2020年6月27日土曜日

第4回読書会 『勤勉は美徳か?』(大内伸哉、光文社新書)


第4回・新書読書会「連鎖堂」を開催しました。今回は、課題本を読んで集まるタイプの読書会です。

 課題本は、『勤勉は美徳か? 幸福に働き、生きるヒント』(大内伸哉、光文社新書)

 この本は多様な読みができる本で、読書会にはうってつけでした。参加者それぞれの経験と絡めた意見や、私は考えていなかった着目点が出て、労働と勤勉について理解を深めることができたと思います。

 以下、『勤勉は美徳か?』について、各参加者から出された意見のまとめです。実に多面的で、読書会をやった甲斐があります。

Aさん
  •  【日本人が勤勉となったのは江戸時代以降】(202頁)にすぎないというのが、新しい発見だった。
  •  今世紀は、【勤勉でないとダメですか?】と、堂々とおおっぴらに問いかけることができる時代になった。「勤勉」という言葉の清濁を深読みできて、有意義だった。

Bさん
  •  村上春樹が言っていた【文化的雪かき】を思い出した。仕事には、ある種の虚しさがある。別の言葉で言えば、仕事では、イタリア的な【一見どうでもよいこだわり】(198頁)こそが面白いともいえる。
  •  最近の動きでは、【パラレルキャリア】(98頁)が実に興味深い。

Cさん
  •  ニュースなどでバラバラに聞いていたことを、つなげて考えることができて有意義だった。
  •  【規制が裏目に出る】さま、特に女性と労働との関係(派遣について140頁、出産について146頁)や、無期転換権(155頁)が、特に印象に残った。本書以外では、年金制度の第3号被保険者も裏目に出ているように思う。

Dさん
  •  【一貫性あるルールを設定することの難しさ】を感じた。
  •  いいと思って作ったルールが、裏目に出る。あるいは、ルールが、社会の変化についていけてない。ただ、フーヴァー大統領的な自由放任もうまくいかなかったと思うので、難しい。

Eさん
  •  【職務専念義務】(144頁)、【テレワーク】(106頁)についての記述が興味深かった。コロナ禍でリモートワークを行ったが、これは本書が推奨するジョブ的・プロフェッショナル的な働き方に沿うように思う。ただし、テクノロジーを利用した監視で、メンバーシップ的な規制を強める可能性もある。この点、イタリアでは、【労働者を監視するための視聴覚機器利用は禁止】されている(121頁)のは実に興味深い。
  •  『ブルシット・ジョブ』(岩波書店)なんか、すぐにでも止めだ。
  •  ただ、【労働観は多様である】ことの反映なのかもしれないが、本書全体の論旨は一貫していないように思う。

Fさん
  •  【ホワイトカラーエグゼンプション制度】についての記述は、著者自ら立法事実がないと書いており、かつ、裏目に出る可能性がこの制度についてだけ度外視されていて、論理的ではないと思う。
  •  【遊び心をもって働く】べきこと、その関連で、【適職請求権】(131頁)が実に興味深く、賛成である。自分の働き方に要望を言えるのは、権利と考えてもよいのでは。あるいは、やってられない仕事なんか、やらされるべきではないのでは。もっとも、仕事内容を指定して命令するのが労働契約の本質でもあり、法解釈には工夫が必要だが。

その他
  •  【エッセンシャルワーカー】は、コロナ禍で注目されたが、本書の枠組みでは捉えきれないのではないか。
  •  【最近の若者】は、働き方がリスク回避的・消極的ではないかとの指摘。それに対して、それは失敗への許容度が下がっているから、会社や社会に余裕がなくなっているからではないかとの指摘。

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 あと今回も低温調理肉を提供しているのですが、うーん、もっと美味しくしたい!

 参加いただいた皆様、ありがとうございました!


2020年6月22日月曜日

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(ユヴァル・ノア・ハラリ)

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(ユヴァル・ノア・ハラリ)

『サピエンス全史 文明の構造と人類の幸福』(ユヴァル・ノア・ハラリ)を読んだ。

 べらぼうに面白い。スケールが大きい。あらゆる革命や思想を相対化。上から目線をさらに超えた、神から目線です。読了するとしばらくの間なにを聞いても、「人類全体の歴史から見れば、小さい小さい」と思えるという効果あり。神から目線、あなたも手に入れてみませんか?

 後半の「幸福」の検討は比類がありません。著者はどんな理念体系へも超上から目線ですが、そんななか唯一、幸福のために有望視している考え方があります。それは原始仏教。これを読んで私は思いました。とうとう来た。やっぱり原始仏教だと。

2020年6月16日火曜日

『スティグリッツのラーニング・ソサイエティ 生産性を上昇させる社会』(ジョセフ・E・スティグリッツ、ブルース・C・グリーンウォルド)


『スティグリッツのラーニング・ソサイエティ 生産性を上昇させる社会』(ジョセフ・E・スティグリッツ、ブルース・C・グリーンウォルド)

『スティグリッツのラーニング・ソサイエティ 生産性を上昇させる社会』(ジョセフ・E・スティグリッツ、ブルース・C・グリーンウォルド)を読んだ。

 超面白い。ここ二百年で人類の暮らしが格段に良くなったのは、ラーニングのおかげ。特に職場での着実な改善のおかげです。

 自由市場は理論上、世界の富を最大化しないとの指摘が刺激的。リカードの比較優位説は、各国が国内で最も得意な分野に注力したうえ自由貿易すれば世界の富が最大になるとしますが、これが本当なら、米国も日本も韓国もずっと農業国だった方が世界の富が多かったのか。これはラーニングを無視した立論です。工業はラーニングが生じやすいため、ある種の工業保護は、世界の富を増やすのです。

2020年6月9日火曜日

『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』(ジョシュア・フォア)

『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』(ジョシュア・フォア)

『ごく平凡な記憶力の私が1年で全米記憶力チャンピオンになれた理由』(ジョシュア・フォア)を読んだ。

 超面白い。登場人物、展開、理論どれも見事。記憶力は才能だけではありません。例えば、秀才でも野球のルールを知らなければ、凡人の野球好きより、試合展開を覚えられません。つまり記憶力は、思考枠組みと訓練によるのです。あるいは、知識と知恵は鶏と卵。もっと覚えればもっと知り、より知ればより覚えるという。

 ちなみに最近毎週日曜、長男と妻と百人一首暗記対決をやってみたら、百首全て暗記できました! ですので次にお会いしたときには、私に下の句を、聞かないでください。そっとしておいてください。

2020年6月8日月曜日

『鮭鱸鱈鮪 食べる魚の未来 最後に残った天然食料資源と養殖漁業への提言』(ポール・グリーンバーグ)

『鮭鱸鱈鮪 食べる魚の未来 最後に残った天然食料資源と養殖漁業への提言』(ポール・グリーンバーグ)

『鮭鱸鱈鮪 食べる魚の未来 最後に残った天然食料資源と養殖漁業への提言』(ポール・グリーンバーグ)を読んだ。

 ああ天然の鮭鱸鱈鮪。旨い。しかしその漁の持続可能性は、努力にもかかわらず厳しいです。そこで養殖。お勧めは混合養殖、養殖環境の中で生態系のバランスを取るものです。例えば中国では昔から、鯉の養殖は養蚕とセットでした。桑を蚕が食べ、蚕を鯉が食べ、鯉の糞が桑の肥料になるという寸法です。

 養殖向け魚種の探究も重要です。例えばバラマンディ(熱帯域の巨大魚)は、植物食だけでも育つため、飼料効率がよく汚染も少ない。トラ(ベトナムの鯰)は驚くべき繁殖力で、面積あたり鱈の50倍も養殖できます。

2020年6月6日土曜日

『生物から見た世界』(ヤーコプ・フォン・ユクスキュル)

『生物から見た世界』(ヤーコプ・フォン・ユクスキュル)

『生物から見た世界』(ヤーコプ・フォン・ユクスキュル)を読んだ。

 マダニから見た世界はこんな感じ。マダニは木の枝にいて、酪酸の匂いがすると枝から落ち、哺乳類の体温がすれば吸血します。数年間でも酪酸の匂いをただ待ちます。つまりマダニは、人間とは違う時間にいる。

 生物は、棲む世界(環世界)と一体です。環世界で標識となることが生じると、生物はそれを知覚し、運動し、運動により環世界が変化し、さらに標識となることが生じる。生物と環世界はループとして一体です。この世にあるのは生物の数だけの環世界。そして客観的世界は、永遠に認識されえないというのです。