2020年9月28日月曜日

『アメリカ死にかけ物語 POSTCARDS FROM THE END OF AMERICA』(リン・ディン)

『アメリカ死にかけ物語 POSTCARDS FROM THE END OF AMERICA』(リン・ディン)

『アメリカ死にかけ物語 POSTCARDS FROM THE END OF AMERICA』(リン・ディン)を読んだ。

 アメリカめっちゃ終わってる。ドラッグに銃に殺人。失業して離婚してホームレス。治安がワーストなニュージャージー州カムデンでは、「俺がミシェルと話していた3時間くらい前に、3人の男が穴だらけにされた」。なのにカムデン財政は破綻して、「警察部隊全体を解雇した」。本書的な表現でいえば、「マジかよ?」

 ベトナム移民の貧困家庭に生まれた中年詩人がアメリカ中を旅して、バーで人の人生を聞く。その情景。川上未映子の解説には「美しい」とありますが、私が思うに、心の底から、ああ、終わってると。

2020年9月22日火曜日

『昭和の洋食 平成のカフェ飯 家庭料理の80年』(阿古真理)

 『昭和の洋食 平成のカフェ飯 家庭料理の80年』(阿古真理)


『昭和の洋食 平成のカフェ飯 家庭料理の80年』(阿古真理)を読んだ。

 面白い。というか面白怖い。家庭料理は他人事ではない。「もっと生活遊んじゃおう!」とPRする主婦向け雑誌Martについて、「ままごと料理」「子どもを育てているのに食に無頓着でいられるのは、他人事のように人生を送っているからである」。このインファイターぶり。恐ろしいわ。

 昭和前半に生まれた女性は、専業主婦になることが素晴らしいとされた時代で、新しいキッチンやメニューが次々紹介され、料理を覚える動機が揃っていました。だから料理を当然と思っています。今は違うことに気づかないのです。

2020年9月17日木曜日

『レトリック感覚』(佐藤信夫)

『レトリック感覚』(佐藤信夫)


『レトリック感覚』(佐藤信夫)を読んだ。

 超面白い。太宰治曰く、「ふと入口のほうを見ると、若い女のひとが、鳥の飛び立つ一瞬前のような感じで立って私を見ていた」。その比喩、わかる。けど、鳥の飛び立つ一瞬前を見たことありますか。『雪国』のヒロイン、「駒子の唇は美しい蛭の輪のように滑らかであった」。わかる。けど、蛭を見たことありますか。

 しかし、愛する人の唇を伝えたいとき、美しいと書いても、形を正確に描写しても、伝わりません。言葉は伝達に便利ではない。レトリックは飾りではなく、切実なことを正確に伝えるための本質なのです。

2020年9月15日火曜日

『日本のいちばん長い日』(半藤一利)

 『日本のいちばん長い日』(半藤一利)

『日本のいちばん長い日』(半藤一利)を読んだ。

 超面白い。敗戦日とその前日、皇居ではクーデター(宮城事件)が起きていました。若き陸軍部将校 畑中少佐らが、近衛第一師団長を殺害し、皇居を占拠して、本土決戦のため、玉音放送を阻止しようとしたのです。しかし未遂に終わり、畑中は自決。鈴木貫太郎首相の飄々とした肝の太さ、敗戦を遂行する内閣の辛苦など、24時間実録がスリリングです。

 絶対に負けを認めないぞ。そんなのは子どもの所行と、後世から言うのは簡単ですが…。浪漫主義はたやすく除霊できない。この本が面白いのが、まさにその証拠です。

2020年9月14日月曜日

『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』(フランス・ドゥ・ヴァール)

 『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』(フランス・ドゥ・ヴァール)

『動物の賢さがわかるほど人間は賢いのか』(フランス・ドゥ・ヴァール)を読んだ。

 面白い。DNAでみると人とチンパンジーはほぼ同じで、独自の種を成すかも微妙なほどです。知力でみると人よりチンパンジーが上(の分野があります)。一瞬だけ現れて消える1から9までの数字を覚えて順にタッチするゲームや、相手の出方の予想が重要な対戦ゲームでは、人よりずっと優秀。さらにチンパンジーは計画し、協力し、贈賄し、笑います。計画するのは人だけではありません。

 人と動物の知は連続している。私の心は動物と共通している。そういう実感、原始時代にいるような実感を味わったことでした。

2020年9月12日土曜日

『「壁と卵」の現代中国論 リスク社会化する超大国とどう向き合うか』(梶谷懐)

『「壁と卵」の現代中国論 リスク社会化する超大国とどう向き合うか』(梶谷懐)

 『「壁と卵」の現代中国論 リスク社会化する超大国とどう向き合うか』(梶谷懐)を読んだ。

 昔、人の敵は自然でした。近代に至り、自然を克服したテクノロジーやシステムは、基本的には良いことのはずです。しかしテクノロジー等は、一部に害を与えることがあります。例えば公害や薬害です。このように人から生じるリスクの配分が問題となる社会(リスク社会)では、ある意味リスクを人が割り振るのですから、自由な異議申立と論議が重要です。

 ここで中国。中国はリスク社会に至っているのに、いまだに言論統制をしています。そのやり方、もうもたないでしょう。中国の深い認識が得られる本、お勧めです。

2020年9月9日水曜日

『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』(坂井豊貴)

『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』(坂井豊貴)

 『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』(坂井豊貴)を読んだ。

 面白い。2000年米国大統領選、当初世論調査ではゴア有利も、ラルフ・ネーダーが立候補してゴア票を喰い、ブッシュが当選しました。多数決は票の割れに弱い。また選択肢が複数だと、二番になりやすい穏当な主張よりも、嫌われても一番を目指す極端な主張が勝ちやすい。実際、欠陥制度ではないか。選択肢を順位づけして投票する(ボルダルール)なら、極端は敗れます。


 住民投票の工夫も出色。計画の実質確定後に住民意見を聞くセレモニーをするのでなく、しかも地域エゴや愉快票を避ける制度がありうるのです。

2020年9月7日月曜日

『新 人が学ぶということ 認知学習論からの視点』(今井むつみ、野島久雄、岡田浩之)

『新 人が学ぶということ 認知学習論からの視点』(今井むつみ、野島久雄、岡田浩之)

『新 人が学ぶということ 認知学習論からの視点』(今井むつみ、野島久雄、岡田浩之)を読んだ。

 超面白い。知識の獲得には、豊富化と再構造化があります。このうち学習の躓きとなるのは再構造化。再構造化のために、今持っている素朴理論を捨てるのが難しいのです。例えば、分数を理解するには、数=自然数という素朴理論を捨てなければなりません。また例えば、指で上へ弾かれたコインには、上がる途中の瞬間、上向きの力が働いていますか?「動いてるなら動いてる方へ力が働き続けてる」は素朴理論で、慣性の法則に反し、誤りです。

 いいね、再構造化。何もかも次々に再構造化して、まだ見ぬ世界へ行きたい。

2020年9月5日土曜日

『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』(ジョン・ロンソン)

『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』(ジョン・ロンソン)

『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』(ジョン・ロンソン)を読んだ。

 超面白い。ジャスティン・サッコは人種差別的ジョークを1回ツイートしました。これが半日後には世界一の大炎上、即日解雇され、名前を検索すれば顔写真と人格非難が延々と続き、今後一生涯、普通に就職や子育てをすることはできないでしょう。

 炎上は特殊な人の悪意のせいではない。逆です。普通の人の善意のせいです。悪い奴を懲らしめるのは当然? いや、その場の思いつき、ていうか本当は暇つぶしを、正義だと心理的に正当化しているだけでしょう? そして現実には、人の生涯を潰すのに荷担しているのです。

2020年9月2日水曜日

『貧困と自己責任の近世日本史』(木下光生)

『貧困と自己責任の近世日本史』(木下光生)

『貧困と自己責任の近世日本史』(木下光生)を読んだ。

 深い。面白い。貧困世帯への給付に対して冷酷な見方がされていますが、これは自己責任自己責任言う新自由主義者のせい、ではなく、日本はずーっと、施す側から施される側まで、自己責任の国だったのです。「施されるのは恥」という感覚があることは否定しようがない。ベーシックインカムが導入されるべきこの先において、きっと裏目に出ることでしょう。

 これは例えば英国でも同じなのですが、プロイセンや清など、公共救済に対して制裁が発動されない地域もありました。歴史を知れば、見えてくるものがあります。