効率がよく汚染も少ない。トラ(ベトナムの鯰)は驚くべき繁殖力で、面積あたり鱈の50倍も養殖できます。

2020年6月6日土曜日

『生物から見た世界』(ヤーコプ・フォン・ユクスキュル)

『生物から見た世界』(ヤーコプ・フォン・ユクスキュル)

『生物から見た世界』(ヤーコプ・フォン・ユクスキュル)を読んだ。

 マダニから見た世界はこんな感じ。マダニは木の枝にいて、酪酸の匂いがすると枝から落ち、哺乳類の体温がすれば吸血します。数年間でも酪酸の匂いをただ待ちます。つまりマダニは、人間とは違う時間にいる。

 生物は、棲む世界(環世界)と一体です。環世界で標識となることが生じると、生物はそれを知覚し、運動し、運動により環世界が変化し、さらに標識となることが生じる。生物と環世界はループとして一体です。この世にあるのは生物の数だけの環世界。そして客観的世界は、永遠に認識されえないというのです。

2020年6月2日火曜日

『危険社会 新しい近代への道』(ウルリヒ・ベック)

『危険社会 新しい近代への道』(ウルリヒ・ベック)

『危険社会 新しい近代への道』(ウルリヒ・ベック)を読んだ。

 原子炉や化学物質など、新しい危険を論ずるもの。名著とされますが、解答を与える類ではありません。

 科学は再現可能性と厳密性が身上ですから、良い科学であればあるほど分からないことが増えるはずです。社会的判断は、再現不能なうえ価値観が入ります。よって、科学に社会的判断を背負わせると、「原子炉の安全性に関する研究は、扱える安全性だけを相手にしている」ということになる。本書は断ずるに、科学と社会的判断は、相性が合わないのではなく、対立する。その上で、社会的判断で決すべきというのです。

2020年6月1日月曜日

『紅茶スパイ 英国人プラントハンター中国をゆく』(サラ・ローズ)

『紅茶スパイ 英国人プラントハンター中国をゆく』(サラ・ローズ)

 英国は二百年も紅茶を愛飲していましたが、紅茶の製法は中国の秘密で、英国は大赤字。そこでインドで阿片を栽培して輸出し、阿片戦争にも勝って大黒字。しかし、捨て鉢の中国が自ら阿片を栽培しはじめそうなので、その前に紅茶を盗み出そうというのです。茶の秘密を求めるタフな奥地紀行が面白い。

 植物を渡航に耐えさせるガラス器の工夫で、世界の植生まで変えてしまう。インドのダージリンは茶が持ち込まれて数十年で、質量価格とも中国の茶産業を凌駕した。グローバル経済は百五十年前から凄まじかったのです。