2021年3月4日木曜日

『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』(山田奨治)

『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』(山田奨治)

『日本の著作権はなぜこんなに厳しいのか』(山田奨治)を読んだ。

 日本の著作権法の法定刑は、世界で一番厳しい。なんと窃盗と同等です。盗みは誰でも悪いと思うでしょうが、コピーを配るのが同じくらい悪いのか。著作権法の第一人者、中山信弘曰く、「法改正としては極めて遺憾である」。本書では、法改正が実際いかになされているかを観察できます。

 文化の創成と拡散にとって、コピーは不可欠な要素です。ところが業界側は、文化を商品カテゴリーの一種だと思っています。そして、普通の人がやっていることを犯罪にしようとしています。法で犯罪を創る。それは法匪の発想です。

2021年2月23日火曜日

『系統樹思考の世界 すべてはツリーとともに』(三中信宏)

『系統樹思考の世界 すべてはツリーとともに』(三中信宏)

『系統樹思考の世界 すべてはツリーとともに』(三中信宏)を読んだ。

 面白い。新しい思考方法を獲得できます。演繹・帰納ではない、第三の推論様式を。

 進化や歴史には、再現も実験もありません。ではそれは科学ではないのか。しかし進化や歴史にも、説の善し悪し、つまり仮説選択基準があるはず。それが系統樹思考です。不動の真偽を定めるのではなく、仮説を果てしなく吟味し続けるのです。進化の木、語族の枝分かれ、写本の系統、不幸の手紙の来歴、等々。さらに目覚ましいことに、時が止まった真偽の世界と違い、系統樹思考は時を扱えます。系統樹から時が流れ出すというのです。

2021年2月22日月曜日

『カブーム! 100万人が熱狂したコミュニティ再生プロジェクト』(ダレル・ハモンド)

『カブーム! 100万人が熱狂したコミュニティ再生プロジェクト』(ダレル・ハモンド)

『カブーム! 100万人が熱狂したコミュニティ再生プロジェクト』(ダレル・ハモンド)を読んだ。

 面白い。アメリカの低所得地域には公園がないか、あっても危険です。そこにNPOカブーム!は2千以上の子ども公園を作り、その9割近くを持続させてきました。公共の難題を解決するには、工夫と情熱が両方必要だと、強く思ったことでした。

 工夫は「ビルド・デイ」。数百人のボランティアを集め、公園を1日で完成させるのです。これにより全ボランティアが「自分たちで作った」と思い、公園が、そしてコミュニティが、続いていくのです。そして情熱。著者の生い立ちも、立ち上げ期も発展も、とても力強いです。

2021年2月19日金曜日

『愛しのオクトパス 海の賢者が誘う意識と生命の神秘の世界』(サイ・モンゴメリー)

『愛しのオクトパス 海の賢者が誘う意識と生命の神秘の世界』(サイ・モンゴメリー)

『愛しのオクトパス 海の賢者が誘う意識と生命の神秘の世界』(サイ・モンゴメリー)を読んだ。

 タコと著者や水族館員とのふれ合いの物語。タコは足を広げて3mのミズダコです。ヒトの両手とタコの足で絡み合ったり、タコの頭をなでたりするのです。タコは眼がいいので、水面に顔を出してこちらをじっと見てきます。かわいい。私もタコとふれ合いたい。

 タコは遊びます。空き瓶をくるくる回したりします。タコには知性があります。それはヒトとは系統樹からみて全く別のルートなのに、確かに知性といえるものなのです。タコと戯れていると落ち着くらしい。「深い静けさを分かち合う」叙述が、とても良いです。

2021年2月18日木曜日

『荒くれ漁師をたばねる力』(坪内知佳)

『荒くれ漁師をたばねる力』(坪内知佳)

『荒くれ漁師をたばねる力』(坪内知佳)を読んだ。

 面白い。読みやすい。著者はシングルマザーとして実家もない萩で翻訳などしていましたが、たまたま六次産業化法の申請を手伝ったことから船団代表となり、鰺と鯖以外の混獲魚を「鮮魚BOX」として料亭に直売する認定を得ました。

 ところが一元出荷を謳う漁協からの反対、どころか「潰してやる」「小娘のくせに生意気なんじゃ」という怒号を乗り越える著者、強い。北新地の料亭への営業も、一回の出張で多く回るため、途中で食べたものを吐き戻す凄絶さ。何かを変えるのに、根性が大事なのは当たり前じゃないか。

2021年2月15日月曜日

『哲学入門』(戸田山和久)

『哲学入門』(戸田山和久)

『哲学入門』(戸田山和久)を読んだ。

 超面白い。ふと思うに、なぜ、私が考えるということがあるのか。なぜ、正しいということがあるのか。なんと哲学的な。一方で、考えるといっても、結局は脳内の化学反応にすぎない、とも思うのです。

 本書は後者(この世にあるのは物理世界だけ=物理主義)バリバリで、哲学入門なのにアリストテレスもカントも出てきません。物理世界に、段階を追って、意味、目的、はては自由を導入していきます。例えば、間違いということがない物理世界に、生物の間違い可能性から意味を導入するなど、心震える試みなのです。

2021年2月12日金曜日

『ロンドン・ジャングルブック』(バッジュ・シャーム)

『ロンドン・ジャングルブック』(バッジュ・シャーム)

『ロンドン・ジャングルブック』(バッジュ・シャーム)を読んだ。

 インドの少数民族ゴンド族には、家の土壁に絵を描く習わしがあります。彼らは近ごろ職を求めて都市へ移住していますが、そこで彼らの絵の力強さや敬虔さが見いだされました。本書はゴンド族の著者が、ロンドンのインド料理店の壁画を頼まれ、初めて外国に出たときの紀行画です。

 例えば、飛行機は象。著者には「象が飛ぶのと同じくらい奇跡に近い」。この象の絵がとても印象的です。著者の目に映ったロンドンはジャングル。パブはコウモリの集いとか。あと、シルクスクリーン印刷のせいか、本の香りが良いのです。

2021年2月8日月曜日

『ホモ・ルーデンス』(ヨハン・ホイジンガ)

『ホモ・ルーデンス』(ヨハン・ホイジンガ)

『ホモ・ルーデンス』(ヨハン・ホイジンガ)を読んだ。

 遊びは、文化や言葉よりも古い。なんとなれば、動物も遊びますから。遊びは、それよりも根源的な概念に還元できないのです。遊びは遊びのためにあり、何かのための遊びなんて違う。教育のためのゲームとか、学びのためのアクティビティとか、違うのです。

 ホイジンガの観察によれば、遊びとは、①自発的で、②日常生活から切り離され、③いったん受け入れた以上は絶対的なルールに従い、④緊張と歓びの感情を伴うもの。自発的、非日常、ルール、緊張と歓び。なんとこれは、ビブリオバトルそのものではないですか。

2021年2月4日木曜日

『印刷という革命 ルネサンスの本と日常生活』(アンドルー・ペティグリー)

『印刷という革命 ルネサンスの本と日常生活』(アンドルー・ペティグリー)

『印刷という革命 ルネサンスの本と日常生活』(アンドルー・ペティグリー)を読んだ。

 印刷そのものが革命なのではありません。情報の流通コストを下げるだけでは儲からない。実際に情報が儲けを生んだのは、人々の対立だったのです。

 写本から印刷本になって初めて、何部刷るかという選択、在庫がはけるのかという経営の難問が生じました。そのため、確実な需要のある本(ラテン語の古典と祈祷書)という保守的選択に流れがちでした。これを突破したのが宗教改革です。「ルターはとんでもない勢いで生産性を発揮しはじめた」。刷れば刷るほど儲かる、ドイツの印刷業は10年で7倍に成長したのです。

2021年2月1日月曜日

『法哲学と法哲学の対話』(安藤馨、大屋雄裕)

『法哲学と法哲学の対話』(安藤馨、大屋雄裕)

『法哲学と法哲学の対話』(安藤馨、大屋雄裕)を読んだ。

 最高に面白い。雑誌「法学教室」に連載され、初学者に法哲学を概説しようという企画ですが、そんな学習的配慮、瞬く間に粉微塵。法哲学者双璧による、全開の討論です。とても説得的と感じた立論が20ページ後には根こそぎ覆される、目も覚める体験を。

 最終章(法哲学と憲法)のタイトルは「最高ですか?」。憲法は98条で「国の最高法規」と規定しますが、最高って言ってればそれだけで「最高ですか?」。そんなのはあの教祖とどう違うのか。つまり、法はなぜ守られるべきなのか。うーん実に、「最高です!」

2021年1月28日木曜日

『果糖中毒 19億人が太り過ぎの世界はどのように生まれたのか?』(ロバート・H・ラスティグ)

『果糖中毒 19億人が太り過ぎの世界はどのように生まれたのか?』(ロバート・H・ラスティグ)

『果糖中毒 19億人が太り過ぎの世界はどのように生まれたのか?』(ロバート・H・ラスティグ)を読んだ。

 効果的なダイエット法は、甘い飲物の原則排除(果物は身体にいいのに、なんと天然果汁はよくない)。あと、小腹が空いたらナッツ。

 ブドウ糖(米などから摂取)と異なり、果糖(主に砂糖から摂取)はアルコールと同じく肝臓でしか分解されないため、処理限界を超えがち。超えるとインスリンの効きが弱まります。すると脳は飢餓状態とみなして、活動量を減らし、脂肪を貯めます。つまり果糖が多すぎると、なんということでしょう、太っても太っても飢餓状態。肥満は意思が弱いというより、バランスの崩れなのです。

2021年1月22日金曜日

『「きめ方」の論理 社会的決定理論への招待』(佐伯胖)

『「きめ方」の論理 社会的決定理論への招待』(佐伯胖)

『「きめ方」の論理 社会的決定理論への招待』(佐伯胖)を読んだ。

 著者はゲーム理論やパレート最適を丁寧に検討していきますが、どうもうまく現実を説明できません。そして気づくのでした。経済学は根本から間違ってると。

 経済学は丸ごと、人が自己利益の最大化を求めるという仮説の上に乗ってます。しかし実際、我々はさほど利己的ではありません。なのに利己心仮説が説明原理として普及すると、他人に利己心仮説を適用し、自分だけ取り残される恐怖が生じ、嫌々ながら利己的に選択してしまう。しかし利己心仮説が幻影ならば、そんなのは怯えて何でも怖がってるも同然なのです。

2021年1月19日火曜日

『闇(ダーク)ネットの住人たち デジタル裏社会の内幕』(ジェイミー・バートレット)

『闇(ダーク)ネットの住人たち デジタル裏社会の内幕』(ジェイミー・バートレット)

『闇(ダーク)ネットの住人たち デジタル裏社会の内幕』(ジェイミー・バートレット)を読んだ。

 ドラッグ闇市場、児童ポルノ、女性ポルノ実況、ネトウヨ、自殺サイト。取材力と臨場感がすごい。廃墟になった紡績工場団地の教会に集うハッカーとか。

 ネット暗部に棲むのはどんな人々でしょう? 狂った奴ら?「私は、本書の主な登場人物のほとんどに、まずオンラインで、次にオフラインで会ったが、より好感が持てたのは常に現実世界の彼らの方だった」。ネットには、フェイストゥフェイスの部分が載りません。そこを想像力が誇張して補ってしまい、相手を怪物に変えてしまいます。正体見たり枯れ尾花なのです。

2021年1月16日土曜日

『たとえる技術』(せきしろ)

『たとえる技術』(せきしろ)

『たとえる技術』(せきしろ)を読んだ。

 サプライズでプレゼントをもらった。嬉しい。「とても嬉しいです」よりもっと、嬉しさを伝えたい。そんなときは、喩えましょう。

 「『この犬、他の人に懐くこと滅多にないのよ』と言われたときのようにうれしいです」「大浴場に自分ひとりだけだったときのようにうれしいです」「席替えで窓際になったときのようにうれしいです」。本書には秀逸な喩えが満載です。読めば自分でも喩えたくなります。そこで私から一つ。「珍しい料理の名前を自分だけが知っていたときのようにうれしいです」。皆様も、嬉しさを是非。

2021年1月12日火曜日

『日本のすまい 内と外』(エドワード・モース)

『日本のすまい 内と外』(エドワード・モース)

『日本のすまい 内と外』(エドワード・モース)を読んだ。

 モース曰く、明治初期の日本の住まいは、軽やかで、簡素で、美しい。「いつか役にたつだろうだろうというようなケチな精神はなく、がらくたをいたずらにとっておくことがない」。ああ。なんかすいません。

 モースのスケッチが美しいです。数本の細竹を用いた欄間や、二枚の薄板で山脈を表現した欄間、「センスがよい」という直球の誉め言葉です。そこには、ノスタルジーやオリエンタリズムにとどまらない、普遍的な美があります。本書は、物で埋もれそうな現代の住まいを美しくする、きっかけになりうるでしょう。

2021年1月5日火曜日

『ニュータウンの社会史』(金子淳)

『ニュータウンの社会史』(金子淳)

『ニュータウンの社会史』(金子淳)を読んだ。

 ニュータウンはなぜかいつも病理扱い。そんななか本書はニュータウン側に立ってますので、個人的にはグッと来ます。第一次入居者の苦労とか、懐かしい。あのころ本当に、何もなかった。

 しかし具体的なので、逆に深い批判になっています。つまり、別のあり方もありえた。新住宅市街地開発法は農業を根こそぎにし、(86年の改正まで)職場すら原則禁止しました。その結果が広大な「無産業地帯」。なぜ職場を作らなかったのか。「『乱開発の防止』という名の地域社会の『乱開発』以外のなにものでもなかった」と。