2020年9月17日木曜日

『レトリック感覚』(佐藤信夫)

『レトリック感覚』(佐藤信夫)


『レトリック感覚』(佐藤信夫)を読んだ。

 超面白い。太宰治曰く、「ふと入口のほうを見ると、若い女のひとが、鳥の飛び立つ一瞬前のような感じで立って私を見ていた」。その比喩、わかる。けど、鳥の飛び立つ一瞬前を見たことありますか。『雪国』のヒロイン、「駒子の唇は美しい蛭の輪のように滑らかであった」。わかる。けど、蛭を見たことありますか。

 しかし、愛する人の唇を伝えたいとき、美しいと書いても、形を正確に描写しても、伝わりません。言葉は伝達に便利ではない。レトリックは飾りではなく、切実なことを正確に伝えるための本質なのです。

2020年9月15日火曜日

『日本のいちばん長い日』(半藤一利)

 『日本のいちばん長い日』(半藤一利)

『日本のいちばん長い日』(半藤一利)を読んだ。

 超面白い。敗戦日とその前日、皇居ではクーデター(宮城事件)が起きていました。若き陸軍部将校 畑中少佐らが、近衛第一師団長を殺害し、皇居を占拠して、本土決戦のため、玉音放送を阻止しようとしたのです。しかし未遂に終わり、畑中は自決。鈴木貫太郎首相の飄々とした肝の太さ、敗戦を遂行する内閣の辛苦など、24時間実録がスリリングです。

 絶対に負けを認めないぞ。そんなのは子どもの所行と、後世から言うのは簡単ですが…。浪漫主義はたやすく除霊できない。この本が面白いのが、まさにその証拠です。

2020年9月12日土曜日

『「壁と卵」の現代中国論 リスク社会化する超大国とどう向き合うか』(梶谷懐)

『「壁と卵」の現代中国論 リスク社会化する超大国とどう向き合うか』(梶谷懐)

 『「壁と卵」の現代中国論 リスク社会化する超大国とどう向き合うか』(梶谷懐)を読んだ。

 昔、人の敵は自然でした。近代に至り、自然を克服したテクノロジーやシステムは、基本的には良いことのはずです。しかしテクノロジー等は、一部に害を与えることがあります。例えば公害や薬害です。このように人から生じるリスクの配分が問題となる社会(リスク社会)では、ある意味リスクを人が割り振るのですから、自由な異議申立と論議が重要です。

 ここで中国。中国はリスク社会に至っているのに、いまだに言論統制をしています。そのやり方、もうもたないでしょう。中国の深い認識が得られる本、お勧めです。

2020年9月9日水曜日

『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』(坂井豊貴)

『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』(坂井豊貴)

 『多数決を疑う 社会的選択理論とは何か』(坂井豊貴)を読んだ。

 面白い。2000年米国大統領選、当初世論調査ではゴア有利も、ラルフ・ネーダーが立候補してゴア票を喰い、ブッシュが当選しました。多数決は票の割れに弱い。また選択肢が複数だと、二番になりやすい穏当な主張よりも、嫌われても一番を目指す極端な主張が勝ちやすい。実際、欠陥制度ではないか。選択肢を順位づけして投票する(ボルダルール)なら、極端は敗れます。


 住民投票の工夫も出色。計画の実質確定後に住民意見を聞くセレモニーをするのでなく、しかも地域エゴや愉快票を避ける制度がありうるのです。

2020年9月7日月曜日

『新 人が学ぶということ 認知学習論からの視点』(今井むつみ、野島久雄、岡田浩之)

『新 人が学ぶということ 認知学習論からの視点』(今井むつみ、野島久雄、岡田浩之)

『新 人が学ぶということ 認知学習論からの視点』(今井むつみ、野島久雄、岡田浩之)を読んだ。

 超面白い。知識の獲得には、豊富化と再構造化があります。このうち学習の躓きとなるのは再構造化。再構造化のために、今持っている素朴理論を捨てるのが難しいのです。例えば、分数を理解するには、数=自然数という素朴理論を捨てなければなりません。また例えば、指で上へ弾かれたコインには、上がる途中の瞬間、上向きの力が働いていますか?「動いてるなら動いてる方へ力が働き続けてる」は素朴理論で、慣性の法則に反し、誤りです。

 いいね、再構造化。何もかも次々に再構造化して、まだ見ぬ世界へ行きたい。

2020年9月5日土曜日

『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』(ジョン・ロンソン)

『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』(ジョン・ロンソン)

『ルポ ネットリンチで人生を壊された人たち』(ジョン・ロンソン)を読んだ。

 超面白い。ジャスティン・サッコは人種差別的ジョークを1回ツイートしました。これが半日後には世界一の大炎上、即日解雇され、名前を検索すれば顔写真と人格非難が延々と続き、今後一生涯、普通に就職や子育てをすることはできないでしょう。

 炎上は特殊な人の悪意のせいではない。逆です。普通の人の善意のせいです。悪い奴を懲らしめるのは当然? いや、その場の思いつき、ていうか本当は暇つぶしを、正義だと心理的に正当化しているだけでしょう? そして現実には、人の生涯を潰すのに荷担しているのです。