2023年11月30日木曜日

第36回読書会 『過剰可視化社会』


『過剰可視化社会』(與那覇順)、読書会レポートです。この本は論争的で、対談部分も噛み合っていて、読書会も盛り上がりました。

 以下、参加者から出た意見です。

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【Aさん】

 「一度でも『ネガティブな衝突は起きてはいけない』という未然防止的な優しさが煮詰まった現在」(77ページ)というところ、とても共感できた。決して人と衝突してはいけない、というのは違うと思う。

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【Bさん】

 表現が攻撃的で合わない。また、過剰だと判断する基準が示されないため、著者の気分で過剰だと決めてるように思えてしまう。

 著者は「マイノリティを『キラキラさせる』ことでPRする社会運動の限界」を指摘している(75ページ)けど、あまり賛成できない。
 例えば、「車いすでもあきらめない世界をつくる WheeLog! みんなでつくるバリアフリーマップ」(https://wheelog.com/hp/)という活動があるが、著者ならこれもキラキラ過剰というかもしれない。でも私は良い活動だと思うし、このように車いすユーザーが「可視化」されることは、世界を良くすると思う。

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【Cさん】

 可視化というよりもデジタイズの問題点だと思った。

 人をキャラ付け、プロフィールにタグ付けするリスクが指摘されている(72-74ページ)。ただ、人格などの曖昧なものに名前をつける、範囲を限定すると、処理しやすくなる、つまり楽になる側面がある。どんなデジタイズでもそうだが、功罪の両側面があると思う。

 人のキャラ付けの部分を読んでいると、かなり昔に読んだ実存主義を思い出した。人には、ラベルがつけられる前にも、「実存」があるという。

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【Dさん】

 私もデジタイズの問題だと思った。そして、デジタイズの対極にあるのが身体性だと捉えることができる。
 例えば、こうやって対面で話しているなら、うっかり間違ったことを言ってもすぐに分かってもらえるが、デジタイズされた世界では、ローコンテクストというか、文脈が無視されて、誤解されたままとなってしまう。デジタイズがいくら進んでも、身体性は軽視できないと思う。

 ただ、著者は歴史学者への絶望を強調したりしているが、むしろ人文学への期待が、それこそ「過剰」ではないか。

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【Eさん】

 私は、カテゴリー化の部分が最も面白かった。特に、著者と対談相手の東畑さんの間で、議論が噛み合うところが。
 著者がカテゴリー化の危険を強調するのに対し、東畑さんが、臨床からみたカテゴリー化の効用を指摘する。議論の結論としては、カテゴリーへの当てはめは、治療のきっかけなどの「スタート」となりうるところは有用だが、カテゴリーへの当てはめが「ゴール」となってしまうと、個人としての人生や苦悩が無視されてしまうという。

 これは、私の仕事では、交通事故訴訟のような高度にカテゴリー化された事件を扱うときに感じていたことを、言いあててくれているように思った。

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【Fさん】

 仕事でHR(Human Resources)のデジタル化、人材情報の可視化を行っているが、これでいいのかと思うこともあった。

 人をキャラ付け、タグ付けすることによって、一部の情報だけでその人を判断してしまうようになるリスクが指摘されている(72ページ以下、76-77ページなど)が、納得できる。
 人材情報の可視化は、突然の退職の防止や、生産性の上昇には資するはずだが、その人のことを深く考えなくなるという危険がある。

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【Gさん】

 メディアを鵜呑みにするべきではないというところ、重要だと思う。

 コロナ禍で、メディアに登場する専門家は人流抑制を強調したが、それは無批判に受け入れられるべきではなかったという批判(43ページ)、共感できる。
 私が当時、特にえげつないなと思ったのは、パチンコ店や風俗店へのバッシング。パチンコ店にも風俗店にも思い入れはないが、叩けるから叩いているように見えた。しかもいわゆるリベラルなグループでさえ、それぞれの人の自由よりも、社会的な正しさを重視していた。すごく違和感がある。

→Dさん
 リベラルには2種類あるのではないか。個人の自由を重視するタイプと、最低限の権利確保を重視するタイプの2つが。高齢者がコロナで死亡しやすいことから、後者の意味でのリベラルが目立ったのではないか。
 しかしアガンベン曰く、動物としての生存を重視すると、人間としての生存が抑圧されてしまう。このあたりについては、『私たちはどこにいるのか? 政治としてのエピデミック』(ジョルジョ・アガンベン)がとても面白かった。

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【Hさん】

 私はこの本は共感できるところが多かった。特に、「何が不要不急かを、勝手に決められたくない」というのが、強くそう思う。

 キラキラしている人を決めて称賛することで社会を操るというのは、スターリンの技法だ(51ページ)、というのは非常に面白い。
 最近思うのは、メディアに出てくる高齢者が、むやみに元気だ。これは人生の最後の最後まで元気で生産しろという、現代日本のスターリズムではないか。

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 メディアに出てくるキラキラ高齢者は、現代日本のスターリズム! パワーワードですね。(本に出てくる言葉ではなくて、参加者によるパワーワードです。)この先、メディアにキラキラ高齢者が出てくるたびに、思い出してしまいそう。

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 写真はレモン風味のグリルチキン。今回は焼き色は良い感じですが、味にムラがある…。チキン一つ焼くのも難しいですね。

 ではまた!


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