2021年12月18日土曜日

第20回読書会 『未来は決まっており、自分の意志など存在しない。』


新書読書会「連鎖堂」を開催しました。今回は『未来は決まっており、自分の意志など存在しない。 心理学的決定論』(妹尾武治)をみんなで読む回です。この本は実に様々な読み方ができる本で、会話も溢れんばかりとなりました。

 個人的には自分では選ばない本なので、読めてよかったです。読書会で、自分では選ばない本を読んで、世界が広がる。これも運命か。

 以下、参加者から出た意見です。

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Aさん
  •  私は、ラプラスの悪魔的な決定論が成り立ってると思う。自由意志は存在しないと思う。
  •  この本にいっぱい出てくるサブカルネタ、ぜんぶ分かってしまった。

Bさん
  •  子どものころ、夜寝るとき、明日も目が覚めるのか怖かった。今でも、昨日の自分と今日の自分は続いているものなのか、怖くなることがある。この本には自分というものは不安定だと書いてあり、なるほどと思った。

Cさん
  •  性犯罪は再犯率が極めて高い。ところが、去勢された人物は再犯する確率が0.7%まで下がる(72ページ)。性犯罪を減らせるのはもちろん、心が暴走しなくなるなら、それはいいことなのではないか。

Dさん
  •  学生時代に専攻していた、実験系の心理学を思い出した。心理学は、間接的な証拠を積み上げていくことによって明らかにしていくという、推理小説のようなところがある。この本は、前半はまさに積み上げていく心理学だと思った。環境が判断に与える影響が大きいというのは、まさに同感。後半はだいぶ拡散していると思う。
  •  ネタに出てくるだろうなと思う心理学実験や出来事が、次々に出てくる快感があった。

Eさん
  •  意識の影響は少ないということと、意識が影響を及ぼすことが論理的にできないというのは、別の話のはず。この本は、心理学的実験の結果を、ラプラスの悪魔的決定論と混同している。そのうえ、運命論(宇宙に目的があるとみる前近代的自然観)とも混同している。
  •  この本をきっかけに『自由意志の向こう側』(木島泰三)を読んだが、実に面白かった。『未来は決まっており』は、『自由意志の向こう側』がいうところの、「怪談話としての運命論」の典型と思う。
  •  この本は科学ではなく、宗教の本だと思う。そして宗教でいうなら、仏教で唯識しか検討しないのは偏っている。この本は意識や心だけが実在だとしているが、意識や心は実在ではない(仏教の多数説)というほうが、宗教的に有望と思う。

Fさん
  •  小説は、結末は決まっているが、読んでいるあいだ楽しむことができる。つまり、決定論でも、それほど困らない。私には、決定論によって大切なものが失われるという感覚はない。
  •  ベンジャミン・リベットの実験によれば、手を上げようと思う瞬間よりも先に、脳に、手を上げる準備電位が観測できる。この実験は、「準備電位が発生する前にも意志はあるが、その意志は意識の表面には上がってこない」と解釈できるのではないか。表面に上がってこないことには利点がある。意志決定を行動直前まで知られないことが生存競争で有利であるので、相手に知られないためには自分自身にも知らせないのがよいから。ただこの、準備電位前の意志を、自由意志といえるのかは分からないが。
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 面白かった! 2枚目の写真は、新作のバナナホットケーキです。寒いときにホットケーキはいいですね。

 では来月も、いい新書とともにお会いしましょう!


2021年11月27日土曜日

第19回読書会 ビブリオバトル・テーマ「脳科学」


新書読書会「連鎖堂」を開催しました。今回はビブリオバトル。テーマは「脳科学」です。このビブリオバトルを制したチャンプ本が、次回読書会の課題本となるのです。

 以下のとおり、4人から紹介がありました。

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1冊目
『子どもの脳を傷つける親たち』(友田明美、NHK出版新書)

 幼少期に虐待を受けると、脳に変形が生じてしまいます。しかも、受けた虐待の種類によって、変形が生じる脳部位が概ね定まってきます。人の思考の発達は当然、脳の物理的な変化でもあるわけです。
 本書によれば、研究が進めば、早い段階からのケアも可能となり、虐待の連鎖も防ぎやすくなるかもしれないとのことで、希望が持てました。

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2冊目
『未来は決まっており、自分の意志など存在しない。 心理学的決定論』(妹尾武治、光文社新書)

 著者自ら曰く「トンデモ本」。帯には、「あなたが本書を手にすることは138億年前から決まっていた」。大丈夫か。
 全ては決まっていて変えようがない(決定論)というのは、ぱっと聞くと希望を根こそぎにするものに聞こえますが、本書によれば、決定論は救いでもあると。話題豊富で、かつ、説得的でした。

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3冊目
『脳が壊れた』(鈴木大介、新潮新書)

 ここにはなかなかうまく書きにくいのですが、発表者自身の脳が壊れたかのような、渾身のネタなのか? それとも本当に壊れかけてるのか? いや、まさか…。
 自分の脳が壊れたとき、また身近な人の脳が壊れたときの、リハーサルにもなりうる、まさにリアルなルポルタージュです。

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4冊目
『「わかる」とはどういうことか 認識の脳科学』(山鳥重、ちくま新書)

 ああ、なんでもかんでも、わかりたい、という欲望がある方に、おすすめです。わかるとはどういうことかこそ、わかりたい。
 おもしろいのは、わかりたいというのは、生命の本質だということです。エントロピーが増大する(無秩序になる)一方の宇宙の中で、生命だけが、秩序づけに向かっているのです。

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 以上4冊が紹介されましたが、さて、チャンプ本は…。
 『未来は決まっており、自分の意志など存在しない。』と、『「わかる」とはどういうことか』との決選投票となり…。

 決選投票を制したチャンプ本は、『未来は決まっており、自分の意志など存在しない。』です!
 「トンデモ本」! 面白そう! ですので次回読書会の課題本は、『未来は決まっており、自分の意志など存在しない。』です。私自身は非決定論なので、読んで立場が変わるか、変わるならどうなってしまうのか、楽しみです。

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 今回の料理は、肉をいい具合にグリルできました。おいしかった。しかし、写真を見て気づきましたが、色目が茶色いな! 緑を入れればいいのか?

 楽しかった! ではまた次回も、いい新書とともにお会いしましょう。


2021年10月23日土曜日

第18回読書会 『サラ金の歴史』


新書読書会「連鎖堂」を開催しました。今回は課題本の回で、課題本は『サラ金の歴史 消費者金融と日本社会』(中公新書、小島庸平)。こういう、自分からはなかなか読みそうにない本が読めるのも、読書会のいいとこですね!

 以下、参加者から出た意見です。

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Aさん
  •  なんでこんなに面白いのかというくらい面白い。なんでかと考えているうちに、これはピカレスク・ロマンなんじゃないかと。嫌われ者を主人公にして、内部抗争したり、かと思えば団結して外敵を打ち破ったり。時代をしぶとく生き抜く様や、最終的に滅びゆく様が。信用情報登録機関をめぐって、神内(プロミス)は分離独立、浜田(レイク)と武井(武富士)は激しく対立し、「まるで新日本プロレスと全日本プロレス」。ところが外資大手の上陸に対しては、業界努力でほぼ完全に駆逐(残った外資はアイク1社のみ)したり。
  •  著者は、普通は悪者のサラ金を単に断罪するのではなく、サラ金側の論理からも組み上げていて、それでこんなに面白いのだと思った。

Bさん
  •  レイク創業者・浜田武雄の、サラ金黎明期の発言、「明日の米を買う金は絶対に貸すな」「あくまで生活の余裕資金のニーズに対してお貸ししろ」というのはいいと思いますが、そのサラリーマンの「前向きな目的」が、アルサロ(アルバイトサロン=素人のアルバイト女性が接客するキャバレー)代というのが…(104頁)。「借金して遊ぶくらいでなければ『出世』できない」、脂ぎった人が評価される時代だったんだなと。それを考えると、今はいい時代になってきたなと思った。

Cさん
  •  戦前の「貧民窟」での素人高利貸の記述で、人にお金を貸すことは「自らの優越を認めさせる絶好の機会」(19頁)というのが、すごいと思った。承認願望のために働くということや、組織上位者がそれを利用するという構造は、現代にもつながると思う。
  •  「ようきつい催促でけんわ」とこぼす、プロミス創業者・神内良一が印象に残った(93頁)。サラ金には、資本主義と人間性の齟齬というか、お金は人を傷つけもするということが、よく表れてしまう業態なんだなと思った。

Dさん
  •  ものすごく面白かった。私はゼロ年代前半の尋常でない破産件数の増大を、弁護士として身をもって体験してますが、その背景が重層的に分かって、興奮した。
  •  特に、私からは敵側だったサラ金の側の論理が分かったのがよかった。また、銀行も含む金融の流れ、金余りや規制の影響も把握できた。自殺への影響が非常に印象に残った。

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 中公新書らしい、要点がつかみやすくて、かつ深いという、いい経済史でした。

 料理のほうは、豚バラ肉をやわらかく、歯触りはカリっとできたかな。低温調理チキンとクリームチーズのバジルソースも、けっこうイケてたような。

 いやー、新書って、本当にいいものですね。ではまた来月!


2021年9月25日土曜日

第17回読書会 ビブリオバトル・テーマ「家計」


新書読書会「連鎖堂」を開催しました。今回はビブリオバトル、テーマは「家計」です。「キリスト教」「宇宙」と天上界のテーマが続いたので、一気に身近にしようという試みです。新書は森羅万象を包含している!

 以下のとおり、4人から紹介がありました。

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1冊目
『サラ金の歴史 消費者金融と日本社会』(小島庸平、中公新書)

 サラ金といえば、昔は身体が憶えるほど流れていたサラ金のCMソングが近ごろ聞かないなと思っていましたが、この本にはサラ金の歴史、それも、私は考えもしなかったことがいっぱい書いてあって、とても面白かったです。サラ金は研究領域の隙間にあるらしくて、この本は希少価値も高いようです。若い研究者の真面目で真摯な書きっぷりに好感が持てます。
 主婦は、戦後すぐくらいは法律上一人前に扱われていなかったことや、その後は家計を握ってサラ金のメインターゲットになったことなど、ジェンダー的な移り変わりも面白かったです。

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2冊目
『サラ金の歴史 消費者金融と日本社会』(小島庸平、中公新書)

 カブったか。まあ、連鎖堂はカブりありっていうことだから。
 1960年代の「団地金融」から、1970年代のサラ金と、私の生きてきた時代も歴史になるんだなというのが、最も面白かった。団地金融というのは、サラ金の前史で、公庫の審査を通った人に貸しても取りっぱぐれないだろうということから団地住民に貸す金融です。ちなみに、昔のサラ金の金利は驚きの109%!
 サラ金会社の内部の雰囲気が分かるのも読みどころです。サラ金がえげつなかったころの、会社内部の超ブラックっぷりとか。

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3冊目
『相続地獄 残った家族が困らない終活入門』(森永卓郎、光文社新書)

 タイトルは『地獄』ですが、著者にお金があるせいか悲壮感はなくて、軽く読める本です。
 相続のことが分かっていないと損をするという話で、例えば、親の財産がよく管理されていないからといって子ども自身のお金から介護費用を出すと、親のお金が残った分は相続税で取られてしまうという…。
 後半はまだ高齢でない人への終活ガイド、主にコレクター気質の人向けですが、著者が私設博物館「B宝館」にライザップCMで稼いだ500万円を突っ込む話が面白かったです。

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4冊目
『親の介護をする前に読む本』(東田勉、講談社現代新書)

 テーマが「家計」ということで、ファイナンシャルプランニングの新書を何冊も読んでみましたが、結局は家計のポイントは介護だと思い、介護の新書も何冊も読んでみました。介護の本の中では、この本が一番インパクトがありました。
 この本は介護の制度について勉強になるのですが、というより、良い介護というものがぜんぜん分かっていなかったなと。また、終末期医療が、救急医療とぜんぜん違うというのも、なるほどと強く思いました。

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 以上4冊が紹介されましたが、さて、チャンプ本は…、『サラ金の歴史』です! 面白そう! そうか、消費者保護も歴史なんだなと。次回は、『サラ金の歴史』が課題本の読書会です。

 料理の写真は、チキンとキャロットラペとリゾットです。リゾットにバターとチーズをたっぷり入れたら濃厚で好評でした。

 楽しかった! では次回も、いい新書とともにお会いしましょう。


2021年9月20日月曜日

『科学の発見』(スティーヴン・ワインバーグ)

『科学の発見』(スティーヴン・ワインバーグ)

『科学の発見』(スティーヴン・ワインバーグ)を読んだ。

 ニュートンはリンゴが落ちるのを見て重力を発見した、って、ちょっと何言ってるか分からない。本当はこう。

 ケプラーは水金火木土星全て、公転周期の2乗が太陽との距離の3乗に比例することを発見していました。またニュートンは円運動で生じる中心へ引く力(向心加速度)を解明しました。式を変形すると、太陽が惑星を引く力は距離2乗の反比例で弱まる。ここで地球が月を引く力と、地表の重力加速度も、おお、地球中心からの距離2乗の反比例で弱まってる。なんと太陽も地球も引く力は同様だ。重力を発見した!

2021年9月13日月曜日

『人を伸ばす力 内発と自律のすすめ』(エドワード・L・デシ、リチャード・フラスト)

『人を伸ばす力 内発と自律のすすめ』(エドワード・L・デシ、リチャード・フラスト)

『人を伸ばす力 内発と自律のすすめ』(エドワード・L・デシ、リチャード・フラスト)を読んだ。

 我が子の勉強や、従業員の仕事の質を上げるため、どうやって動機づけるか。そういう問題の立て方、のっけから断然間違ってます。なんとなれば、逆から考えろ。他人から動機付けされたら、やる気、出ないでしょう。研究によれば、「したくないだろうとも、してもらいたい」と、矛盾を正直に認めたほうが、自律性が阻害されにくいのです。

 その他、報酬を設定されると、やる気が削がれることがある。競争を設定されると、サクラで勝たせても、やる気が削がれることがある。人をなめたらアカン、と思ったことでした。

2021年9月8日水曜日

『創造的破壊 グローバル文化経済学とコンテンツ産業』(タイラー・コーエン)

『創造的破壊 グローバル文化経済学とコンテンツ産業』(タイラー・コーエン)

『創造的破壊 グローバル文化経済学とコンテンツ産業』(タイラー・コーエン)を読んだ。

 考えさせる力が強い本です。グローバル経済は世界各地の文化的独自性を、現実に削いでいる。では、ハリウッド映画やショッピングモールは悪か。

 例えばパプアにモールができれば、パプアの独自性は失われ、美術コレクターの選択肢は狭まるでしょう。しかし、パプア人の選択肢を狭いままにしておけというのは正しくない。また、「社会集団間の多様性」が減っても、「社会内部の個人にとっての多様性」は増えうるし、そのほうが人々が自分に噛み合う文化を獲得しやすい。現に狭くても深い文化は増えている、という。

2021年9月1日水曜日

『AI原論 神の支配と人間の自由』(西垣通)

『AI原論 神の支配と人間の自由』(西垣通)

『AI原論 神の支配と人間の自由』(西垣通)を読んだ。

 哲学的に、AIと生命は別物。面白い。けど同意できない。生命は全く新しい状況でも生き抜こうとする。そのとき、自分でもどう動くか計算できない。対してAIは、常に過去の確率に従う。複雑でも原理的にはどう動くか計算できる。「不可知であることが、生命体の本質なのである」。

 うーん、不可知はそんなに「本質」か。蝶の動きが予測不能なのは補食されないため(D・デネット)。ありふれたシステムの振る舞いでも予測不能になりうる(前野隆司)。だったらAIも、自己保存するなら不可知になりうるのでは。

2021年8月30日月曜日

『フランス革命 歴史における劇薬』(遅塚忠躬)

『フランス革命 歴史における劇薬』(遅塚忠躬)

『フランス革命 歴史における劇薬』(遅塚忠躬)を読んだ。

 超面白い。歴史の本質まで迫る勢いです。フランス革命は要するに血まみれの大惨事であり、恐怖政治は半年で4万人を殺し、続く内乱では30万人が死亡しました。「人間は、生まれながらにして、自由であり、権利において平等である」とする人権宣言から、数年後には恐怖政治。なぜそうなるか。

 革命の前半は良く、後半暴走したと解するのがありがちですが、そんなのは事実に反します。男子普通選挙が実現したのも、生存権が登場したのも、恐怖政治下です。人権宣言も恐怖政治も、一体としてフランス革命なのです。

2021年8月9日月曜日

第16回読書会 『キリスト教は邪教です!』


新書読書会「連鎖堂」を開催しました。課題本は、『キリスト教は邪教です!』(ニーチェ、講談社+α新書)。この本は、ニーチェ『アンチクリスト』の現代語訳です(超訳ではない)。

 しかし大学生でもないのに、ニーチェで読書会をしていいのか。「弱い人間やできそこないの人たちは、落ちぶれていくべきだと私は考えています」(17ページ)とかいう本を読んでる場合か、という気もしますが、面白かったです。

 参加者から出た意見は以下のとおりです。さらに、「私のルサンチマン」の話題で盛り上がってしまいましたが、その内容はここには書けません。

 しかし、ルサンチマン(能動的な者への憎悪)の概念を知っていることは、ニーチェ以後の世界では、ある意味、一般教養ではないでしょうか。自分が我慢しているからといって、「我慢することこそ美徳だ」と変換してしまうのは、一種の歪みかもしれないと。

 以下、参加者から出た意見です。


Aさん
  •  哲学者が書いた本を読むのは初めて。著者と対話するような感じになるのが面白かった。キリスト教は女性をバカにしている、というところ(147ページ)を読んで、「それはあんたや」とつっこんだり。
  •  ニーチェがこういう風に書いた背景を知る必要があったのかなと思った。

Bさん
  •  ニーチェも、私と同じく、完全を目指して、不完全なものをこてんぱんにしたくなる性格ではなかろうかと思った。
  •  ウィーンでミサに参加したとき、荘厳さを感じた。畏れや儀式は必要なのでは。キリスト教が滅んでも、ニーチェの望む理性的世界はやってこないだろう。
  •  「ウソ」の構造(140ページ)が面白かった。党派的な人間は必ず嘘つきになる、とか。

Cさん
  •  私(女)の感覚だと、ニーチェは、女性への蔑視がきついところもあるが、処女懐胎などというのは女性や、生殖や、ひいては人間を卑下している(147ページ)という指摘もなるほどと思った。
  •  この前、『マリス博士の奇想天外な人生』(キャリー・マリス著、福岡伸一訳)を読んだらとても面白かったが、そこで、科学が「有無を言わせない真理」と言わんばかりであること(今ならSDGsとか?)が、強く批判されていた。ニーチェは、キリスト教が「有無を言わせない真理」を名乗って傲慢だと批判して、科学に期待しているようだが、科学も、「有無を言わせない真理」を生むことはあると思った。

Dさん
  •  一番おもしろかったのは、ニーチェのイエス・キリスト本人の解釈。イエス本人に対してはかなり好意的で、「イエスはやはり自由な精神を持った人だったのです」「イエスが人類に残したものは、よく生きることの実践です」とか。
  •  あとやっぱり、表現力というか、悪口のバリエーションがすごくて面白い。ウケ狙いの「毒舌」とはレベルが違います。

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 ニーチェなら、ぜんぜん違う視点を導入できます!

 楽しかった!ではまた、いい新書とともにお会いしましょう。


2021年6月26日土曜日

第15回読書会 ビブリオバトル・テーマ「キリスト教」


新書読書会「連鎖堂」を開催しました。テーマは「キリスト教」、今回はビブリオバトルです。

 世界的にも身近にも影響力があるのに、今一歩わかった気がしないキリスト教。そこに新書で切り込もうという試みです。以下の4冊が紹介されました。

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1冊目 『キリスト教は邪教です!』(F・W・ニーチェ)

 ニーチェが精神病で正気を失う直前まで書いていた本。この本を読むと、西洋ではキリスト教が同調圧力の極みのようになっていたのだろうと、強く思わされます。
 ニーチェ曰く、処女で懐胎などしない。のみならず、そういう信仰は、妊娠を貶め、ひいては人間を貶めるものであると。
 動物としての人間の、高貴な生き方を望むならば、ぜひニーチェを読みましょう。

 □

2冊目 『一神教の誕生』(加藤隆)

 宗教は、たまたまでも、その土地にマッチしたものが広まるということが分かります。
キリスト教は、差別が当然のようにある社会だったからこそ、「皆救われる」という教えで、広まったのでしょう。
 この本は主観を入れないで書いてあるので、宗教が広がる様子が、ある意味、商売が広まる様子のように書いてあるともいえるでしょう。

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3冊目 『ふしぎなキリスト教』(橋爪大三郎×大澤真幸)

 目からウロコ落ちポイントがたくさんの本です。例えば次の二つ。
 日本人は世界で一番、一神教を分かっていない。一神教の神は、ある意味、何をやってもいい。神は人間の物差しで測れず、ルールの外にいる。
 キリスト教はマトリョーシカ構造になっている。色々な要素がどんどん追加されてきた。階層構造になってしまって分かりにくいが、進歩の余地があったともいえる。

 □

4冊目 『キリスト教入門』(山我哲雄)

 パウロやルターが実際なにを問題としたのか。そしてもちろん、実在したイエス(史的イエス)が、何をして、なぜ死んだのかが分かります。さすが2000年の歴史。
 あと、長老派だとか、バプテスト派、メソジスト派とか、聞いたことがあるけどよく分からない概念の整理にもぴったりです。

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結果発表
 さてこの4冊、どれも面白そうですが、みなさまがたは、どの本をいちばん読みたくなりましたでしょうか? では、チャンプ本の発表です!
 ・・・。
 1票差で、次の2冊の決選投票となり・・・。
 『キリスト教は邪教です!』(F・W・ニーチェ)
 『一神教の誕生』(加藤隆)

 ・・・。

 チャンプ本は、『キリスト教は邪教です!』(F・W・ニーチェ)に決定しました。おめでとうございます!

 では次回は、『キリスト教は邪教です!』を課題本とする読書会です。ニーチェか。読んだことないので、関連本も読まないと。

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 下の写真はワインと肉ですが、いま思えばワインとパンにすればよかった。今回はパンじゃなくてリゾットをサーブしました。

 楽しかった!

 では来月も、いい新書とともに、お会いしましょう。


2021年5月29日土曜日

第14回読書会 『宮沢賢治『銀河鉄道の夜』と宇宙の旅』


新書読書会「連鎖堂」を開催しました。今回は課題本の回、本は『天文学者が解説する 宮沢賢治『銀河鉄道の夜』と宇宙の旅』(谷口義明、光文社新書)です。

 賢治も天文も両方楽しめる、一粒で二度おいしい本でした。私はあまり小説を読んでないので、この読書会がなかったら『銀河鉄道の夜』も読まなかったかもしれません。いまさらですが、『銀河鉄道の夜』(宮沢賢治)、べらぼうに美しいですね。

 以下、参加者から出た意見です。


Aさん
  •  賢治の世界を、天文学に引っぱり込んで解釈する具合が楽しい。
  •  カムパネルラが消える「石炭袋」、賢治の創作かと思ったら、天文学の正式名称だとは(302ページ)。
  •  カラーなのがいい。美しい。

Bさん
  •  ミクロとマクロが相似するのを感じた。銀河の回転曲線の図(227ページ)で、卒論で書いた蟻地獄の巣を思い出した。天文の写真は、顕微鏡で見る組織染色画像かと思うことがある。
  •  科学知識がそれほどない時代のほうが、イマジネーションが豊かなのか、と感じた。

Cさん
  •  賢治には未来が見えていたのか。賢治はアルビレオの二重星の真実を知っていたかのよう(248ページ)、など。
  •  賢治は文学も科学もやったが、科学と文学とは、極めると近づくのではないか。見えないものを見ようとすることで。

Dさん
  •  天文や物理をわかりやすく説明してくれるのがいい。
  •  タイムトラベラーの設定が大好物なので、賢治もそうかもしれないと思いたい。
  •  賢治では、高校時代の演劇部を思い出した。そのころは、舞台装置の夜空の星は紺背景に白と思っていたが、この本を読んだ後は星がカラフルに思えてきた。
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 想像をかき立てられる、いい本でした。2枚目の写真は、参加者が持ちよった賢治関連本です。

 楽しかった!ではまた、いい新書とともにお会いしましょう。


2021年3月27日土曜日

第13回読書会 ビブリオバトル・テーマ「宇宙」


新書読書会「連鎖堂」を開催しました。今回はビブリオバトル。

 たまには桁違いなことを考えたい! ということで、テーマは「宇宙」(新書限定)です。宇宙、いいですね。物理の極限、夢幻の根源、現実の宇宙飛行。

 参加は少人数4名ですが、以下の3冊が紹介されました。

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『宮沢賢治『銀河鉄道の夜』と宇宙の旅 天文学者が解説する』(谷口義明、光文社新書)

 本書によれば、宮沢賢治は、(鉱物好きが有名ですが、)銀河や宇宙のこともちゃんと分かって書いている。当時の最先端の本を読んでいたのではないかと。
 著者からは、天文の話を広めたいという情熱が伝わってきます。文章も柔らかくて読みやすく、文系にもとてもお勧めです。

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『宇宙の始まりに何が起きたのか ビッグバンの残光「宇宙マイクロ波背景放射」』(杉山直、講談社ブルーバックス)

 ビッグバンの謎を解く鍵となる「宇宙背景放射」の第一人者による新書です。知らない間の30年に宇宙論が進展していて、30年なんて宇宙の歴史に比べれば極小の短さなのに、どんどん進展したことよ、と思いました。あと、物理学者はけっこう断言します。宇宙背景放射の光が届くよりも先には、何もないと断言してます。
 平易というわけではないので、自分がどのくらい読めているのか、次回の読書会で確認したい。

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『宇宙に「終わり」はあるのか 最新宇宙論が描く、誕生から「10の100乗年」後まで』(吉田伸夫、講談社ブルーバックス)

 宇宙が完全なる虚無へ向かうリアルな根拠づけが、ぞくぞくします。
 今の宇宙(宇宙歴138億年)は若い、というのが意外です。そして、その若い間しか生命は生まれようがないのです。地球生物50億年は、そんな短い間によく生まれた、儚いけれど奇跡的、と感じました。

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 さてこの3冊、宇宙の『始まり』と『終わり』がシンクロしてますが、(発表順もたまたま、始まって終わる、と綺麗でしたが、)みなさまがたは、どの本をいちばん読みたくなりましたでしょうか?

 では、チャンプ本の発表です!

 チャンプ本は、『宮沢賢治『銀河鉄道の夜』と宇宙の旅』! しかも満票(発表者以外の全員の票を集めた)です。おめでとうございます!

 楽しかった! 次回は、『宮沢賢治『銀河鉄道の夜』と宇宙の旅』を課題本とする読書会です。

 来月も、いい新書とともに、お会いしましょう。

2021年3月4日木曜日

『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』(山田奨治)

『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』(山田奨治)

『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』(山田奨治)を読んだ。

 日本の著作権法の法定刑は、世界で一番厳しい。なんと窃盗と同等です。盗みは誰でも悪いと思うでしょうが、コピーを配るのが同じくらい悪いのか。著作権法の第一人者、中山信弘曰く、「法改正としては極めて遺憾である」。本書では、法改正が実際いかになされているかを観察できます。

 文化の創成と拡散にとって、コピーは不可欠な要素です。ところが業界側は、文化を商品カテゴリーの一種だと思っています。そして、普通の人がやっていることを犯罪にしようとしています。法で犯罪を創る。それは法匪の発想です。

2021年2月27日土曜日

第12回読書会 『ルポ 不法移民とトランプの闘い』


新書読書会「連鎖堂」を開催しました。課題本は、『ルポ 不法移民とトランプの闘い 1100万人が潜む見えないアメリカ』(田原徳容、光文社新書)です。

 この本は、明確な解答のない問題について、取材で得た事実を次々に示す本です。つまり、結論を出す類の本ではありません。著者の迷いもそのまま書かれているのが誠実と思います。

 この先、日本にとってもまさに他人事ではない問題について、多様な意見が出て、広く考えることができました。まずは事実を知らないと話しは始まらないと思ったことでした。

 以下、参加者から出た意見です。

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Aさん
  •  本書の著者と同じように、不法移民に対する考えが、ネガティブ寄りからポジティブ寄りに変わったように思う。
  •  『〈敵〉と呼ばれても』(ジョージ・タケイ)と、本書(第3章)を読んで以来、日系人収容所についてもっと知るべきだなと思っている。
  •  不法移民の犯罪者に息子が殺されたローラさんの話し(125頁以下)、感情を動かされた。ただ、犯人の属性のどこに着目するかによって、怒りや哀しみの向かう先が異なることになるのだろうなと思った。

Bさん
  •  「不法」への著者の悩みが、とても印象に残った。
  •  シリア難民が道端で羊を丸焼きにしたエピソード(201頁以下)を読むと、やっぱり国民国家は、文化的バックボーンを前提にしているのだな、と思った。
  •  18世紀から19世紀にかけて作られた国民国家という仕組みが、この先も持つのか、という疑問を感じた。特に、社会契約による国家の成立という説は、移民を考えると成り立ちがたいのではないか。

Cさん
  •  聖域都市を補助金打ち切りで脅すトランプの部分(143頁以下)を読むと、やはり問題となるのはカネか、と思った。
  •  難民を見て、自分の祖父母の苦労を思い出し、心理的に同一化するエピソード(157頁以下)を読むと、やはり問題となるのは心か、と思った。
  •  日系人収用の歴史学習を促す法律制定過程(101頁以下)を読むと、やはり問題となるのは法か、と思った。

Dさん
  •  「その昔、法律など存在しないこの土地に人々が集まり、米国ができたのです。後から来る人を政府が不法者扱いする方がおかしいでしょう?」(135頁)の部分が印象に残った。
  •  雇用ミスマッチの問題が大きいように思った。日本でもそうだが、その国の人々がやりたくないことを、移民が担うという構造は、どう考えるべきか難しい。移民の利益になるところもあるだろうし、雇用ミスマッチをむしろ温存するようにも思うし、色々な齟齬が生じる原因にもなるだろうし。

Eさん
  •  当局に両親の不法滞在を把握されることを恐れてDACA(若年移民に対する国外強制退去の延期措置)申請をためらう娘に対する、母の言葉が最も印象に残った。「私たちは子供に教育を受けさせるためにアメリカに来たの。その機会が得られるのだから、お願い、DACAを取得して」(313頁)
  •  法律違反と悪とは別の概念だ。
  •  国境を管理するということと、現に暮らしている不法移民を人道的に扱うということは、必ずしも二律背反とはいえないはず。

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 楽しかった! そして今回はポークローストがなかなかの出来!

 また来月も、いい新書とともにお会いしましょう。


2021年2月23日火曜日

『系統樹思考の世界 すべてはツリーとともに』(三中信宏)

『系統樹思考の世界 すべてはツリーとともに』(三中信宏)

『系統樹思考の世界 すべてはツリーとともに』(三中信宏)を読んだ。

 面白い。新しい思考方法を獲得できます。演繹・帰納ではない、第三の推論様式を。

 進化や歴史には、再現も実験もありません。ではそれは科学ではないのか。しかし進化や歴史にも、説の善し悪し、つまり仮説選択基準があるはず。それが系統樹思考です。不動の真偽を定めるのではなく、仮説を果てしなく吟味し続けるのです。進化の木、語族の枝分かれ、写本の系統、不幸の手紙の来歴、等々。さらに目覚ましいことに、時が止まった真偽の世界と違い、系統樹思考は時を扱えます。系統樹から時が流れ出すというのです。

2021年2月22日月曜日

『カブーム! 100万人が熱狂したコミュニティ再生プロジェクト』(ダレル・ハモンド)

『カブーム! 100万人が熱狂したコミュニティ再生プロジェクト』(ダレル・ハモンド)

『カブーム! 100万人が熱狂したコミュニティ再生プロジェクト』(ダレル・ハモンド)を読んだ。

 面白い。アメリカの低所得地域には公園がないか、あっても危険です。そこにNPOカブーム!は2千以上の子ども公園を作り、その9割近くを持続させてきました。公共の難題を解決するには、工夫と情熱が両方必要だと、強く思ったことでした。

 工夫は「ビルド・デイ」。数百人のボランティアを集め、公園を1日で完成させるのです。これにより全ボランティアが「自分たちで作った」と思い、公園が、そしてコミュニティが、続いていくのです。そして情熱。著者の生い立ちも、立ち上げ期も発展も、とても力強いです。

2021年2月18日木曜日

『荒くれ漁師をたばねる力』(坪内知佳)

『荒くれ漁師をたばねる力』(坪内知佳)

『荒くれ漁師をたばねる力』(坪内知佳)を読んだ。

 面白い。読みやすい。著者はシングルマザーとして実家もない萩で翻訳などしていましたが、たまたま六次産業化法の申請を手伝ったことから船団代表となり、鰺と鯖以外の混獲魚を「鮮魚BOX」として料亭に直売する認定を得ました。

 ところが一元出荷を謳う漁協からの反対、どころか「潰してやる」「小娘のくせに生意気なんじゃ」という怒号を乗り越える著者、強い。北新地の料亭への営業も、一回の出張で多く回るため、途中で食べたものを吐き戻す凄絶さ。何かを変えるのに、根性が大事なのは当たり前じゃないか。

2021年2月8日月曜日

『ホモ・ルーデンス』(ヨハン・ホイジンガ)

『ホモ・ルーデンス』(ヨハン・ホイジンガ)

『ホモ・ルーデンス』(ヨハン・ホイジンガ)を読んだ。

 遊びは、文化や言葉よりも古い。なんとなれば、動物も遊びますから。遊びは、それよりも根源的な概念に還元できないのです。遊びは遊びのためにあり、何かのための遊びなんて違う。教育のためのゲームとか、学びのためのアクティビティとか、違うのです。

 ホイジンガの観察によれば、遊びとは、①自発的で、②日常生活から切り離され、③いったん受け入れた以上は絶対的なルールに従い、④緊張と歓びの感情を伴うもの。自発的、非日常、ルール、緊張と歓び。なんとこれは、ビブリオバトルそのものではないですか。

2021年2月1日月曜日

『法哲学と法哲学の対話』(安藤馨、大屋雄裕)

『法哲学と法哲学の対話』(安藤馨、大屋雄裕)

『法哲学と法哲学の対話』(安藤馨、大屋雄裕)を読んだ。

 最高に面白い。雑誌「法学教室」に連載され、初学者に法哲学を概説しようという企画ですが、そんな学習的配慮、瞬く間に粉微塵。法哲学者双璧による、全開の討論です。とても説得的と感じた立論が20ページ後には根こそぎ覆される、目も覚める体験を。

 最終章(法哲学と憲法)のタイトルは「最高ですか?」。憲法は98条で「国の最高法規」と規定しますが、最高って言ってればそれだけで「最高ですか?」。そんなのはあの教祖とどう違うのか。つまり、法はなぜ守られるべきなのか。うーん実に、「最高です!」

2021年1月28日木曜日

『果糖中毒 19億人が太り過ぎの世界はどのように生まれたのか?』(ロバート・H・ラスティグ)

『果糖中毒 19億人が太り過ぎの世界はどのように生まれたのか?』(ロバート・H・ラスティグ)

『果糖中毒 19億人が太り過ぎの世界はどのように生まれたのか?』(ロバート・H・ラスティグ)を読んだ。

 効果的なダイエット法は、甘い飲物の原則排除(果物は身体にいいのに、なんと天然果汁はよくない)。あと、小腹が空いたらナッツ。

 ブドウ糖(米などから摂取)と異なり、果糖(主に砂糖から摂取)はアルコールと同じく肝臓でしか分解されないため、処理限界を超えがち。超えるとインスリンの効きが弱まります。すると脳は飢餓状態とみなして、活動量を減らし、脂肪を貯めます。つまり果糖が多すぎると、なんということでしょう、太っても太っても飢餓状態。肥満は意思が弱いというより、バランスの崩れなのです。

2021年1月23日土曜日

第11回読書会 ビブリオバトル・テーマ「現代アメリカ」


新書読書会「連鎖堂」を開催しました。今回はビブリオバトル。テーマは「現代アメリカ」(新書限定)です。

 アメリカはいったい、どうしたというのか。そしてこの先、どうなっていくのか。うーん、いいテーマですね。

 参加は少人数4名ですが、全員発表で、以下の4冊が紹介されました。

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 『宗教国家アメリカのふしぎな論理』(森本あんり、NHK出版新書)

 トランプは決して特異な例外ではない。なぜなら、アメリカには反知性主義の伝統があるからです。伝道集会やラジオで熱く語る牧師など、アメリカの宗教的熱狂は強い。これが大統領選にも、ショービジネスにもつながってきました。
 本書によれば、反知性主義はこれまで長続きしたことはないというのですが…。

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 『アメリカン・デモクラシーの逆説』(渡辺靖、岩波新書)

 アメリカの大本は、ビジネスにある。戦争の裏側にビジネス、銃の裏側にビジネス、そしてもちろん、大統領選の裏側にビジネスです。大統領選はそれ自体がビッグ・イベントですし、大口献金者に見返りがあるというビジネスでもあります。
 プラス面を見れば、アメリカには自分でやるという気概があります。マイナス面を見れば、弱肉強食になってしまうというのです。

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 『トランプのアメリカに住む』(吉見俊哉、岩波新書)

 トランプ当選後のアメリカで暮らした学者の、アメリカ観察記録です。
 例えば「性と銃のトライアングル」の章は、MeToo運動と銃乱射事件の背景を探るもの。アメリカはそのはじめから暴力によって成立した国家で、マチズモ的な価値観への肯定がある。これへの反旗と、歪んだ噴出が、MeToo運動と銃乱射事件だというのです。

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 『ルポ 不法移民とトランプの闘い』(田原徳容、光文社新書)

 良質なジャーナリズムです。まずは事実を知らなければ、話は始まらない。読売新聞記者の、不法移民への考え方、その揺れ動きを、ぜひ追体験されたい。
 不法移民は不法ですが、不法と悪はイコールではない。本書の豊富な事例を読んだ後に、不法移民をどう思うことになるのか、ぜひ体験されたい。

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 さてこの4冊、どれも面白そうですが、みなさまがたは、どの本をいちばん読みたくなりましたでしょうか?
 では、チャンプ本の発表です!

 …。

 なんと今回は、
 『宗教国家アメリカのふしぎな論理』(森本あんり)
 『ルポ 不法移民とトランプの闘い』(田原徳容)
 の2冊が同票、しかも決選投票も同票で決着つかず、しかし次回読む本を決めなければならないのでジャンケンの結果…、

 チャンプ本は、
 『ルポ 不法移民とトランプの闘い』(田原徳容)になりました!
 おめでとうございます!

 楽しかった! 次回は、『ルポ 不法移民とトランプの闘い』を課題本とする読書会です。

 では来月も、いい新書とともに、お会いしましょう。

2021年1月22日金曜日

『「きめ方」の論理 社会的決定理論への招待』(佐伯胖)

『「きめ方」の論理 社会的決定理論への招待』(佐伯胖)

『「きめ方」の論理 社会的決定理論への招待』(佐伯胖)を読んだ。

 著者はゲーム理論やパレート最適を丁寧に検討していきますが、どうもうまく現実を説明できません。そして気づくのでした。経済学は根本から間違ってると。

 経済学は丸ごと、人が自己利益の最大化を求めるという仮説の上に乗ってます。しかし実際、我々はさほど利己的ではありません。なのに利己心仮説が説明原理として普及すると、他人に利己心仮説を適用し、自分だけ取り残される恐怖が生じ、嫌々ながら利己的に選択してしまう。しかし利己心仮説が幻影ならば、そんなのは怯えて何でも怖がってるも同然なのです。

2021年1月16日土曜日

『たとえる技術』(せきしろ)

『たとえる技術』(せきしろ)

『たとえる技術』(せきしろ)を読んだ。

 サプライズでプレゼントをもらった。嬉しい。「とても嬉しいです」よりもっと、嬉しさを伝えたい。そんなときは、喩えましょう。

 「『この犬、他の人に懐くこと滅多にないのよ』と言われたときのようにうれしいです」「大浴場に自分ひとりだけだったときのようにうれしいです」「席替えで窓際になったときのようにうれしいです」。本書には秀逸な喩えが満載です。読めば自分でも喩えたくなります。そこで私から一つ。「珍しい料理の名前を自分だけが知っていたときのようにうれしいです」。皆様も、嬉しさを是非。

2021年1月5日火曜日

『ニュータウンの社会史』(金子淳)

『ニュータウンの社会史』(金子淳)

『ニュータウンの社会史』(金子淳)を読んだ。

 ニュータウンはなぜかいつも病理扱い。そんななか本書はニュータウン側に立ってますので、個人的にはグッと来ます。第一次入居者の苦労とか、懐かしい。あのころ本当に、何もなかった。

 しかし具体的なので、逆に深い批判になっています。つまり、別のあり方もありえた。新住宅市街地開発法は農業を根こそぎにし、(86年の改正まで)職場すら原則禁止しました。その結果が広大な「無産業地帯」。なぜ職場を作らなかったのか。「『乱開発の防止』という名の地域社会の『乱開発』以外のなにものでもなかった」と。